第31話 助っ人

「総隊長ォ――――!!!」


ケネスの魔導騎士を貫いた敵機の刃は、まるで切り捨てたおもちゃを捨てるように放り捨てた。


放り棄てられたケネス騎はピクリとも動かず、刺し貫かれた胸部からはどくどくと赤い血が流れていた。


「そ、総隊長が……負けた……?」


誰かが呟いたその一言に、それまで呆けていたみんなは嫌でも理解させられた。騎士団の中で最も強く、士気の中心核となっていたケネスが倒れた。


その事実に、


「う、」


彼らの戦意は消失した。


「うわぁ――!」


その言葉が合図となるように、赤錆色の魔導騎士の触手が一斉に動いた。。


不気味に蠢くその八本の触手が、その先端についた刃で騎士団の魔導騎士を次々と貫いていった。


「ひ、ひい――!」


恐怖で動けずにいる騎士団の一人を、一本の触手が襲う。


「危ない!」


裕斗はとっさに“アロンダイト”でその触手を防いだ。

しかし、触手の攻撃はそれだけでは終わらない。他の触手もこぞって後ろの魔導騎士ごと裕斗を襲う。


「クソッ!」


裕斗はそれを幾度も切り伏せるが、後ろを守りながらの戦いには限界がある。本当はこんなことしたくなかったが、戦力が減ってしまうのは痛手だ。だからしかたなく守っているのだが……。


「ぎゃあああ!」


通信から騎士団の者の断末魔が聞こえた。誰かがやられたのだろう。


裕斗の頬に冷や汗がしたたり落ちる。


――まずい、このままじゃ全滅だ!


裕斗はいら立ち交じりに守っている魔導騎士に話しかけた。


「ちょっと、何やってるんですか!あなたも騎士団の一人なら戦ってください!」


「む、無理だ!総隊長を倒した奴に勝てるわけないだろ!」


――まじかよ!


裕斗は内心舌打ちしながらルイーゼに通信した。


「ルイーゼ!」


「なんだ!」


ホロモニターに汗をたらしたルイーゼが映し出された。


「そっちはどうなってる!?こっちの援護にまわることは――」


「無理だ!私もできる限りのことはしているが、今の状況を維持するので手いっぱいだ!」


「――――――!」


つまり、今目の前にいるこの特別機と戦えるのは自分だけということか。


さらに、悪いニュースが続く。


「……あれは!?」


裕斗が目を見開いて赤錆色の特別機の後ろを見た。そこには、暴走魔導騎士の大群がこちらへと近づいてきたのだろ。


「そんな!」


おかしい。いくらなんでもタイミングが良すぎる。まるで士気が崩れるのに合わせたみたいだ。


「もう…!なんなんだよ!」


裕斗はいまだに腰を抜かしている魔導騎士を担ぎ、スラスターをふかしてその場を離脱しようとした。

しかし、赤錆の特別機が裕斗を見逃すはずがなかった。幾本もの触手が裕斗を襲う。


「グッ……!」


裕斗はたまらずそれを避けるが、すべては無理だった。一本の触手の刃が機体の肩をかすり、大きくバランスを崩す。


「しまっ……」


裕斗はまともに受け身を取ることができず、地面に墜落した。


「ぐわああ!」


魔導騎士の装甲は頑丈なため、機体が破損する恐れはないが、中は別だ。上空から地面に落ちた衝撃は搭乗者である裕斗に伝わり、そのせいで裕斗は動けなくなる。


それを狙うように、触手が裕斗の目の前まで迫った。


――まず…


間に合わない。どうあがいても触手の刃は自分を貫く。


死を覚悟し、思わず目を閉じた、その時だった。


ガキィィン


と、甲高い音とともに刃が弾かれたのだ。それを弾いたのは、胸に赤黒い宝石を生やしていない量産機、”ソルジャー”だった。


「なにやってんのよ!」


呆然とする裕斗の機体のホロモニターに、助けてくれた魔導騎士の搭乗者が映し出された。


その搭乗者は、赤髪の少女、ヴァネッサだった。


「ど、どうしてきみがここに!?」


「戦意喪失してるやつの魔導騎士を奪ってやったのよ」


「ひ、ひどい……」


「やる気のないやつが乗るよりは今の状況役に立つでしょ。……ああ、それと私の他にも助っ人がいるわ」


ヴァネッサはそう言うと、指を上に向けた。


「上?」


裕斗は上を見た。


そこには、戦闘機が空を飛んでいた。


戦闘機は銃弾やミサイルを上空から発射し、地上にいる暴走魔導騎士を攻撃した。その攻撃は主に妨害が主目的であるため暴走魔導騎士たちに有効なダメージは与えられていないのだが、足止めをし、動けなくするには十分だった。


