11話 作らなければならない

 ノーバイドの街並みは、砂地らしいといえば砂地らしい風景だった。風は土煙を作り出し灰色の建物から出てくる住人は少なかった。待ちゆく人々は皆頭に布を巻いていた。なにかの慣習だろうか。


 エリックはノーバイドに辿り着いたことを喜んだ。仲間も出来た。すぐにでも手がかりを探したい気持ちだった。しかし……。


「まず飯を食べましょう」


 ローエンの街の中での第一声がそれだった。エリックは何を冗長なと思い反論した。


「腹ならそこまで空いてはいません。それよりも皇帝の棺の手がかりを探さなくては!それにこの街にいる以上は街の情報も掴んでおかなければ」


「自分を管理出来ない者は何も成し遂げることは出来ません。休息は甘えではないのですよ。管理不足の先は破滅です。私達のことについても話すことがあるでしょう?身の上話や戦略上の話……相談は大事です」


 ローエンの弁にエリックは黙ってしまった。確かに正論だ。仲間なのだからお互いのことをもっと知らなければならない。それに食事もいつかは摂らなければならない。エリックは焦りに急かされている自分に気がついた。


「わかった、食事を摂りましょう。そこの店で」



 エリックとローエンは灰色の建物の外でテラス席に設置された椅子に向かい合って座っていた。二人の間には白い丸机がある。その丸机の上に料理が並んでいた。


「なんで大金が欲しいのですか?」


 エリックは食事をしつつもローエンに質問してみた。傭兵は金を求めるものだがローエンが金を持って何をしようとしているのかわからなかったためだ。

 ローエンは食事をする手を止め少し思案していた。遠くを見つめるような赤い瞳。


「街が作りたいんです。大きな街を」


「街……?どうして?」


「争いの起こらない格差のない幸せな街に憧れていたからです。今でも憧れている。私は……奴隷だったのですよ」


「それは……辛い身分でしたね」


「まだ良心的な方でした。一生奴隷の者だっている。私は毎日奴隷の仕事をして自分を解放するための資金を集めました。長い年月でした……。道半ばで過労死してしまう仲間もいました。『生きていく権利があると思うな』。そう言われた。生きたいと願った彼らの顔は今でも忘れない。日々は辛いものでしたが得るものもありました。色々な人間を見ました。誰もが懸命に生きていました。私は人間の逃げ場を作りたい。幸せな逃げ場を。あの街にいけば平等に暮らせると噂されるようなそんな街を。あそこに逃げようと思えるような格差のない街を。道半ばで倒れていった奴隷たちの行き先を。私は街を作らなければならない。作らなければ」


 ローエンの赤い瞳は力強かった。

 エリックは深く頷いた。目の前にいるのは利己的な人間ではない。強い信念を持って行動している人物だと感じた。


「貴方の夢はわかりました。きっと実現出来ます。出来るはずです。改めて、ローエン。仲間として俺とともに皇帝の棺を探してほしい」


「クスハさんも必ず救えるはずです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 エリックとローエンは仲間の誓いの握手をした。お互いに譲れない信念がある。鳥の言った運命の仲間。何かが二人を引き寄せたのか。鳥の姿は今は見えない。

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