第5話 ピザをお届けにあがります

 開店から十日が経過した。

 店はかなり順調で客足が止まらない。常連とまではいかなくても既に何回も来店してくれているお客さんがいるんだよな。英雄食堂を気に入ってくれて嬉しいぜ。


 さて、今は昼真っ盛りの時間だ。

 この時間帯は、仕事の昼休憩で来てくれるお客さんで賑わっている。

 俺は元気に魔獣の肉を焼いている。


 魔獣の料理を食べて仕事に行くと、なぜだかはかどるって評判になっているらしいぜ。

 それもそのはずだ。魔獣料理は食べると元気が出たり怪我が治ったりパワーがみなぎったりと、何かしらの効果が付くんだからな。

 ダンジョンを冒険していたときは、俺もそういう効果を重宝していたんだよな。スピードや防御力が上がったりとか本当に役に立つ効果ばかりだった。


「アリスちゃーん、お会計お願いー」


 事務仕事っぽい見た目の青年が呼んでいる。


「はーい」


 アリスがレジへと向かう。伝票から値段を計算してお会計をパパッとすませた。


「ありがとうございましたー」


 アリスがスマイルをプレゼントした。


「アリスちゃん、よかったら今度、俺とデートしない?」

「……は?」


 アリスが暗い顔になって冷たい視線をプレゼントしてあげた。青年が恐怖でぞくぞくしながら青ざめていく。


「迷惑だからうぬぼれないでくれる?」


 青年は頬をピンク色に染めていった。

 恋する乙女みたいな表情だな。男性だけども。


「アリスちゃん、ありがとう。本当にありがとう。今ので俺、今日一日、仕事を凄く頑張れるよ」

「え? え? なんで拒絶したのに喜ぶの?」


 アリスが意味が分からなそうに首を傾げた。

 アリスの冷たいドSな顔は男性客に大人気なんだよな。アリスのおかげでMっ気に目覚めた男性が多いとかなんとか。

 だからアリスに蔑みの視線をもらうためだけに来店している人もいるくらいだ。


 アリスはすっかり看板娘だ。人気者になってくれて嬉しいぜ。アリスがどんな環境で生きてきたかを俺は知っているだけに本当に嬉しい。

 それじゃ、と青年はアリスに別れをつげた。


「あ、よかったらピザの宅配もやってますので、気が向いたらぜひどうぞー」

「うん。この前、ちらしもらったよー」


 手を振って出ていく青年に、アリスも手を振っていた。

 そのときだった。ジリリリリリリリリと、キッチンの奥に置いていた魔法の電話が鳴った。


「来たーっ!」


 俺は魔獣料理を皿に乗っけてアリスに渡しつつ、魔法の電話に出た。


「はい、まいどっ。英雄食堂です!」

『あのー、ピザの宅配をお願いしたいのですがー』


 若い男性の声だった。


「はい、うけたまわります。どのピザにしましょうか」

『フレイムモーモーの肉をトッピングしたピザで』


 俺は耳と肩に受話器を挟んでメモをとった。


「フレイムモーモーの肉をトッピングしたピザですね。サイズの方は」

『Lサイズが二つ』

「了解です。今いる場所と、お名前を教えてもらえますか?」


『青キノコのダンジョンの地下五階。泉の傍の聖なる結界内です。俺の名前はルーベンです』

「青キノコのダンジョンの地下五階……、ルーベンさんっと。かしこまりました。一五分ほどでうかがいますので」

『え、本当にそんなにすぐに来られるんですか?』


「大丈夫です。これでも元勇者ですから」

『分かりました。楽しみに待ってますー』

「はい。それでは一五分後に。失礼します」


 俺は受話器を戻した。そして、すぐに準備にかかる。

 ピザ生地は用意してある。そこに勇者ならではの手の動きで猛烈にトッピングをする。

 そして、釜に入れて焼く。ここまで一分だ。


 店内を見てみたら、お客さんたちがハラハラしながら俺の動きを見ていた。

 カウンター席のおじさんが心配そうにする。


「本当に一五分でいけるのかい? 青キノコのダンジョンって行ったら、ここから歩いて一時間はかかるのに」

「大丈夫です。俺なら一分で移動できますから」


 凄いね、とおじさんが感心していた。


「レオ、私はどうしたらいい?」

「アリスはいつも通りでいいぞ。新しくお客さんが来たらお通しを出して、注文を受けて少し待っててもらっててくれ」

「私が料理をしようか?」


 俺はブルッと震えた。

 思い出される。旅をしていた頃にアリスが作った手料理を。あれはパーティー壊滅の窮地だったぜ……。


「悪いことは言わない。それはやめとこうな」

「え、なんで?」

「おや? アリスちゃんが作ってくれるのかい? おじさん、お願いしちゃおうかなー」


「おじさん……、やめときましょう……。本当に……」

「えー……、なにそのマジな顔……。逆に怖いもの見たさが激しいんだけど」

「悪いことは言わないんで、本当にやめときましょうよ……」


 ダメだ。おじさんがわくわくしている。どうなっても知らないぞ。

 おっと、会話をしていたらピザがいい感じに焼けたぞ。ここまで八分だ。俺は秒で紙の箱にピザを入れた。


「では、七、八分で戻ってきますので」

「レオ、いってらっしゃーい」


 俺は裏口から店を出た。


「アリスちゃーん、だし巻き卵お願ーい」

「俺はソーセージミックスー」

「俺はフライドポテト。ケチャップをアリスちゃんがかけるサービス付きでー」


 んんんー。俺の背中側から心配になる声が続々とあがっている。

 いいのか、本当にいいのか。午後も仕事があるんだろう。午後休になっちゃうぞ。勇者パーティーの胃袋でも耐えきれない料理だったんだぞ。


「腕によりをかけてつくるねっ」

「「「ひゃっほーーーーっ!」」」


 大盛りあがりだ。あーあ。

 ま、俺は俺の仕事をしよう。瞬間移動魔法を使うのはひさしぶりだな。


「瞬間移動魔法【テレポートダッシュ】!」


 俺の身体が光に包まれて輝き出す。

 来た来た来た。俺の身体が光に変わっていくようなこの感覚。すげーひさしぶりだ。よーし、行くぞ。目指すは青キノコのダンジョンだ。

 俺は光の速度で走って行った。

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