第四界—4 『執事ノ鎧』
——灰色の塀に囲まれ、灰色の校舎に見下ろされる灰色の地面……その上には夜空という暗闇を連想させるコートを風になびかせる少年と、銀河の星々を連想させる様なドレスを纏う少女が立ち、向かい合っていた。
「おい朝日、本当に黄金 黒姫と戦うのか?」
「そうだけど……」
ナイトは俺の周りを浮かび、飛び回りながら、気乗りしない様に……遠回しに忠告でもする様に言う。
「アーマード同士で戦う事に何か問題でもあるのか?」
「別にアーマード同士の戦闘したからといってどうにかなるわけではない……だがもしこの戦いで怪我でもしてワールデスとの戦いに支障をきたしたらどうする」
「それは俺も思った……けど、そういうリスクがあると理解した上で、命を賭けない、試合としての戦いをしてみたくなってさ」
これまでしてきたアーマードナイトとしての戦いは命を賭け、懸けて、そして命を奪う……そんな罪と業を背負う戦いだった……だが今からするアーマードバトラーとの戦いは命を奪われる事も奪う事もない……戦いを、せっかく手に入れたこの力を楽しんでも許される戦い、そんなものやらなければ損だ。
「はぁ……まぁ訓練代わりにも、メンタルの息抜きにもなるしいいか」
「もちろん怪我はしないように、させないようにするから安心しろ……!」
「頼んだぞ……」
ナイトはどこか諦めた様に、ため息混じりに呟き、俺の背後で動きを止め、前方の黒姫と金をベースに黒のラインを走らせ、また黒いヒゲの様な装飾を生やした鎧に視線を送る。
「お嬢様、本当にお戦いになられるつもりですか? このような不必要な戦いでお嬢様が負傷してしまったら……」
ナイトの視線の先、髭を生やした鎧……執事の鎧 バトラーは黄金 黒姫の周りを舞い、心配する様に、お節介気味に黒姫に対して発言する。
「はぁ……心配し過ぎだよバトラー、危なくなったら逃げるし、何より私は……アーマードバトラーは戦って怪我する程弱くはないでしょ?」
「そうかもしれませんが……分かりました、これ以上は危険だと、そう判断したら強制的に分離し戦闘を終了させます……それでよろしいですね?」
「うん、それでいいよ」
「分かりました……それでは……」
話がついたバトラーはナイトと同じ様に黄金 黒姫の背後で動きを停止させ、ナイトに視線を、話が終了した事を示す合図を送った。
「朝日 昇流とその鎧さん! もう戦闘開始にしてもいいよね!?」
黒姫は校庭の端から端へと届かせる為、前傾姿勢になり、両手をメガホンに見立てて叫ぶ。
「あぁ大丈夫だ! いつでも始められる!」
「おーけい……それじゃあ戦闘を開始……
黒姫はワールデスの宣言を真似する様に言い、それと共に両腕をクロスさせ、前に出し、そして両拳を強く握り締めた……その構えはまるで……そう、ヒーローの戦闘開始の構え、つまり、いわゆる変身ポーズの様だった。
「お前もしてみたらどうだ? 変身ポーズ」
「……俺はヒーローじゃない……だからやらない」
「別にヒーローだからする訳じゃない……戦う前に何かポーズ……構えを取った方が気合い入るだろ? それに折角向こうがポーズしてんのにこっちがしないのは失礼じゃないか?」
「……分かった、やればいいんだろやれば……ッゼァァ……!」
右腕を上げ、振り下ろし、左腕と共に大きく回し円を象り、そして右腕を縦にし左腕を垂直に合わせる……その動作、ポーズの段階事に風を切る、宇宙という暗闇と同質の真空を一瞬の間だけ生み出し、軌道とした。
「「……」」
向かい合う2人は、互いの変身ポーズを、戦いの型を見つめる。
俺は黒姫が両腕を作り出した十字架を、
黒姫は俺が両腕で象るその彼方の星を……
互いの十字を、2つの意思が交わる、その意を示す四つ辻を見つめ、そして……
「「アーマード!!!」」
そして装甲の、融合の叫びを放ち、その瞬間に俺と黒姫は変身ポーズを最後の段階まで進め、俺はアーマードナイトの、黒姫はアーマードバトラーの姿で肉体を覆った。
「俺が勝つ……!」
アーマードナイトはロケットパンチでも放つ様に右腕を前に出し、その腕に曲げた左腕を乗せる。
アーマードバトラーは両腕を左右に広げ、伸ばし、全身で十字架を描く。
「私の物になってもらうよ……力も勝利も何もかも!」
戦姫の鎧であり執事の鎧であるアーマードバトラー……その鎧は黄金色をベースカラーとし、外は黒く、内は赤い腰マントをなびかせ、黒のラインを生やし、そしてそのバイザーは十字架型で、超新星の如く白金の輝きを煌めかせていた。
「……ッ! ゼアァァッ!」
流れる沈黙の中、アーマードバトラーが動き出すのまで待機しようとしたが一切の動き、行動する直前に生じる体勢のブレが見れなかった為こちらから先に動く、先制攻撃をする為右足を前に出し、地面を蹴り飛ばそうとした……その時。
「なっ……どこに行っ……」
消失した、俺の視界からロストした……
黄金の鎧の、黄金 黒姫の肉体を内包したアーマードバトラーの姿は俺の目の前の光景から、突然、なんの前触れも無く完全に、神に障り神隠しにでもあったかの様に消え去った。
「どこに……」
