第43話 覚悟

「――!——!——!」


誰かの声が鼓膜を叩く。


「ううん………」


パチリ、と目を覚ますと、こちらを覗く金髪の少女の姿が映った。


「ユウト!」


「ここ、は……」


少なくともここがオルトランデにある自分の部屋でも船で割り当てられた部屋でないのも理解できた。


というか、なぜ自分は倒れているんだ?


何か、変な夢を見ていた気がするんだが、頭に靄がかかったみたいに曖昧で、思い出すことができない。


「医務室よ」


答えた少女の方を見て、ヴァネッサがいたことに気づいた。


周りを見回すと、彼女とルイーゼだけでなく、アルバートとハンナもいることに気が付いた。


「みんな……どうしてここに……」


裕斗はそこで、自分の左腕の異変に気づいた。


おかしい。


しびれているように感覚が鈍く、震えも止まらない。


「左腕が……」


「後遺症だよ」


困惑する裕斗に答えを出したのは壁に背を持たれていたハンナだった。


「リミッターを解除したことによる多大な情報量に脳が耐えられなかったんだろう。脳の一部が傷ついたんだ。残念ながら、魔導具での治療もできない」


「そう、ですか……」


瞬間、視界がぶれる。


じんじんと痛む左頬から、自分がぶたれたことに遅れて気づいた。


「ルイーゼ……」


裕斗は自らの頬を叩いた彼女を見る。彼女の眦には涙がたまっていた。


「無茶をするなと……言っただろう。なのに、こんなことをして……どれだけ心配したと思っているんだ!」


胸元に顔を埋め、ワンワンと泣くルイーゼの姿はいつもの彼女の姿とはあまりにかけ離れている姿に、裕斗は困惑しながらも申し訳なく思った。


「……ごめん」


何も言い返せず、謝るしかなかった。


「まあまあ、そう言うなよ」


ポン、と泣きじゃくるルイーゼの肩にハンナの手が置かれる。


「あのままリミッターを解除しなかったらユウトは死んでたんだ。こいつに非はない」


「いや、僕が悪いんです」


裕斗はフルフルと顔を横に振る。


もしかしたら、もっと最善の方法があったのかもしれない。


なのに、安易に自分の身を危険にさらすような行為をして、結果左腕に後遺症を抱えてしまった。


だからこそ、同じ過ちはしない。


「もう二度と、リミッターの解除はしません」


裕斗の宣言にみんなは固まった。


「?」


みんながなぜぞのような反応をしたのか分からず、頭に疑問符を浮かべる。


「ユウト……すごく言いずらいんだが」


歯切れ悪く、アルバートが言った。


どうやら“ランスロット”が暴走してしまったらしい。


今は暴走しておらず、大丈夫らしいが、また暴走するかもしれないとのことだ。


「そんな……」


常時暴走の可能性があるということは、もう運用ができないかもしれないということ。


それはつまり、裕斗はもう二度と“ランスロット”に乗れないことを意味する。


裕斗が絶望していた、その時だった。


「「「!」」」


突然みんなが耳の通信魔導具に手を添える。


そこで何かを聞いたのか、驚いたように目を見開いた。


「ど、どうしたの……?」


裕斗の問いに、ヴァネッサが脂汗を滲ませながら答えた。


「……近くから魔導騎士の大群が来ているそうよ」


「魔導騎士が!?」


「クソ!タイミングが悪すぎるぜ!今出撃できるのは残った戦闘機と“トリスタン”だけだってのに!」


アルバートの苛立ちから、それだけ事態は重いということが理解できる。


なら、自分がやるべきことは一つだ。


「アルバートさん。今、“ランスロット”は暴走してないんですよね?」


「お、おう。……お前まさか」


こくん、とアルバートの予想を肯定するように頷く。


「はい。僕も戦います」


「お、お前!自分が何言ってるのか分かっているのか!」


先程まで涙を流していたルイーゼが反論する。


しかし、裕斗はそれを諭した。


「分かってる。けど、人手が足りないんでしょ?機体を動かすことができるなら、今は使うべきだ」


「で、でも、左腕が……」


「このくらい大丈夫さ。機体と接続すれば戦闘に支障はない」


「……分かった。だが、今度こそ約束だ。必ず無茶をするな。分かったな?」


「ああ、もちろん」


「私も出るわ」


ヴァネッサが前に出る。


「ヴァネッサも?……けど、魔導騎士が。まさか戦闘機で?」


「あるわ、一機だけ。敵から奪った奴だけど」


「そうか。じゃあ、行こう」


「ああ」


「ええ」


ルイーゼとヴァネッサは二人とも力強く頷いた。

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