第14話 ウインドブーツ

「さて、ではさっそく乗るか」


「ち、ちょっと待って!」


ルイーゼが乗ろうとするのを裕斗は制した。


「どうしたのだ?」


「いや乗るのはいいんだけどさ、僕はどうやってあそこまでいけばいいの?」


裕斗ははるか高くにあるコックピットを指さした。


さすがに何の道具もなしじゃ、あんな高さまで届かない。


「ああ、そうだったな。……すみません、彼用の靴はもうできてますか?」


「おう、できてるぜ。ちょっと待ってな」


アルバートはそう言うと、元いた部屋へと戻っていった。


「あれ?工房なのにここにはないんですか?」


「言っただろう?ここは大工房。ここには魔導騎士関連のものや巨大な魔導具しか置かれていない。それ以外の小さな魔導具は隣の部屋に置いてあるんだ」


「おーい!持ってきたぞー!」


ハンナの説明の後、アルバートは隣の部屋から靴を持ってきた。


「こいつはウインドブーツ。魔力を込めることで靴裏から風が吹き出し、その反動で空を飛ぶことができるんだ」


「これが……」


裕斗はアルバートから靴を受け取る。


「いいデザインだろ?俺が作ったんだぜ、それ」


「まあ、こいつは外見だけだけどね」


「んだとお!」


「だって、がなければただの靴じゃない」


「それを言ったらがなけりゃあ一回限りの使い捨てじゃねえか!」


アルバートとハンナはまたケンカを始めてしまった。


「えっと…どういうこと?」


裕斗はなんでも答えてくれるルイーゼ先生に質問をした。


「魔導具とは、魔力を込めることでさまざまな効果・能力を発揮することは前に説明したな?」


「うん」


「その魔導具の効果を発揮するするにはと呼ばれる特殊な紋様を刻む必要があり、刻む術式によって魔導具はさまざまな効果を発揮してくれる。その靴も、風を吹かすことができるのはハンナさんが刻んでくれた術式のおかげだ」


ルイーゼはトントンと、履いている靴を叩く。


「だが、術式を刻むだけじゃダメだ」


さっきのお返しとばかりにハンナの頭を抑えたアルバートはルイーゼの説明の後を継ぐ。


「術式はそれに見合ったを用意しねえとその存在を保つことができず、一回使ったら焼き切れて自壊しちまう。術式を保ち、その能力を限界まで引き出す器を作るのが俺の役目なのさ」


裕斗はなるほど、と心の中で呟いた。


術式と器、どちらが欠けていても魔導具としての力を発揮できないのか。


「分かりました。これ、大切に使います」


「そうしてもらえると助かるぜ。……それじゃ、さっそくウインドブーツを履いたら魔力を込めてみてくれ」


「分かりました」


裕斗は元々履いていた靴を脱いだ後ウインドブーツを履き、目を静かに閉じた。


魔力……なんて昨日まで使ったことがなかったから、普通は分からなかっただろう。


だが、魔導騎士と繋がり、魔力を自在に操れたおかげで、コツをつかむことができた。


見える


心臓を中心に、体中を流れる赤いエネルギー。


それをコントロールし、足を伝わせ、靴に流し込む。


ブワッ!


靴裏から、風が吹き出した。


「出た!」


と、喜んだのも束の間、次の瞬間、靴裏から物凄い量の風が吹き出した。


「わ…わわわわわ!」


完全にコントロールを失い、裕斗の体は工房内を縦横無尽に飛び回る。


「まずい!」


ルイーゼもブーツを吹かせ、裕斗に近づく。


「ッ!ルイーゼ!」


「ユウト!魔力を絞るんだ!早く!」


「ッ!」


ルイーゼに言われた通り、裕斗は蛇口の栓を閉めるように魔力の放出を絞った。

すると、靴裏からの風の力が弱まり、その進行を停止した。


壁の目の前で。


「ふう…危なかったあ…」


冗談抜きに、あと数秒遅れていれば死んでいたかもしれない。


「気をつけろ。それを使いこなせずに死んだ者も少なくないんだからな」


「き…危険すぎる…」


「落ち着いてやれば大丈夫だ。まずはその出力を維持したまま足を進行方向とは逆方向に曲げろ」


「う、うん」


裕斗はルイーゼに言われた通りにした。


すると、少しづつではあるが魔導騎士に向けて体が進む。


「ゆっくり…ゆっくり…着いた!」


かなり時間をかけて、裕斗の足が魔導騎士“ランスロット”のコックピットにかかる。


「よし、では魔導騎士を起動して待っていろ。私もすぐに起動に取りかかる」


そう言うとルイーゼはブーツを吹かせ、あっという間に“トリスタン”へとたどり着いた。


「こっちが頑張って達成した直後に見せられると、さすがに心に来るなあ……」


と、そんなことはさておき、早く“ランスロット”を起動させなくては。


裕斗はコックピットの席に座った。


コックピットの扉が閉まり、中が真っ暗になる。

しかし、それは一瞬のことで、パッと中が明るくなった。


「さて…やりますか」


裕斗はあぶみに足をかけ、操縦桿をつかみ、接続のための呪文を唱えた。


魔力接続コネクト開始オン!」

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