第31話 奇跡と強さと
「これ、夢か? 奇跡か。ああ、奇跡だよなこれはよぉ……」
フェニが呆然としていた。
「ヨゼフの光の剣、あれはなんだ? 嘘だろ。あんなの凄すぎだろ。クラーケンを真っ二つにしちまいやがった。な、なんてことを……」
あまりにも子供じみた夢のような光景で、英雄の冒険談のようにも思える。昔見た道化師のおじさんが少し高い飴を購入させて読み聞かせをさせてくれたものみたいだ。
恐怖? そりゃあ感じるはずだ。感じるはずなのに、フェニからは恐怖ではない暖かい涙しかこぼれない。どうして?
「これが精霊術なのですか?」
黒髪エルフのモニカが呆然としている。
火の鳥の精霊だけがエッヘン<(`^´)>とばかりに鳥胸を出している。
「ピーピー!(当然! 当然!)」
フェニは夢を見ているのかともう一度頬をつねる。痛くない。
「痛くないってことは親父は、親父は無事なのか!
「そりゃまあ、フェニは嵐で力いっぱい暴れまわって、しびれて感覚とかがなくなったから、いひゃいいひゃい。ひっぱるううううううううう。にゃにしゅるううううううううううううううううううううううううう」
「モニカいてええええええええええええええええええええええええ!」
二人で頬を引っ張り合い、夢でないことを悟る。
「夢じゃない。これって、夢じゃないんだよねえ!!!!! モニカ! すげえよ! ヨゼフやりやがった! しかも、船は無事」
「ええ。ええ! お父様がおられるかもしれません。いえ、絶対に! いるはず!」
「よし、泳いでいくぞ。アタシは!」
「やめてっ! 濡れちゃう! 風邪をひくから! そうだ、乳お化けなら! ヨゼフ様から頼んでもらえれば、たぶん、大丈夫!」
そこに飛来する乳お化けとヨゼフ。
「お姉ちゃんをそういうのはやめてほしいなあ。貧乳エルフ……と言いたいけど、弟君はどう思う?」
ヨゼフなら答えてくれる。この子は、弟のようなこの子なら。
「お願いします。フェニさんのお父さんに合わせてください」
「ま、まさか、フェニさんと結婚を」
「ちっちがいますっ。確かにフェニさんは魅力的な人ですが、僕はまだ12歳ですから無理ですからっ」
アウロラのボケに真面目に答える12歳。かわいい。
しかし、そんなことはどうでもいい。
「早くあちらの船へ! クラーケンは真っ二つ。ドラゴンの姿もありません。安全ですから早くッ!」
「はいはーい。お姉ちゃんにお任せっ!」
力こぶを作り、アウロラがヨゼフとフェニを運ぶ。
運ばれた船の先には倒れた男たちが大量にいた。フェニの見た顔もいる。
(どこだ? どこにいる? 親父?)
フェニが探す。そこには倒れたラルフの姿。
顔が青い。死にそうだ。
「これじゃあ、この人は」
ヨゼフが顔を真っ青にさせている。だが、アウロラは違う。
「大丈夫。火の鳥の力を使うの。そうしたら、大丈夫。ほら、ヨゼフ」
「頼む。ヨゼフ! なんでもするから! お願いだ! 親父を助けてくれ」
フェニは必死に頼んだ。ヨゼフは戸惑って、顔を左右に振って、頷いた。
「火の鳥さん。助けてあげてください僕の力を使ってください」
「ピー!(大丈夫!)」
ヨゼフに触れた火の鳥の羽が一枚、ラルフの頬に落ちる。
そこから、血色がみるみる赤くなっていき、無精ひげの赤い髪の男の目が見開かれた。
「フェ……ニ?」
「あっ、あっ、アタシだ。そうだ、そう、あっあっああああああああ!」
父親の意識の取り戻した姿に彼女は涙した。
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