第35話 侍

「ひいいいいいい!」


「情けねえ声上げんな!そんな暇があるなら足を動かせ!」


アルゴは情けなく悲鳴を上げるトーマスを叱咤しながら洞窟の中をはしる。


「くそ!なんで、なんで」


アルゴは悪態をつきながら後ろを見る。


「魔導騎士がここにいるんだよ!」


ズシン、と地面を揺らす音とともに、魔導騎士が姿を現した。


魔導騎士はアルゴたちには見たことない鎧、片刃の刃物と、珍妙な出で立ちをしている。


魔導騎士はなぜか動きが遅いからにげれているが、歩幅が違う遅かれ早かれ追いつかれる


「うわ!」


トーマスがつまずき、転んでしまう。


魔導騎士はトーマスを殺すべく刃物を振り下ろした。


「トーマース!」


刃物がトーマスの命を奪う直前、アルゴの背後から何者かが飛び出し、刃を受け取めた。


ガギギギギ、金属と金属が削り合う音を立てて拮抗しているそれは、白い鎧に身を包んだ魔導騎士だった。


アルゴはその魔導騎士を知っている。まどうきしの中でも希少なトクベツキであり、気に入らない異邦人にしか扱えるぬ純白の騎士。


「ランスロット、だと!?」


***

数秒前のこと――


「いた!」


狭い洞窟を進んだ先、見覚えのある二人を見つける

しかし安心してはいられなかった


今まさに、魔導騎士が刀を振るおうとしていた


――させるか!


ゆうとはとっさに持っていたピッケルでその一撃を防ぐ


ピッケルと刃がぶつかりあい、火花が散った


ゆうとは呆然としている二人に声をかける


ここは僕が何とかするので、二人は逃げてください!


「・・・・・・」


「はやく!」


そこでハッ、と呆然としていた二人は目を覚ました


「行くぞ!」


二人の内の一人、アルゴは相方にそういうと、二人は洞窟の出口へと逃げていった


それを流し目で見つつ、ゆうとは敵機へと向き直った。


まじまじと魔導騎士を見る。


その鎧姿、持っている武器は、ゆうとにはとても見覚えのあるものだった


——まさか、侍とは。


驚いた。この世界にも、日本みたいなとこがあるのだろうか。


なんて思っていると、侍がゆうとに迫る。


ゆうとはツルハシを捨て、腰に差した剣を抜こうとすると、ないことにきづく。


そういえば、採掘の際、邪魔だから剣を船に置いてきた。


「くっ」


仕方ないと、“ランスロット”の左手から光でできた鞭が出る。


鞭は侍の体を拘束した。


鞭の名はエーテルウィップ


先の戦いで裕斗と戦った赤錆色の魔導騎士の特殊兵装を鹵獲、“ランスロット”用に改修したものだ。


――よしこのまま……


しかし、巻き付かれたままの侍は構わず裕斗に向けて突っ込む。


「はあ!?」


完全に居を突かれ、侍は“ランスロット”にぶつかった。


「ぐわ!」


衝撃がゆうとにまで伝わり、脳が揺れる。


その拍子に鞭がとけ、侍は自由を取り戻す。


侍は好機とばかりに無防備なゆうとに向けて剣を振るった。


――まず……


裕斗が死を覚悟した、その時だった。


「させるか!」


その時、後ろから聞き覚えのある少女の声、それとともに放たれた光の矢が侍の斬撃を弾いた。


「これは……」


見覚えのある攻撃を見て、裕斗は後ろを振り返った。


そこには、こちらに猛接近する魔導騎士“トリスタン”があった。


「ユウト!受け取れ!」


“トリスタン”に乗る少女…ルイーゼは右腰に下げていた何かをこちらに放り投げた。


それは、刃のない柄のみの剣だった。


「“アロンダイト”!」


裕斗は愛機の特殊兵装を目にとめ、すかさずそれに手を伸ばす。


侍はそれを妨げるかのように裕斗に向けて刀を振るったが、あと半歩だけ足りなった。


ガキィィィィィン!!!


刃と刃が衝突する音が洞窟内に鳴り響く。


なぜ侍の斬撃を防げたのか。

それは丸腰だった“ランスロット”の右手に、特殊兵装たる“アロンダイト”が握られていたからだ。


「悪いけど……」


アロンダイトの刃が光り輝く。


「最初から本気でいかせてもらうよ!」


言葉が終わるとともに“アロンダイト”は侍の刀を切り裂き、その先にある核を切った。


すかさず裕斗はそこから飛び退く。それと同時に、侍は爆発四散した。


侍の手にしていた刀は爆風によって吹き飛ばされ、地面に突き刺さる。


「ふう……」


ゆうとは一息つき、剣の魔力を解く。刀身は粒子となり、空気に解けて消えていった。


「ありがとうねルイーゼ」


「まったく、装備も整えずに先行するんじゃない」


ルイーゼはため息を漏らしながら言う。


「ごめんごめん。居ても立っても居られなくなっちゃてさ」


裕斗の弁明にルイーゼは呆れた様子だった。


「はあ。まあ、運よく間に合えたから良しとするか。では帰るぞ」


「あ、ちょっと待って」


踵を返そうとするルイーゼを止めた後、裕斗は地面に突き刺さっていた刀を引き抜いた。


「持って帰るのか」


「うん。刃の部分が真っ二つになっているだけだし、せっかくだから」


「物好きなものだな。……まあいい。今度こそ帰るとしよう」


「うん」


裕斗は彼女に頷き、ともに洞窟の外へと出た。

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