13話 脆さ

 店内から出たエリック。室内での会話は外にも聞こえていたようで、ローエンも事情を把握した。通りを人が行き来している。


「ヴァルゴとクイナ、二人の長……情報が得られそうだな、ローエン」


「そうですね。どちらから尋ねますか?」


「クイナだろうな。俺たちはまだこの街の事情も知らないし、さっきの人物が言う通り、行動派のところに行くよりもまずは穏健派のクイナから話を聞いて事情を把握するのが大事だ。事情を知らずに、皇帝の棺の情報を持っているかと言われても、自分たちに関心の無い旅人に話すかどうかは疑問だろうしな」


「確かに。ヴァルゴは居場所すらわかりませんしね。クイナのところに行きましょう」


 頷いたローエン。エリックとローエンは二人で街通りを歩き始めた。風が砂を巻き上げている。この街から出たいというのも、無理もないのかもしれない。

 エリックとローエンは二人で並んで歩き、街の者とすれ違った。その時……。


「決闘?いや、そんなので解決するのかなぁ……」


 という街の者の話し声が聞こえた。



 灰色の建物が立ち並ぶ街並を歩いていくと、広場のような場所に出た。円上のスペースが広がっている。カーブを描きながら、灰色のテントが点々としている。武器屋や雑貨屋などもあるようだった。砂は相変わらず軽く舞っているが、少し遠くの景色が見えた。食事処の店員の言っていた、クイナのいる大きなテントらしきものが二人の右手に見えた。白いテントだ。しかし、どこか砂の色でもある。


「あれですね」


 ローエンは赤い瞳で大きなテントを見つめていた。エリックもテントを見上げる。

 あのテントに、皇帝の棺の手がかりがあるかもしれない。

 エリックは強く手を握りしめた。クスハ……。


「行こう」


 エリックは力強く歩みだした。

 目標のために全てを捧げるのだ。皇帝の棺を見つけ、クスハを救うのだ。

 死を怖がっている彼女。死なせない。死なせてたまるものか。

 誰もが生きる権利を持っている。クスハも権利を持っている。

 夢物語では終わらせない。皇帝の棺は必ずある。必ず。


 ローエンは早足で歩むエリックに少し遅れてついていった。ローエンにも理想がある。道半ばで倒れていった奴隷たち。

『ローエン、幸せになりたいなぁ……幸せになりてぇよ……』

 奴隷の涙。決して忘れはしない。

 しかし、皇帝の棺を求めるエリックの背中を見たローエンは思った。

 危うい、と。

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