第六界—5 『海ノ開界』
「お前いつの間にそんな怪物に……!」
「怪物じゃないッ……怪獣ダァアァァァァアア!!!」
ナイトの驚き……動揺した様な言葉を聞いた界獣は咆哮を轟かせ、そしてその言葉を自身で体現する様に両腕を振り回し、空まで昇る程の、巨壁の様な大津波を引き起こす。
溢れ出した波は界獣を中心にして広がり……進行し、展望台より上の全ての存在を呑み込み、破壊した。
木っ端微塵になった柵と木々が後方へと流されるのとは反対に、鎧達は前方へ……界獣の元へと海流に乗せられ引き寄せられる。
「なんだこの吸引力……ッまずい!」
俺が進む先、このまま行けば辿り着くであろう到達点には界獣がいた——その巨大な口をほぼ直角になるまで開き、吸い込み、捕食しようとしていた。
「どうする……どうすればいいナイト! お前あいつの弱点知ってたしこの怪獣……いや界……どっちでもいいやこのバケモン状態の弱点も分かるだろ!?」
「知らない……全く分からない! 俺の知っているシーワールデスはこんな力を持っていなかった……!」
ナイトの叫び声は明らかに震えており、その精神は正常な状態ではなかった。
単純にピンチで慌てている……というのもあるのだろうが、おそらくそれだけじゃない。
これまでは認知していた力と戦っていた為大体の事が……ワールデスの行動、能力の全てが想定内だったのに、この界獣の力は全くの想定外……想定外の事が発生する——という事自体を想定していなかったナイトにとってはあまりにも衝撃が強かったのだろう。
「自分で考えるしかないか……!」
「私も考えはするけどッ……出来るだけ早く考えてよね……多分食べられるより前にバトラーの鎧に限界が来るッ!」
俺と平行して……同じスピードで波の中を進むアーマードバトラーは十字架のバイザーを指さして言う。
そのバイザーはもう既に崩壊寸前……白い光の上に無数の黒い、蜘蛛の糸の如くヒビを生やしており……彼女の言う通り、あと数秒もすれば、乱雑に押し込まれたおもちゃ箱の中で押し潰される玩具の様に——壊れる事は間違いなかった。
「対処法……ゼァァアッ……力技で抜け出すのは無理かッ!」
両腕で振り回し、海水を吹き飛ばそうとする……が、アーマードナイトのパワーを以てしてもその目論みは実現せず、海面が微かに揺れるだけで終わる。
どうやら界獣はこの吸い込みで決着をつけるつもりであり、その為に——決して逃さない為に水圧を最大に……海の世界に出来る限界にまで圧を掛けているらしい。
「ッ……もう時間がないッ!」
「冷ッ……海水入ってきたッ……!」
もう既に視界の殆どが界獣の口内に覆われおり、それはつまり界獣との距離が——捕食されるまでの時間が残り僅かになっている、という事である。
もう時間が無く……更に、もう既に内部に海水が侵入してくる程アーマードバトラーの鎧の崩壊が進行している——となると、もう考えたりする余裕も無い……何でもいいから行動しなくてはならなかった。
何でもいいから、海水の圧により身動きの取れない様な、この状況で行動出来る事——
「これしかないなァナイトサイザァッ……をそのまま流す!!」
「バトライルブラスターも流す?」
「やったとして何の意味があるんだそれ」
右手の中に作り出したナイトサイザーを離し、そのまま離して海流に乗せて流した。
ナイトサイザーは鎧達を置き去りにし波を貫きながら界獣の口内へと流れ……飛んで行き……そして——
「ジェァッ……ゥガァァア!?」
「よし行くゼッ……ァァアア!」
ナイトサイザーの流れ着いた場所は界獣の口内であり、そのまま界獣の喉奥に突き刺さり——貫いた。
界獣はその鋭く……冷たい痺れる様な痛みに悲鳴を上げ、周囲の海を青黒い血の色に染め上げる。
そして生まれた一瞬の隙を見て、吸引が停止した瞬間を狙い、アーマードバトラーの腕を掴み、両足で海水を蹴り飛ばして飛び上がる。
「とりあえず展望台の方にッ……!」
海面に、死んだ魚の様に浮かび上がっていた灰色の……元は海底の街の中のどこかの家の屋根であったと思われる瓦を足場とし、水浸しになりながらもなんとか床を露出させる展望台へ向かい跳躍しようとする……が。
「俺の海からは逃げられないって言っただろうがァア!?」
「クソ……ッゼァァアア!」
「ひぁッ……」
跳び——飛び立つ寸前、界獣の、海面から飛翔するクジラの様に姿を現したその動作によって足場は海の中に取り込まれ、展望台への逃亡は失敗に終わる。
とりあえず、アーマードバトラーを展望台の方へ投げ飛ばして防御……反撃の構えを取る——だが。
「どうすんだこれッ……」
「……逃げろ」
「逃がさないってんだろうガッ!」
防御した所で、こんな巨体から繰り出される攻撃……どころか、のしかかられただけでナイトの鎧が砕け、俺自身も致命傷を負う事なってしまうだろう。
そんな、マイナス方向の思考を……迫り来る凡そ50mの肉体を、呆然と眺めながら巡らせていた。
「ジェルガォァア!」
「ッ……防御と反撃を両立させるならアーマーパーッ……なっ!?」
その青く、鋭い鰭を揺らす右腕が真上から叩き付ける様にして落ちてくる。
遠くに……高所に位置していた時はゆっくりと、じわじわと接近してきている様に見えていたのだが……一定距離にまで近付いてきた途端に急加速——したかの様に視界に映った。
1度ナイトの鎧を弾け飛ばさせ防御と共に少しでもダメージを与えようとするが想定よりも速度的にも速く、時間的にも早くに自分の元に到達する為、そのまま——無防備のままで界獣の拳を受ける——ことは無かった。
「ジェラっ!?」
「さっき助けてもらった分の借りは返したよ……!」
黄金の煌めく光線が界獣の、無数の瞳の内の1つを貫き……界獣の意識が、そして視線がその方向に向いた事で拳は止められる。
界獣の向いた方向には海面を駆け回り、バトライルブラスターのトリガーを連続して引くアーマードバトラーの姿だった。
「そういやさっき俺の脳みそぶち抜いてくれたなァァアア金ピカ野郎ッ!」
界獣は頬に亀裂が走る程大きく口を開き、体内のエネルギーを放出し、青白い光線としてアーマードバトラーの駆ける周辺の海ごと消滅させようとする。
海面は光線に触れた瞬間に蒸発、界獣の視界の先を灰色の水蒸気で埋め尽くす。
「黒姫ッ……!」
「静かに縮こまってりゃ死なずに済んだのによォ!」
光線の閃光が消えた後、そこにあのやかましい程煌びやかに輝く黄金の鎧は存在は無かった。
その状況の光景を視認して、俺も、界獣も海色の光線がアーマードバトラーを飲み込み、消失させたのだと認識した……が——
「バトルッ……ディスポーズ!」
「ッじぇぁ!?」
「そのくらいの速さで私達に追い付けると思わないでよねぇッ……!」
「光速程度、私とお嬢様の速度の足元にも及びません」
水蒸気の中から、宇宙の暗闇の中を駆ける光——彗星の如く煌めく黄金の光線が現れ、界獣の頭部を貫通する。
バトライルブラスターの必殺の光線により水蒸気の壁には大きな空白が生まれ、その中で、アーマードバトラーはマントをなびかせがら、後方へと仰け反る界獣を、嘲笑う様に言い放つのだった——
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