第15話 魔導騎士について知ろう

魔力接続コネクト開始オン!」


裕斗が言ったその直後、体に痛みが走った。


「っつう…」


やってくるとは分かっていても痛いものは痛い。


これはどうにかならないのかと、裕斗は心の中でグチった。


「起動したな?」


ブン、と音を立て、モニターの端にルイーゼが映る


「うん」


「よし、ではまずポケットにあるものを出してくれ」


「?」


裕斗はポケットの中に手を突っ込んだ。


すると、何か固い物が手にぶつかったのでそれをつまんで取り出した。


取り出したものは黒くて平べったい、見覚えのあるものだった。


「これは…通信魔道具?」


「アルバートさん達と会話するためのものだ。私とお前は魔道騎士どうしで通信できるからいいが、他の者とはできないからな」


「なるほどねー」


裕斗は右耳の穴に通信魔導具をつけた。


『アー、テステス。聞こえてるかー?ユウト』


通信魔導具からアルバートの声が聞こえた。


「あ、はい。聞こえてます」


『よし、じゃあ近くの扉からへ向かってくれ。ここじゃ狭えだろうからな』


ギイイ…と近くにあった扉が開く。


「訓練場はここからすぐのところだ。行くぞ、ユウト」


「うん」


裕斗はルイーゼに返事を返し、工房の外へと足を進めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


工房から訓練場まで移動するのを、多くの人が目にしていた。


騎士団と同じ制服を着た者や、このオルトランデの国民。


魔導騎士が巨大なだけあり、それらからひどく注目を集めていた。


「着いたぞ、ここが訓練場だ」


ルイーゼの乗る“トリスタン”がその足を止めた場所は、建物のない開けた場所だった。


「狭いのは我慢してくれ。普段は一介の騎士団員が使っている訓練場を貸し切っているだけだからな」


「魔導騎士専用のとこってないの?」


「ああ。そんな広大な土地、この国にはないからな。領土を広げようにも、外には魔導騎士がいるせいで不可能に近い」


「ふーん」


「さて、では本題に入ろうか。まず、魔導騎士は適性者と魔力を介してつながることで動かすことができる。その時、私達は魔導騎士と一体となり、同時に魔導騎士の情報が頭の中に入ってくる。……お前が初めて乗ったにも関わらず、その機体の名を知り、“ソルジャー”と戦うことができたのはそれが理由だ」


「…あ」


確かに、この機体の名が“ランスロット”だということや、どこをどうすれば動かすことができるのかはなんとなく分かった。


今もそうだ。何の知識も経験もないのにここまで動かすことはできない。


「だが、完全に一体となっているわけではない。リミッターをかけ、動きの補助を操縦桿とあぶみに任せている」


「どうしてリミッターを?」


「リミッターをかけなければ、脳波だけで機体を動かすことが可能となるが、今よりももっと膨大な量の情報が搭乗者の頭の中に入ってくる」


ルイーゼはトントン、と頭を指でつついた。


「最悪の場合、脳が情報負荷に耐え切れず焼き切れる。……まあ、リミッターをかけたとしても脳に相当な負荷がかかるのはお前も身をもって体験したと思うがな」


「?」


裕斗は一瞬なんの事か分からなかったが、すぐに思い出す。


「あ!もしかしてあの時気を失ったのってそういうこと?」


「ああ。リミッターをかけたとしても、それでも相当な量の情報だ。気を失いはするだろう」


「ええー?じゃあまた気絶するんじゃないの?」


「案ずるな。そういった症状は最初だけだ」


「そ、そうなんだ。良かったあ…」


ホッと裕斗は息を吐く。


「では、本題に移ろう」


ルイーゼは話を切り替える。


「魔導騎士は、大まかに二つの種類に分かれている。一つは量産機、一体一体の性能は低いが数が多く、剣や斧など多彩な武器を扱えるよう設計されている。…昨日戦った“ソルジャー”はこの量産機に当てはまるな」


―あー、そういえばあの魔導騎士二体いたな


「そして、もう一つは―」


『もう一つは俺が説明するぜ!』


と、ルイーゼの言葉をさえぎったのはアルバートだった。


「そうですね。アルバートさんお願いします」


ルイーゼは渋ることなくアルバートに説明を譲った。


『おう、あんがとな。そんじゃあ話を戻すが、もう一種類の魔導騎士は特別機と呼ばれるもんだ』


「特別機?」


―なんだ?そのワクワクする響きは


『特別機ってのは、ある一分野に優れるように設計された特別な機体で、それぞれ一機しか存在しない。こいつには、お前さんらの乗っている“ランスロット”や“トリスタン”が当てはまるな』


