ショートストーリー集

みんなの前で裸になる黒沢未月


 ●このショートストーリーは黒沢未月くろさわみつき視点となっております。


 私は今、修学旅行で沖縄に来ている。

 宿泊先のホテルへ着き、私は伸びをして移動で疲れた身体をほぐした。


「けっこう良い部屋じゃん。えーっと、アメニティはどうかな?」


 同室の白坂さんは着いて早々に洗面所を物色し、部屋に用意されたアメニティ品を調べている。


「……なかなか良い景色」


 同室となった赤間さんは外の景色を見ている。

 私も同じように覗いてみると、綺麗なビーチと広大な海が見えた。


 他にも同室のクラスメイトの女子がいたが、私たち問題児と一緒なのが嫌なのか入ってきて早々に別の部屋へと向かってしまった。

 嫌われ者が集まると、こうも露骨に避けられてしまうのね……


 部屋別に点呼があるわけではないので、男子の部屋へ勝手に行ったりしなければ問題はないはず。

 部屋が私達だけになるのは、むしろ快適ね。


「早速、海水浴だったわね。水着に着替えましょうか」


 白坂さんは私の呼びかけには応じず、洗面所で化粧直しをしている。

 赤間さんも何も言わずにスマホで写真を撮っている。


 茂中がいないと、一気にまとまりがなくなる。

 まぁ私達みたいな余り者を寄せ集めたグループでは仕方のないことね。


 制服をぱぱっと脱ぎ、汗に濡れて脱ぎ辛くなってしまったシャツを手こずりながら脱ぐ。

 私が着替えているのを見れば、みんなも着替えなきゃと焦るはず。


「ちょっと、何でそんな堂々と脱いでるのよっ」


 ブラとパンツを脱ぎ全裸になったところで白坂さんが文句を言ってきた。


「いや、別に同性同士じゃない。何を言っているの?」

「あんたには恥じらいとかないの?」


 男性の前ならまだしも、女性の前で恥じらいも何もないとは思うのだけど……


「学校でもクラスメイトの女子に囲まれながら更衣室で体操着に着替えたりするじゃない」

「全裸にはならんでしょーが」


 今までも感じていたけど、白坂さんとは価値観が違い過ぎる。

 共感できることが少ない。


「別に私の全裸を見たって何も思うことはないでしょ?」

「あっ黒沢ってけっこう乳輪大きめだとか、思うから」

「……変態ね」

「変態なのはあんたなの!」


 勝手に意識されて勝手に変態呼ばわりされた。

 理不尽ね。


「というか、股間はせめて隠して。それは人様に見せるものじゃないでしょ」

「パンツを脱がないと水着が着れないじゃない」

「洗面所で着替えるとかさ~気を使いなよ」

「洗面所は白坂さんが使ってたじゃない。気を使っているのは私の方よ」

「あ~もうっ!」


 何も言い返せず、地団駄を踏んでいる白坂さん。

 私の勝ちね。


「なに勝ち誇った顔してんの! 見たところ処理とかろくにしてないくせに。あんたの方が女として負けまくってるから」

「何の処理よ?」

「そ、そりゃ……って変なこと言わせないで」

「言い始めたのはあなたでしょ」


 支離滅裂な白坂さん。

 白坂さんも負けず嫌いだから、つい口喧嘩が多くなってしまうわね。


「私は全身脱毛してるから」

「何でそんなことしてるのかしら?」

「欧米ではみんなしてるの。レディーのたしなみなの」

「ここ日本よ」

「知ってるっつーの。ここ日本とか言う人多いけど、グローバルな考え持った方がいいで~す」


 白坂さんはイライラしているからか、腹が立つ話し方になっている。


「もういい。私は洗面所で着替えるから覗いてこないでね」

「あなたの裸に興味なんて無いわよ」

「ちょっとはあってよ。一流モデルってどれだけ綺麗な身体してるのかなとか同性でも思うでしょ」

「あなた、あまのじゃくが過ぎるわよ」

「もういい。あんたに見せつけてショック受けさせるから」