見つからない、見当たらない、その豪華で遥か彼方から横目で見ようと見つかりそうな鎧は視認出来ない……が、見つけられなかったとしても、それでも俺は次の瞬間アーマードバトラーが今現在、どこに存在しているのかを理解する。
「リッ……ラァァ!」
「ッ……!?」
突然、なんの前ぶりもなくいきなり……いや前ぶりが、前兆が無かったわけでは無い。
アーマードバトラーが姿を消した事を前ぶりにしてそれは起こった、俺を強襲した。
「ぎっ……ぶぁぁあぁあ!?」
現在、その直前に、既に俺の視界の死角に、攻撃の通る範囲へと侵入していたアーマードバトラーが刹那の間に放たれた無限に近しい回数の蹴りにより、俺の理解が追い付いた瞬間、衝撃と苦痛が一斉に押し寄せ唸る様な咆哮を放つと共に俺の肉体は、アーマードナイトという鎧は、後方斜め上の空へと舞い上がらせられる。
「動きが見えなかった……ッおいナイト! 今の見えたか!?」
「一般生物達と比べ目は良いつもりだったが……移動に関しては一切見えなかったな」
「となると……」
となると、移動をせず、死角に入り込んだのだとすると……
「瞬間移動か……?」
瞬間移動……移動せず、移動出来る、そんな能力、バトル物、能力物のアニメや漫画で見ない事は無いような、名の知れた、名高い能力。
「いや、多分だが違うな……一瞬であの回数の蹴りを放っていた感じ……単純に速く動けるのだろう。」
「特殊能力じゃなくて身体的能力って事か……!」
身体的能力という事は、能力により高速化するのではなく、肉体そのものが、初めから高速であり、当人の目線では高速で動いておらず周囲の動きが遅い様に見えるのだろう。
「けどそれ……瞬間移動以上に厄介じゃないか? 能力ならそれを使えなくさせる方法が何かあるかもしれないけど身体的能力だっていうんならアーマードバトラー……その中身の黄金 黒姫が生きている限り瞬間移動と同レベルの……攻撃に利用出来る分更に厄介な高速移動がやめられる事は無いってなる」
ゲームで例えるとすると……そう、RPGの敵で、一撃で体力の殆ど全て……1だけを残す魔法を使う魔物と、1回の物理攻撃で体力の半分を持っていく魔物、どちらが厄介か……答えは後者、魔法ならマジックポイントが尽きてしまえば使えない、だが物理攻撃は何度でも、どれだけターン数が積み重なろうと放たれてしまう。
「別に高速移動なら防げるぞ? 右足か左足……どっちも潰してやりゃ歩けなくなるだろ」
「確かに……」
確かに、物理攻撃特化型の敵への対策方法は部位破壊により肉体自体を扱えなくする、又は眠らせたりなどして動きを無くさせる……ナイトに眠らせたり痺れさせる能力は無いから攻略法は足を潰す事ただ1つ……
「ってそんな事する訳無いだろ!?」
戦う前に言った通り、この戦いの中では怪我しないし相手にもさせない、させてはならない。
「まぁしないだろうな……となると……対策方法は無いな、根性か閃きでどうにかしろ」
「始まってすぐ諦めんなよ……」
人間と人外のコンビによる戦闘物、というと人外側の発想力や知識によって勝利するのが定番だと思うのだが……今のところ能力について解説してくれるだけで勝ちに直結する何かをナイトがした記憶が無い……というかスノーワールデス、カタナワールデス、フラワーワールデスの3体とも俺の発想で勝っている……こいつの存在理由って不意打ちされた時の防御手段とかくらいしか無いんじゃ……いや結構大事な役割だなそれ。
「……勝ち方について考え込んでる最中悪いが1つ報告するぞ」
「なんだ……?」
勝ち方とは関係無い事を、なんならお前の悪口を脳内で語っていたんだが……まぁ言わないでおこう。
「校庭にアーマードバトラーの姿が無い」
「ッ……!」
校庭に視線を向け、注視してみると、ナイトの言う通りアーマードバトラーの姿は無く、ただの質素な、灰色の何も無い校庭が広がるだけだった。
校庭以外にも、窓から見える範囲の校舎と屋上にもその姿は無く、校外にあの豪華な、金色の目立つ鎧が月光を反射させていないかか軽く確認してみるが見つからない……となると、校庭に、校舎に、街に……地上に居ないという事はつまり……
「上か……!」
「正解だよッ……」
俺の上、つまり空中、そして俺の背後に……灰色の地面という床と、灰色の空という天井に挟まれた空間にアーマードバトラーは居た……だが、ただ居ただけでは、そこに存在しているだけではなかった。
「でも、正解を選んだとしても……」
アーマードバトラーは灰色の空を背景に、月光による逆光に背を照らされながら、十字架のバイザーを煌めかせながら……
「君の敗北、そして私の勝利はもう決定している……!」
金と銀を混ぜ合わせた、実戦用ではなく、観賞用だと勘違いする程に贅沢な形を持つ銃を手にし、そしてその銃口は、振り帰った俺の頭部に、アーマードナイトの仮面にピッタリと当てられており……放たれた場合、夜空に描かれるであろう弾道は、軌道線は、殺意の道筋は、俺の脳天を通過していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます