第54話 安心する
「れ、零二くん~。空いてて逆に怖いんだけどぉ~」
「それがパスの特権だからな」
アトラクションの中に入ると、隣には一般の人が長蛇の列を作っている中、俺達はパスの列をスルスルと進む。
「でも、並んでる間に怖い物見るよりかはいいんじゃないか?」
「そうだけど~、怖いものは怖いじゃ~ん――――キャッ」
進んでいると、アトラクションのギミックに驚き胸を押し当ててくる奏。
これ、俺にとっては天国かもしれないな。
行列に並んでいた方がこの時間がずっと続くからパスなんか作らず黙って並んでおけばよかった。
「普通は列の時より、乗る方が怖いと思うんだけど」
「乗るのは楽しいだけだよ~、それに上の方に上がったときに見える景色が最高って書いてあったからなおさらだよ」
「逆なんだよなー」
「とにかく!早く乗ろ!ここに居たら一生出れなそう!」
「でも、ちゃんと順番は守ろうな」
ズカズカと俺の腕を引っ張って進む奏。奥まで行くと、パス待ちの列の最後尾まで辿り付いた。
「ん~、やっぱパス持ってても並ぶの~」
辺りを怯えながらキョロキョロする。
「人気だから仕方ないよな」
「こんな怖いの乗りたがるなんて、みんな凄いよ~」
「その怖いのが楽しいんじゃないのか?アトラクションの」
「怖いのは要らないからジェットコースターだけあればいいのに~」
「それじゃ、台無しになるだろ」
「ならないよ~、私はその方が断然楽しい!」
「世の中奏の意見だけ通るわけじゃないからな」
「そぉ~だけど~」
可愛く駄々をこねる奏。
怖がる奏だが、言うほどそんなには怖くない。
列に並んでいた小学生くらいの子どもだって楽しそうに笑ってたからな。
それだけ、奏がビビりなことが分かる。
「もうすぐだから、あとちょっと我慢だ」
奏の頭を優しく撫でながら言う。
「うん、あとちょっとで楽しい事が待ってる」
「そうそう」
「でも、零二くんが頭撫でてくれてると安心するからちょっと大丈夫にはなってきたかも」
「ホントか?」
「うん…………」
チラッと辺りを見回しながら言う奏であったが、壁に掛かっている不気味な絵を見ると、
「やっぱ無理!」
再度俺の腕に顔をうずくめる。
「全然無理だったよ~、もっと頭撫でてぇ~」
俺の服の袖を震えた手で掴みながら言う。
「はいよー」
「はぁ~、やっぱ落ち着くよぉ~」
撫でると、ゴロゴロと腕に顔をスリスリとする。猫みたいだなホント。
ビビりなところも、愛情表現が多い所も、そっくりだ。
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