 何故か前言撤回して私の前で堂々と服を脱ぎ始めた白坂さん。

 最初はありえないとか言ってたのに、結局私と同じことしてるじゃない。


「見てよこのくびれ、引き締まったお尻、綺麗な肌、すらっとした生足、それらを完璧に維持しているこの私」


 ……悔しいけど、確かに白坂さんの裸は想像以上に綺麗ね。

 私ももっと食生活とか気にした方がいいのかしら。


「美しいという言葉が似合うわね」

「そ、そうでしょ? 良いこと言うじゃん。ま、まぁ黒沢も良い感じにムチムチしてて色気とか、けっこうあると思う。黒沢には黒沢の良さがあるって」

「そ、そう?」


 白坂さんに褒められて嬉しい気持ちになる。

 茂中にもそう思われると良いけど……って、何で茂中が頭に出てくるのかしら。


「まっ、男が一番好きなのはこれだけどね」


 いつの間にか赤間さんも着替え始めていて、大きな胸があらわになっている。


 私の胸よりも一回りも大きい。

 おっぱいって人によってはあんなに大きくなるのね。


「くっ……生で見ると恐ろしいほど大きい」


 白坂さんは赤間さんを見て悔しそうにしている。

 胸の大きさなら私の方が白坂さんよりも上ね。


「茂中先輩もきっとこれを見せればいちころ。今の彼女を捨ててあたしに乗り換えてくれるはず」

「茂中は胸の大きさだけで相手を選ぶような男ではないわ」

「黒沢は男の理性の弱さを知らない。この胸の中に顔でも挟んであげれば、茂中先輩も我慢できなくなるはず」


 そ、そうなの……?


 赤間さんにやられる前に私も試してみようかしら……

 いやいや、何で茂中にそんなことしなきゃならないのよ。


「というか、流石にそろそろ水着に着替えないと」

「そ、そうね。白坂さんの言う通りだわ」


 おしゃべりが長くなり、着替えに時間がかかっている。

 早く持ってきた水着を着ないと……




「ちょっと、何で私だけスクール水着なのよ!」


 みんなが水着に着替え終えると、何故か私だけ学校指定のスクール水着姿だった。


「逆に何でスク水なの!?」


 白坂さんは逆に私を見て驚いている。

 修学旅行のしおりには、何か特別な問題が無ければ学校指定の水着を着用することと書いてあったはず。


「しおりに書いてあったもの」

「あれは建前的なやつでしょ。橋岡先生もふざけた水着じゃなければ怒らないって教室で言ってたじゃん」

「スクール水着以外ふざけた水着だと思っていたわ……」


 私の言葉を聞いて溜息をつく白坂さん。


 みんなが分かることを私だけ分からない時が多い。

 下ネタ関係の話でも私だけ知らないことが多いし、こういうの本当に嫌ね。


 やっぱり私ってズレてるってことなのね……


 生徒会長をクビになってからは、そのズレがやたら気になるようになった。

 私は生徒会長だから特別……じゃなかった。

 私は世間知らずの恥ずかしい高校生に過ぎなかった。


「とりあえず水着の上にシャツでも着て誤魔化せば?」

「そ、そうね。赤間さん、良いアイデアをありがとう」

「あたしもパーカー着てくし、そもそも泳ぐ気ないし」


 シャツを着てスクール水着をカモフラージュすることができた。

 これなら砂浜で遊ぶことぐらいはできるかもしれないわね……




 それからホテルを出て、同じ班の男子達と合流した。

 茂中は一人だけスクール水着姿の私を見ても笑うことなく、心配をしてくれて解決法まで用意してくれたの。


 茂中は私が失敗をしても見捨てたりしない。

 寄り添ってくれるから一緒居ると安心する。


 茂中のおかげで海水浴も良い思い出にすることができた。


 彼と一緒なら、

 挫折した私の人生が良い方へ変わる気がするわね――

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