確かに“ランスロット”は剣、“トリスタン”は弓に優れているように見える。


何はともあれ、自分の乗っているものが特別な機体だとテンション上がるなあ、と裕斗は思った。


『また、特別機には特殊兵装と呼ばれる特別な武器がある。…まあ、これに関しちゃ“ランスロット”と繋がっている今のお前さんには分かるか』


「あ、はい」


裕斗は“ランスロット”の腰に下げてあった剣を抜いた。


その剣は一見、刃のない柄だけの剣に見えるが、裕斗が刃のない剣に魔力を通すと、光でできた刀身が姿を現した。


「“アロンダイト”…それが、この特殊兵装の名前ですよね?」


『おう、そうだ。…そして、ルイーゼの持つ弓を“フェイルノート”。魔力でできた矢を作り、射出することができる特殊兵装だ』


ルイーゼは裕斗に見せやすくするように“トリスタン”の持つ弓を見せた。


『魔力でできている分、矢切れの心配はねえし、”ソルジャー”程度の装甲なら貫くことができる。しかも、魔力を大量に込めて撃つことで矢の雨を降らせることも可能だ』


「えー?ズルくないですかそれ」


「そんなに使い勝手はよくないぞ」


妬む裕斗に言葉を投げたのは、先程まで黙っていたルイーゼだった。


「矢を作るには魔力が必要だから無限に作れるわけではないし、矢の雨…“アローレイン”は膨大な魔力を食うため、乱発はできない」


「いやあでも、必殺技みたいなのがあって羨ましいよ。対して僕は……」


裕斗は握っている“アロンダイト”を見つめる。


この剣は魔力でできている性質上、切れ味は注いだ魔力量に依存してしまうが、実剣ではないため連戦でも刃こぼれを起こすことはなく、また刀身を伸ばしたり縮めたりできる。


便利っちゃあ便利だが、いかんせん地味だ。


某ノベルゲームのように剣からビームを発射できないし、某オサレ漫画のように斬撃を飛ばせるわけではない。


「まあ、お前には無制限の魔力があるのだし、それを利用して切れ味を極限まで高めることができるではないか。あんなこと、普通はできないぞ」


ルイーゼの言葉に、裕斗はハッ、と思い出した。


そういえばあの時、無意識に剣に多量の魔力を込めたら刀身が光り輝き、”ソルジャー”の斧を切り裂くことができた。

普通ならあの段階に至る前に魔力切れを起こすだろう。


だが、自分は違う。


無限の魔力を使って、あの状態を使うことができる。


「そうか、アレを使えば…」


『いや、あんまり使わん方がいいぞ』


「ええ!?何でですかアルバートさん!」


『あの状態は“アロンダイト”に相当な負荷がかかるみたいでな。調べてみたら柄部分が熱を持っていたよ。…あと数秒解除が遅ければ、爆発してたかも知れねえ』


「ええ…」


じゃああれで無双できるわけではないのか…と、裕斗は肩を落とした。


が、ルイーゼはそれを励ます。


「いざという時は使えるのだろう?なら、それは切り札として取っておけ」


その一言が、裕斗の琴線に触れた。


「切り札!」


なるほど、いざという時に使う奥の手か。それはそれでロマンがある。

その路線でいこう。


「な…なんだか知らんが喜んでくれて何よりだ。では、魔導騎士の説明はあらかた終わったところで次は……」


と、そこでルイーゼはは空を見上げた。


「どうやら、帰ってきたようだな」


「え?」


ルイーゼんぽ言っていることが分からなかったゆうとは空を見上げた。


「な……!?」


上空を見上げて、裕斗は目を見開く。


それは、巨大な船だった。


海に浮いてあるような木製のものだったが帆はついておらず、上部分に二つの楕円形の気球が付いている。


船はそのまま上空を通過するとどこかへと降りて行った。


「話はまた後でだ。工房に魔導騎士を置いたら船の降りた場所へ向かうぞ」


「ええ!?また移動するの!?」


「グチを言うな。馬を使ってやるから早く行くぞ」


「それなら…まあ…」


裕斗は渋々承諾し、ルイーゼとともに魔導騎士を工房へと戻しに行った。


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