第2話 精霊術士①
「で、どうやってあなたのお知り合いのところに行くのかしら。お姉ちゃんは不安なんだけど。まあ、エルフ妹なら、助けちゃってもいいかもしれないけどね」
舌を出しながら、ヨゼフを胸の谷間に入れながら、アウロラはそんなことをこたえる。
モニカはため息をつく。
「困っていませんか。その怖いお姉ちゃんに。ヨゼフ様」
「うーん、大丈夫!!」
本当はヨゼフも少し困っているのだが、表情に出すとすぐに膨れた顔見せるし、落胆したような顔をアウロラは見せるので、大丈夫だと答えるしかないのだ。
「ほんと、優しいですね。ヨゼフ様は。あんなクソみたいな兄やお父様から生まれたには見えないほどにかわいいし、気が利くし。自称、精霊様だとかいう布まみれの服を着た痴女にも気が使えるとかすごすぎます。流石ご主人様!」
と言って、アウロラからヨゼフを奪い取る。
「あーっひっどーい。つるつるぺったん、ひんそでひんにゅー、ほんんんんとうにひんその黒エルフちゃんだから固いと思うよ。私の体は柔らかいお姉ちゃんボディ。さあ、こっちに」
二人の綱引きが始まる。左手と右手を掴まれて、体が引き裂かれそうな痛みに襲われる。これはまずい。ヨゼフの体が分身死をしてしまう。絶対にそれは駄目だ。
こんな間抜けな死に方をしたら、ヨゼフの人生は救われなさすぎる。
「いいいいい、痛い痛いタイイタイイタイ。やめて。ふたりともぉ。僕の、僕の痛いっ! 体が裂けちゃうよ!」
「「ああああっ! それは駄目ッ!」」
その言葉に二人が手を離すと、その勢いでヨゼフの体が虚空に飛ばされ、夜中の草原に飛ばされる。
「うわっ、あ、あれ? スライム? も、モンスターだ!」
モンスター。オトマイアーにいたころ、生活魔法しか使えなかったヨゼフには倒せなかったモンスター。
しかし、追放されたこれからは自分出た長くてはならない。
でも、ヨゼフには生活魔法しか、使えない。
スライムは弱いモンスターで野生出なければ、水の代わりにトイレのようなこともしてくれるような生活モンスターだ。ある意味ヨゼフのようなことをしているところかもしれないが、野生のスライムはそうではない。凶暴なものは人間を襲うことだって、ありうることがある。
特に貧弱なヨゼフなんて存在はカモだと思って襲ってもおかしくはないのだ。
「わ、っわっわわわわ! どうしよう!」
ヨゼフの頭がパニックになった。今、自分は無力だ。何もできないことはよくわかっている。だから、逃げようとして。
「逃げちゃダメ! 今なら、精霊の私を具現化した弟君なら! さあ、強い何かを想像するのよ! そして、目を開けて!」
アウロラの言葉にヨゼフは何故か逆らうことができなかった。いや、自信が持てたのだ。
「ヨゼフ様の目が金色に!」
「あれこそ、精霊眼。魔法使いによって駆逐された精霊を見つめる眼。さあ、強い誰かを!」
それは先ほど戦った兄の記憶。火の記憶。
ヨゼフの目に見えたのはふわふわとした赤い靄の光。
「うわあああああっ!」
靄をヨゼフは手に取る。靄は赤い小鳥の姿となり、スライムと対峙する。
「え? これは?」
「すごい! 何も考えずに火の鳥の子供なんてすごすぎない? やっぱり、私の弟君はすごいの!」
アウロラの言葉はよくわからない。だか、火の鳥と呼ばれた精霊? はスライムに向けて、火を吐いた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!」
焼き尽くされたスライムはあっという間に燃え尽きて、スライムを倒した後の核である魔石を落として消えてしまった。
「これって……なに?」
「おめでとう! 制霊術士、ヨゼフ・オトマイアー! デビューだ! お姉ちゃんは感動した!」
いや、アウロラに抱き着かれて喜ばれても、何が何やらわからないんだけど、というのがヨゼフの感想だった。
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