女装というもの

バブみ道日丿宮組

お題:苦し紛れのガール 制限時間:15分

「えっと……その君、男の子なんだよね」

「……はい」

 駅員に尋ねられ、答える。

「それがどうして女の子の格好をしてるんだい?」

 皆が疑問として浮かべる言葉を告げられた。

 僕は男で、服装は女。

「……可愛いからです」

 ざわっと事務室がわいた。

 いつものことだ。誰にも理解されないし、興味を持ってももらえない。

 いつだって孤独。

 それが解消されるイベントははるか未来。

「そんな格好をしてるから痴漢にあうんじゃないかな?」

 下から上までをじっくりと見られる。

 ちょっとだけぞくりとした。悪い気分はしなかった。カメラマンさんがいつも撮影してくる熱意のようなものを一瞬だけ感じた。

 でも、不快感は継続した。

「痴漢は犯罪だけど、そういった勘違いをさせるのも犯罪じゃないかな」

 違う。絶対に違う。

「君も厄介な子に手を出しちゃったね」

 痴漢者は愛想笑いを振りまいてた。

 空気が嫌だった。

 まるで僕が悪いみたいな空気。

 絶対に僕は悪くない。

 痴漢したこのめがねのおじさんが悪い。

 気分がどんどん悪くなった。

「ーー遅くなりました!」

 その声で胸の奥がきゅんとした。

 扉の前には彼女がいた。

「その子の保護者です」

「ずいぶんとお若いようですが、お母さまか、お姉さまでしょうか?」

「婚約者です」

 彼女は僕に近づくと、頭を撫でてくれた。

 安心できる温もりを感じたら、涙がこぼれた。

「もう大丈夫だから、泣かないで」

 その後数分涙は止まらなかった。

 泣いてる間に警察官がやってきて、痴漢者は連行されてった。

『男の子だろうが、女の子であろうが、痴漢は痴漢ですので』

 警察官は味方だった。彼女の次ぐらいに僕をみてくれた。


 帰り道。


「イベント以外で、女装したらそうなるよっていったよね?」

「……うん」

 散々警告されてたことだ。

 見た目は少女にしか思えないという周りからの評価。

 だからこそ、起きたこと。

 女として見る。それだけで起こった事件。

「部屋だけじゃ我慢できなかった?」

「……う、うん」

 自由でいたかった。

「そっか。なら、仕方ないね」

 握ってくれた手が気持ちよかった。

「触られたの気持ち悪いよね? はやく家に帰ろうね」

「……うん」

 彼女は優しい。

 僕がへんな趣味を持っていようとも付き合ってくれた。

 だから、甘えてしまう。

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女装というもの バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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