手記0091
星るるめ
1話完結ショートストーリー
異星人に遭遇したんだ。腕には死にかけの仲間を抱いていた。目が合うなり泣きそうな顔で、人間の一部を食べれば回復するが他の星の生物をむやみに殺すことはしたくない、と言う。
悪いやつじゃないと感じた僕はどうにか助けてあげたいと思った。そしてあまり深く考えず自分の髪の毛を少し切って渡してやった。
それを今にも死にそうな方のおそらく口と思われる場所へもう一方が入れ込むと、見る見るうちにそいつは元気を取り戻した。そして何か短い言葉を交わした後強く抱き合った2人はすぐに僕の方を向き、涙を流しながら全身全霊で僕に感謝を伝えるのだった。
ただ髪をちょっと切って渡しただけなのにそんなに感謝されるのもなんだか申し訳なくなって僕は言った。
「またすぐに伸びるから気にしないで。」
何気なく出た言葉だった。だけどそれを聞くなりやつらは急に顔色を変えた。
あれからどのくらい月日が流れたのだろう。僕は今やつらの星で囚われの身となっている。僕の迂闊な発言のせいで道連れにされた数名の人間とともにあの日、知らない星へ連れ去られてしまった。
命こそ奪われることはないが、全員毛が伸びれば切られてやつらの栄養にされる生活。たった数本でも食べれば、治る見込みのない病気が治ったり、寿命が恐ろしく伸びたりするらしい。毛というからにはもちろん眉毛やまつ毛も含めた全身の毛を全て切られるし、あと爪なんかもそう。手の皮や足の皮なんかも痛くない程度だけど剥かれる。血液もたまに吸い取られる。
それでも衣食住は用意されているし今のところ扱いはそこまで悪くない。でも20歳前後の人間に最も栄養があるそうだから歳を取ればどうなるだろうか。…やはり処分される?もう近いのかもしれないそんな日に怯えながら毎日暮らしている。
僕があの時あんなことさえ言わなければ、やつらは地球人に最高の感情を抱いたまま静かに星に帰って行ったに違いない。そしたら後日ものすごく大きなお礼があったかもしれないし、間違いなく僕やここにいる他の人間達はこんな目には合っていなかったはず。
何も考えないで他人に簡単に自分の情報を与えてはいけない。相手がどんなにいいやつに見えても油断しちゃだめだ。来世があるなら本当に気をつけたいと思う。今これを偶然目にしている君にもどうか気をつけてと伝えたい。
しばらくすればやつらはまた人間を攫いに地球へ行くのかもしれない。僕はいつまで生きられるかわからないが、やつらに隠れて送り続けているこの手記がたった一つでも無事に地球へ届くことを、そしてどうかこれ以上被害者が出ないことを生きている限り願っている。
手記0091 星るるめ @meru0369ymyr
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