Fuse5

 人はみな平等だというけれど、それは真っ赤な嘘だ。

 あかりの知る限り、少なくとも3種類に分類されるのだから。


『マイクロチップ』には、適性がある。

 

『Type-Angry』──それは、高い『激情指数』を持つ証。

『Type-Base』──それは、基準的な『激情指数』を持つ証。

『Type-Cool』──それは、『激情指数』が極めて低いという証。


『Type-Cool』──『Type-C』の『マイクロチップ』を埋め込まれたあかりは、激情に左右されにくい性格の持ち主である。

 という事実は、それだけ社会では白い目で見られる。そんな風潮は、誰に言われずとも肌で感じる。

 誰がどの『マイクロチップ』タイプであるかが原則として開示されない理由も、考えるまでもない。


「あかりー、テストお疲れさま。調子はどうだったー?」


「いつも通り。リビングの端末に、通知表転送してるから」


「えぇ? それはいいけど……今から夕飯よー?」


「お腹痛いからラップしといて」


 帰宅してから2階の自室へ上がるまで、母の顔を見ることは一切なかった。

 スクールバッグと赤いタータンチェックのマフラーを放り投げ、ブレザーも脱がないまま、ベッドへ倒れ込む。

 AIによる自動採点で、最終考査終了日に超速で配布される通知表は、今のあかりにとって心底不快な電子文字の羅列にすぎない。

 たとえそれが、『A』で埋め尽くされたものであっても。


 あぁ。話に聞く両親の時代とは、まるっきり変貌してしまった。

 一体いつから、個人はABCで評価されるようになってしまったのだろう。


「……あつきの、バカ」


 くぐもる悪口とにじむ熱い雫を、しわくちゃなシーツが吸い取った。 


「あかりー、ねぇあかり、聞いてるー?」


「もう、夕飯はラップしといてって……」


「そうじゃなくて、あつきくーん」


「あつきのバカが何」 


 階段下から呼びかける母が、ふいの爆弾を投下する。


「だからぁ、あつきくん来てるわよー」


「……はぁっ!?」

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