4『バグ退治(物理)』
「シュシュシュルルル! シャーーーーッ!!」
「うわぁ、ホントにいるぅ!」
薄暗い部屋の中でカサカサと動き回る巨大なクモ――Dクラスモンスターのデスサイズ・スパイダーを見て、僕は白目を剥きそうになる。
が、悠長に驚いている場合ではない。
何しろ同じ怪物たちが数十匹、四方八方至るところから僕たちの様子を伺っているのだ。
「ヒヨっ子どもは【
バグ討伐班・班長のおっちゃんの頼もしい声と、
「「「
同じくバグ討伐班の兄ちゃんたちの、力強い返事。
バグ討伐班長が
見事なかち上げによってスパイダーが引っくり返る。
「今だ! コイツをぶっ殺せ!!」
「「「うわぁぁああ~~~~ッ!!」」」
結界の中で縮こまっていた若手男性職員(僕も含む)が束になってスパイダーに飛びかかり、クモの腹を槍で串刺しにする。
僕が突き刺したスパイダー以外にも、屈強なバグ討伐班員たちによる捨て身の吶喊で何匹ものスパイダーが引っくり返っていき、命懸けの新人教育の題材になっていく。
死闘を繰り広げること、しばし。
やがて『バグ』は全て取り除かれ、場の主役がネットワーク班のお姉さんたちになる。
「おめぇら、よく戦ったな! 怪我してるやつはいねぇか? ――いねぇな、ヨシ! 帰っていいぞ!!」
バグ討伐班長のどでかい声に見送られ、全身クモ糸まみれ、汁まみれになった僕たちは、とぼとぼとオペレーションルームに戻っていく。
◆ ◇ ◆ ◇
「くぅっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっさ!?」
開口一番、それだった。
命懸けの戦いを終え、最低限体を拭いてオペレーションルームに戻ってきた僕を、優雅にお茶を飲んでいた先輩が心ない一言とともに出迎えた。
「ひどい!」
「ちょっと、近寄んないでよ」
先輩が鼻をつまむ。
「せっかく東方から取り寄せた高価な漢方茶葉が台無しよ」
「こ、このっ……」
僕は内心、怒り心頭だ。
オペレーションルームの様子を見る限り、第
先輩はお手柄だ。
けど、それはたぶん、たまたまだ。
ヒマつぶしに眺めているエラーログで、たまたま偶然、当の部屋で回線が寸断しているログを見つけたんだろう。
先輩は相変わらず、そのでっっっっっっっっっっっっっっっな胸をデスクに載せて、1秒に1クリックを繰り返している。
先輩には、右も左も分からなかった僕を一人前(半人前?)のヘルプデスク・エンジニアに育て上げてくれた恩がある。
けど、だからと言って、ロクに仕事もしない先輩を無条件に擁護するほどの義理はない。
課長はなぜか先輩をかばっているみたいだけど、その上からの監査が入ったらきっと、先輩はひとたまりもないだろう。
場合によっては、先輩のことを放置していた課長すら傷付きかねない。
「せめて、先輩も一緒に戦ってくださいよ」
だから僕は、一抹の希望を込めて先輩に言葉を投げかけた。
これで先輩が『戦う』と言ってくれれば、少なくとも先輩には、命を賭して戦うだけの愛国心があるという証明になる。
けれど――
「戦うのは男の役目でしょ? この世界の男って、女をやたらと家の中に閉じ込めたがるじゃない」
それはまぁ、その通り。
「でも、魔法適正のある人は志願して戦場に出ているらしいじゃないですか」
「あーし、魔法なんて一つも使えないし」
「え、一つも? 生活魔法も?」
「そーだよ」
言って、1秒1クリックの『仕事』に戻る先輩。
平民でも、初歩的な生活魔法――例えば手を洗う程度の水を生成する【
かく言う僕も、1日数回程度なら【
仕事はしない、魔法も使えない……本当に、課長はなんで役立たずを置き続けているんだろう?
ヴゥゥゥウウゥゥウゥゥウゥウウウウゥゥゥウゥウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウゥゥウゥウウウウゥゥゥウゥウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウゥゥウゥウウウウゥゥゥウゥウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウゥゥウゥウウウウゥゥゥウゥウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウゥゥウゥウウウウゥゥゥウゥウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウウゥゥウゥゥウゥウゥゥゥウゥウウウ!!!!!!
――えっ、また!?
「第
慌てふためくオペレーションルーム。
そして、
「かーちょ」
まただ。
「第
先輩がでっっっっっっっっっっっっっを揺らしながら、課長に報告する。
「やっぱりバグもいますね」
「助かったよ!」
満面の身で先輩の肩をバンバンと叩く課長。
そのたびに、先輩のでっっっっっっっっっっっっがあり得ないほどにばるんばるんと揺れて、
「……痛ぁーいです。セクハラですよ」
「いやぁ、ごめんごめん! ――さぁ、ネットワーク班とバグ討伐班と若手たち、出動だよ! クロウスくんもさっさと行った!」
「そ、そんなぁ……」
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