第43話 オトマイアー家の没落、マリンフェルト編
「ヘルムート様。何をそんなにイライラしているのですか?」
執事はハゲルートと心の中で読んでいる主に言葉をかけた。
ハゲをさらされても、カツラは外そうとしない馬鹿息子。
一時期は爆裂王などと、言っていた噂も聞いたが、ハゲにされた時点でその威光は地に落ちた。
「お前こそ、海賊たちを率いて、色々と裏でこそこそ荒らしていたことを知っているぞ。まあ、俺の筆頭執事になってから、そういうことはさせないからな」
ヘルムートの言葉の裏は「俺も一枚かませろ」だ。だが、同じようなことをしていて、護衛料と言って不当な税金をかけていたことをヘルムートの筆頭執事こと、
「エアハード、わかるだろナア?」
ヘルムートが言った言葉の裏の意味、腐りきった答えを求めている。ああ、よくわかっている。自分も親父に黙って色々とやってきた。
まあ、オトマイアー家の筆頭執事である親父は今、次男の兄が死んでしまい、寝込んでいると聞いている。人がいい人間だったが、今としてはヨゼフがいなくなってから、切れ味が無くなっているとも聞く。
(哀れな話だ。腐った家に尽くした結果、ただ燃やされるなど、終わりだよ。最悪だなこの家は)
色々あって、親父については、仕方ないかと思う。
だから、エアハードが今やるべきことは、父親のことではない。そんなことはどうでもいい。生きる為にはこのくそどろどろした、没落していくヘルムートに媚びへつらうしかない。
ただ、仕返しくらいはしてやりたい。
「鴉。あんたの薬はまだできないのか」
エアハードの後ろに立つ不気味な黒いローブ姿の人間。年齢不詳、性別も不詳。
だが、色々と役に立つとジャコモ=オトマイアーから託された人間。
「ええ。まだですよ」
声も魔法でつくっているのかわからないが、どうも男か女かがわからない声。不気味。
ただ、いつの間にか良い情報を教えてくれる情報屋のようなことをしていたり、便利屋として、人を殺していたり。
――ヨゼフ追放についても、提案した。
「ああああああ、鴉。そうだそうだ、俺の育毛剤は、どうなんだ? 良いのが見つかりそうか?」
まったく、あさましい。若いから嫌なのだろうが、我慢すればよいというのに。
虫唾が走る。クソが。
(兄を殺したクズが。お前はずっとハゲでいればいい)
それを指摘したのも兄だったが、どうでもいいのだ。少しくらい指摘されたって、我慢すればいい。我慢すれば、いいのだ。
金も実力もそれなりにあるのだ。弟を切ったのはどうもよくなかったようだが、まあエアハードにはどうでもいい話だ。
なのに、まだ、ハゲにこだわり、鴉に聞いている。情けない。
「ああ、それも火の鳥という不思議な生物がマリンフェルトにいるらしく――丁度、ヨゼフに従っているとか」
「ヨゼフ? ヨゼフだと。くそっ、くそっくそっくそっくそっくそがああああああああああああっ! アイツは、クソがあああああっ、何でも持ちやがって。くそがっ! 海賊船を一つ焼いても気が収まらん――よし! エアハード、海賊にヨゼフの場所を知らせてやれ! 女もいるから好きにしてもいいと伝えろ!」
馬鹿が。海賊と繋がっているのはバレているのに。今はおとなしくしているのが最善手だというのに。
「承知いたしました」
仕方ないが、やるしかなかろう。
「火の鳥もつれて来い。そうしたら、金をくれてやるよ」
ま、腐っているから。そう、オトマイアーのマリンフェルトはすでに腐っている。
最後までしゃぶってやろう。
食いつぶしてやろう。
「鴉。薬も早く作ってくれ。ヘルムート様が早くヨゼフを殺せるように。でないと、ジャコモ当主がヘルムート様を切ってしまうからな。俺もジャコモ様に殺されたくない」
ヒッとヘルムートがうめく。
だが、エアハードを燃やす余裕などない。
ジャコモは使えないものを殺す。
たとえ、家族でも。
それが没落していく貴族の流れであることもエアハードは知っているが、どうでもいい。エアハードも腐っているのだ。
(このまま堕ちていく中で、貴族様を殺してもいいし、な)
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