「いよう。坊主」


ホロモニターに搭乗者であるマルセルが映し出された。


「マルセル隊長……」


「周りのザコどもの相手は俺たちが何とかするから、そのうちにお前はあの特別機を叩け。……じゃ、頼んだぞ」


マルセルはそう言うや否や通信を切った。


「そういうことよ、あんたも早くあの気色悪いやつを倒して、さっさと加勢しなさいよ」


ヴァネッサはそういって赤錆の特別機を指さした。


「……うん、任せて!」


そう言葉を交わし、裕斗は足を踏み出した。


ダン!と踏みしめた地面は大きく抉れ、裕斗の‟ランスロット”は弾丸に匹敵する速度……しかもスラスターによってさらに速度を上げた。


赤錆の特別機はそれを迎え撃つように触手を振るう。


「当たるか!」


裕斗はそれを難なく避け、または‟アロンダイト”で受け流す。自分が避けたことによる被害は考えていない。裕斗はヴァネッサ達ならば被害を出さないと信じていたから。


しかし、


「あんた!後ろ!」


「ッ!?」


ヴァネッサの声に振り替えると、受け流した触手がUターンし、後ろから襲い掛かってきた。


「うおっ!」


裕斗は慌ててこれを“アロンダイト”で弾くが、今度は違う方向から触手が襲う。裕斗はその攻撃を機体をひねって避け、地面に着地するが、休む暇もなく特別機の触手は全方向から、縦横無尽に裕斗に襲い掛かった。


裕斗はそれらを避けながら、特別機の特殊兵装と思われる触手を分析した。


——長いリーチに加え全方向からのオールレンジ攻撃。やっかいだな……視界外からの触手にも注意しないといけないし、かといってそれに集中しすぎるとこんどは正面からの触手攻撃に対して手薄になる。


「なら!」


次の瞬間“アロンダイト”の刀身が無数に分かれた。その分かれた刀身の一つ一つは細い糸につながっており、まるで蛇腹剣のようであった。


“アロンダイト”の刀身は魔力でできている実体のないものであるため、イメージすればこのように様々な形に変化できるのだ。


裕斗は蛇腹剣を伸ばし、機体全体をバリアーのように囲った。全方向から貫かんとする触手は“ランスロット”の周りを囲う蛇腹剣に弾かれ、貫くことができない。


——いける!


裕斗はスラスターを噴かせ、赤錆の特別機に迫った。その道中にも触手は容赦なく襲い掛かるが、すべてはじき返された。


あっという間に、赤錆の特別機の目の前まで進んだ。


このままいけばバリアー状に動く蛇腹剣に切り裂かれるが、特別機はとっさに残りの触手を盾のように使い防御した。


ガギギギギギギギギギギ!


金属と金属のぶつかり合う音が戦場に鳴り響く。


「押し……込む!」


ダメ押しとばかりにスラスターを限界ギリギリまで吹かせる。すると、少しずつではあるが触手が少しずつ押されていった。


そして、


「うおおおおおおっ!」


触手の防御陣が突破され、それにより生じた衝撃によって赤錆の特別機は体制を崩し、大きな隙を見せた。


それを見逃す裕斗ではない。


裕斗は即座に蛇腹剣となっていた“アロンダイト”を元の刀身に戻し、特別機のコアを刺し貫いた。


裕斗は即座に“アロンダイト”を引き抜き、その場から飛びのく。


残された特別機のコアは真っ赤に輝き爆発。最後に立っていたのは、裕斗の“ランスロット”ただ一機だけだった。


そして、裕斗は勝利の余韻に浸ることなく、他の暴走魔導騎士を倒すべくヴァネッサ達に加勢した。


数は多かったものの、ヴァネッサ、マルセルの戦闘参加、特別機を倒したことによる騎士団の若干の士気回復により、すべて駆逐することができた。

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