文化祭

 待ちに待った、文化祭の時がやってきた。


 色々なクラスで、それぞれの出し物が開かれている。飲食店から雑貨屋まで、様々な出店でみせが並んでいる。


 如月さんとは奇跡的にも用事がない時間が被り、一緒に文化祭を回る約束を取り付けることができたのだった。


 湊斗は図書委員に属しており、休憩所として開放している図書室の見張り役をしていた。


 担当時間が終わり、クラスの出店でみせ当番である如月さんとの、待ち合わせ場所である昇降口に向かって走っていた。


 昇降口には1人佇む如月さんがおり、彼女の目の前を生徒達が楽しそうに通り過ぎていた。


 湊斗は急いで彼女に駆け寄り、息を切らしながら膝に手をつく。


「ご、ごめ…はぁ、待った……?」


「ううん、待ってないけど……てか佐々木くん大丈夫?! まさか走って来たの?」


 肩で息をする湊斗を見て、如月さんは驚きながらもオロオロと心配する様子を見せる。


 やっぱ優しいな。


 そんなことを考えながら、酸素を求める肺を落ち着かせ、如月さんに言葉を返す。


「……ふぅ、大丈夫だよ。さすがに待たせるのは申し訳なかったし、走ってきたのは事実だけどね」


「…………」


 湊斗は少しだけ汗が流れる顔に、くしゃっとした笑みを浮かべた。


 湊斗の笑い方は基本こうなのだが、いつもは緊張のあまり無意識に固い笑顔になってしまっていた。


 なのでその笑い方を初めて見た如月さんは、少し目を見開き固まってしまう。


「如月さん、どうかした?」


「え!? あ、うん、なんでもないよ?、うんうん、さ、速く回ろ回ろ! 速くしないと売り切れちゃうよ!」


 湊斗の言葉に彼女はテンパったように言葉を並べ、湊斗の手首を取り廊下へと引っ張る。


 急なことに驚くものの、掴まれた手首と心臓あたりを中心に熱が広がっていく。


 湊斗は手が離されないよう付いて行きながら、空いた片手で熱くなった頬を扇ぐのだった。



「これ美味しいね」


「アハハハッ!」


「うま〜ッ」


「次はあっち行こうよ!」


 子供のようにはしゃぐ如月さんと共に、校内に並ぶ出店でみせを順番に回っていった。


 楽しい時間は一瞬にして過ぎていき、日が暮れ始め文化祭の後片付けが始まる時間となった。


 この学校は後夜祭がなく、文化祭も1日しか開催しない。


 なので、文化祭で告白をするのなら今日しかない。


「如月さん」


「ん?」


 皆と一緒に後片付けを進める如月さんに声をかけ、彼女は動かしていた手を止める。


「帰りさ、少し話したいことがあるんだ。……ちょっといいかな」


 緊張からか手に汗が滲み、唇をキツく締める。


 そんな湊斗と裏腹に、彼女はいつもの明るい笑顔で頷いた。


「もちろん! また後でね」



   ♢♢♢



 後片付けが終わり、多くの生徒が自分の家へと帰り始める時間。


 人気が消えた教室は、外から生徒達の笑い声が聞こえる。


 そんな、初めて出会った場所自分達のクラスで、2人は向かい合っていた。


「それで……話したいことって何?」


 少し首を傾げる彼女の頬は少しピンク色に染まっている気がするが、暗くてよく見えなかった。


 湊斗は緊張で震えそうになるが、必死に耐え背筋を伸ばす。


 そして、頭を下げまっすぐに腕を伸ばした


「初めてここで会ってから、ずっと好きでした。よければ俺と付き合ってください」


「――…」


 湊斗の言葉を最後に、静まり返る教室。


 気まずさと恥ずかしさから、逃げ出したい気持ちでいっぱいになる湊斗。


 そんな彼を、柔らかく温かいものが包み込む。強く、そして優しく。


「遅いよ……バカ……」

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