第59話 ヒロイン

「でも、もうすぐ夢の国も終わりかぁ~」


「時間的にもそうだな」


 時刻は夜9時。

 今くらいから帰宅しないと夜が遅くなってしまう。

 補導だけはごめんだ。


「あっという間だったね~」


「さっき入園したくらいの気分だな」


「楽しいと時間なんて忘れちゃうよ」


「でも忘れられない思い出は出来ただろ?」


「うん!」


 パァっとした笑顔を向けてくる。

 恋人になってから初めてのデート。何もかもが、真新しい景色であった。

 どんなことをしても、幼馴染の時とは違う感覚。不思議だ。


「よし、なら出口向かうか?」


「うーん」


 と、悩む奏に、


「11時までに家に着かなかったら警察にお世話になるぞ」


「え!?逮捕されちゃうの!?」


「逮捕じゃなくて補導な」


「それは絶対ヤダ!」


 首をブンブンと横に振る。

 俺だって、この時間が終わるのは寂しい。だけど、それ以上に補導だけはごめんだ。


「だったら、夢の国から現実へ帰るぞ~」


「分かったよぉ~」


 不満げながらも、重そうな腰を上げて奏はベンチから立ち上がる。


「さぁ~、零二くんも現実へと歩むよ~」


「はいよー」


 奏に手を引っ張られながら、俺も腰を上げる。


「まぁ、現実も楽しいから不満はないけどね~」


 俺の前をスキップしながら言う。


「同じく」


「学校では一緒に居られる時間は少ないけど、その分同棲したから一緒に居れる時間がいっぱいあるし」


「明日はまだ休日だしな」


「そう!日曜最高!」


「多分、お昼までは寝るけどな」


「それもそれで幸せだよ~」


 のんびりとした声で言う。

 なんでもポジティブに考える奏といると、こっちまで考え方が変わってくる。

 まぁ、昔からもう既に変わってはいるけど、最近は更にだ。

 幼馴染としてでは見れなかった内面を見ることが出来る。これは彼氏の特権だ。


「この夢の国が終わってもさ、私は夢の国は続いてると思うよ?ここに来る前もずっと続いてたと思う」


 スキップを止め、後ろで手を組む奏。


「ん?どうゆう事だ?」


 首を傾げながら言う俺に、


「私は零二くんと居れば、たとえ地獄だって夢の国なんだから!」


 半身振り返ると、少し前のめりになりながら幸せそうな笑みを浮かべる。

 ライトアップされるパーク内。その光の中で輝く奏。


「ホント、お前はヒロインだよ」


 その姿を見て、俺は小声で呟く。

 夢の国で一番のヒロイン、いや、夢の国なんかじゃとどまらない。

 霧国奏は………………………………







 俺の人生のヒロインだ。

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