第58話 ………ズルい

「いやぁ~、流石に今日は疲れたねぇ~」


 後ろにグーンと伸びをしながら、奏は言う。


「アトラクションも結構乗ったし、移動距離も凄かったからな」


「多分3キロくらい歩いたんじゃない?」


「いやもっとだと思うぞ?」


「ホントかな~」


「ほれ、もっとだった」


 疑いの目を向けてくる奏に、俺はスマホで歩数計のアプリを見せる。


「な、7キロ!?」


「あちこち行ってたから妥当な距離だろ」


「そんなに歩いてたんだ私達」


 ほえ~と関心する。


「それに、お前はずっと食べてから疲れてるのもあるんじゃないか?」


 行く店ごとに、4人分くらいの量を食べれば疲れるのも無理ない。

 最後のレストランなんか、10人前以上は食べてる。


「違うよ~、食べるのは回復の為だって~」


「あれが回復か」


「そう!だからエネルギーは常に満タンだったよ?」


「満タンどころかオーバーしてそうだけどな」


「その分は、ちゃんと歩いて減らしたし、アトラクションでもカロリー使ったと思うけどな~」


「全く同感だ」


 絶叫に関しては、乗ってるだけでも相当カロリー消費しただろう。加えて叫びまくったから更にだ。


「夢の国っていいよね~」


「なんだ突然」


「だってさぁ?なんでも楽しく感じるんだもん」


 俺の顔を覗き込むように見ると、ニコッと微笑む。


「お前はいつも楽しそうだろ」


「そう見える~?」


「退屈してなそう」


「確かに退屈はしてないし、毎日楽しいけど~」


「けど?」


「それはね~、零二くんがいるからなんだよ~?いつも言ってるけど」


「特に何もしてないけどな?」


「一緒にいるだけで楽しいよ~」


 手を握って来ると、左右に振る。

 一緒にいるだけで楽しい。いつも言われているが、雰囲気のあるところで言われるとなおさら嬉しく感じる。


 それに、俺も奏といると退屈しない。

 隣に居たら笑わせてくるし、思いがけないような行動をすることも多々ある。色んな意味での退屈しないだが、それが楽しいに直通している。

 奏の凄い所だ。


「今日はそんな好きな人と夢の国パワーで100倍楽しく感じます!」


 キリッとした顔で、キメポーズをする奏。


「俺もいつもより楽しく感じるよ。すごくね」


 と、反対の手で頭を撫でながら言う。


 すると、奏は顔を俯かせると、


「ん………こうゆうイイ感じの雰囲気の時にそうゆう事するのは……ズルい」


 繋いでいる手も使い、両手で赤くなった顔を抑える。


「ご、ごめん」


「ううん。嬉しいからいいの」


「ならいいんだけど」


「零二くんは乙女をよく分かってるよね~」


「そんなことないと思うけど」


「少なくとも私はキュンとしちゃうよ~」


 胸に手を当てると、キャっと目を閉じる。

 これはただ、奏が俺に弱いだけだと思うけど、乙女心という事にしておこう。

 乙女心を壊さない為にも。





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