第39話 スレイプニル
時は数分遡り、地上ではルイーゼが戦っていた。
「クッ!」
ルイーゼは敵機を落とそうと弓を引く。
しかし、対峙する須藤麻衣の魔導騎士の出す雷によって矢を落とされ、近づくことすらままならない。
「あはははは!」
麻衣の笑い声がホロモニター越しに聞こえる。
「そんな矢の攻撃、私の“スレイプニル”の雷に届くわけないでしょう!?」
お返しとばかりに“スレイプニル”の持つランスを掲げると、ルイーゼの上空に雷雲が発生する。
「ッ!」
ルイーゼは急いでそこから離れる。直後、先程まで踏みしめていた地面に雷が落とされ、小さいクレーターを作る。
攻撃はそれだけにとどまらない。雷の矢はルイーゼの周りに次々と落とされていく。
やがてルイーゼの退路は閉ざされていき、ついには彼女のすぐ足元に雷が着弾した。
「ぐわあああ!」
直撃は免れたものの、着弾による衝撃波が機体を襲い、“トリスタン”は吹き飛ばされる。
「はぁ、あなた弱いわね。もう終わり?」
麻衣は退屈だと言わんばかりにため息を漏らす。
「クソ……!」
麻衣の煽りに内心苛立ちを覚えたが、確かに彼女の力ではこの女を倒すことはできない。
——せめて誰か、誰か来てくれれば……
「それじゃあさよならね。あなたの見た目は好みだけど、この世界の人間は生かしてはおけないから」
麻衣は止めを刺すべく槍を再び上空へと掲げる。
「死になさい」
処刑の言葉とともにルイーゼに向け雷を落とそうとした、その時。
「ちょーと待つッスー!」
「ッ!?」
少女の叫びとともに上空からミサイルが落ちてきた。
麻衣は後ろに飛んでそれを避ける。
「ちょ、なによ!?」
麻衣とルイーゼが上空を見ると、二機の戦闘機がこちらに迫っていた。
ルイーゼのホロモニターに戦闘機の搭乗者が映る。
その顔はルイーゼと同じ隊員、ラウラとシルビアだった。
シルビアが口を開く。
「ルイーゼさん、加勢します」
「お前たち、もう他の魔導騎士は片付いたのか!」
「はいッス!全滅させたッス!」
「そうか!ならば数十秒だけ時を稼いでくれ!」
「承知しました!」
「りょーかいッス!」
ラウラとシルビアは戦闘機を巧みに扱い、“スレイプニル”に銃弾を浴びせる。
「こんなもの!」
麻衣はそれを雷で防ごうとするが、二人の連携は上手く、雷の網をかいくぐって弾が“スレイプニル”の鎧に着弾した。
威力は鎧を貫通するほどではなかったものの、その衝撃は搭乗者に響いた。
「チィッ!」
麻衣は苛立ちまじりにラウラらに雷を落とそうとするが、身軽に動く戦闘機の動きをとらえることはできなかった。
「もう!なんなのよ!」
麻衣は彼女たちを仕留めようと何度も雷を落とす。意識は完全にルイーゼを外していた。
ルイーゼは生成した矢を弓につがえ、魔力を込める。やがて、一定量の魔力がため込まれ、矢は強く光り輝いた。
「“アローレイン”!」
叫びとともに上空に発射された光の矢は分裂し、雨のように降り注いだ。
ラウラたちに気を取られていた麻衣もそれに気づく。
「不意打ち!?こんなものすぐに……」
麻衣は無数に分かれた矢を打ち落とそうとしたが、そこで矢が自らを避ける軌道であったことに気づく。
矢は地面に着弾した。一見無駄打ちのようにも見えたが、着弾によって発生した土煙が煙幕のように麻衣の周りに立ち込めた。
「……私の視界をつぶすつもり?けどバカね。それじゃそっちからも私の位置が分からないでしょ」
「さあ、どうだかな」
確かにこちらからも“スレイプニル”がどこにいるか見えなくなる。しかし、ルイーゼにはとっておきの隠し玉、魔眼がある。
ルイーゼの魔眼は魔力視の魔眼。あらゆる魔力の流れを見通すことができる。
ルイーゼは右眼の眼帯を外し、麻衣の魔力を辿る。“スレイプニル”はジグザグに動いてこちらを攪乱しながら近づいているが、弓の名手たるルイーゼにはさしたる問題ではない。
ルイーゼは“トリスタン”の腰から短剣を取る。
短剣の名はカーテナ。彼女が初陣で破壊された武器だが、アルバートとハンナによって修復、改造されたものだ。
ルイーゼは“カーテナ”に魔力を込める。“カーテナ”は熱を持ち、今にも爆発しそうだった。だがそれでいい。
カーテナは改造によって新たな効果を手に入れた。
それは、自壊による爆発。
ありったけの魔力を込めることで“カーテナ”に爆弾としての性質を持たせ、それを敵にぶつけて爆殺する、一撃必殺の特殊兵装だ。
“カーテナ”は魔力を吸収し続け、赤色に変わる。発射準備完了の合図だ。
「“カーテナ・インパクト”!」
凄まじい勢いとともに射出された短剣は煙を突っ切り、こちらに迫っていた“スレイプニル”の左肩に着弾する。
「なっ……!?」
麻衣は驚きに目を見開く。
だがもう遅い。
爆弾とかした“カーテナ”は爆発し、その周囲を更地へと変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます