8話 運命の仲間
「ローエンさん……ノーバイドに向かうのであれば、何故こんな場所に立っているのですか?」
「鳥です」
「は?」
「鳥では不十分ですね。喋る鳥がいるんですよ。ほら、私の足元に白い鳥がいるでしょう。この鳥がここで待てと告げたんです。この鳥は間違ったことを言ったことがない。急に現れてはお告げのように道を示してくれる。私は鳥の声に忠実に行動しているだけです」
ローエンは足元を見た。エリックがその視線の先を追うと確かに白い鳥が砂地に立っていた。小柄な鳥だ。
「エリック」
鳥は美しい声でエリックの名を呼んだ。エリックはそれにとても驚いた。喋る鳥など見たことがない。神聖さを通り越して異質だった。
「鳥が、喋る……」
「この鳥は言いました。『運命の仲間をここで待て』と」
「運命の仲間……?」
「私は皇帝の棺を探しているのです」
エリックはローエンの言葉にさらに驚いた。間違いなく皇帝の棺と言った。ローエン……何者なのか。
「皇帝の棺をご存知なのですか?」
「数多の財宝をもたらす奇跡の遺物」
「不老不死は?」
「知っています。しかしそれには興味はありません」
ローエンは淀みなく語る。エリックは思案した。ローエンが探しているのが皇帝の棺なのであればエリックと利害が一致する。運命の仲間。その言葉がエリックの頭の中を回っていた。一人だけの旅だと思った。しかし一人では道半ばで倒れてしまう可能性も高い。
仲間が必要だ。強い仲間が。クスハのために。
「おそらく、鳥が言った運命の仲間というのは、エリック。貴方のことなのでしょう。貴方は何故こんなところにいるのですか?」
「……皇帝の棺を探しています」
ローエンの眉がピクリと動いた。流石に動揺したのだろうか。
「なるほど。では我々が探しているモノは一緒ということですね……。なるほど……。どうですか?一緒に探してみるというのは」
風が二人の間に吹いている。
「ローエン、俺は必ず皇帝の棺を見つけなければなりません。だから……」
エリックはそこで言葉を切った。その後をローエンが受け継いだ。
「弱い仲間はいらない、ですよね?」
槍に手を当てるローエン。剣を引き抜くエリック。
鳥は地面に立ったまま。周囲には石の柱。ローエンの立っている地面の方がやや高い。
エリックは瞬時に判断した。射程は相手の方が高く地面も高い。常識で言うなら勝てる道理はない。しかし殺し合いをするわけではない。ローエンは必ず手を抜くはずだ。
低い姿勢でエリックがローエンへと距離を詰める。その敏捷性は高かった。
槍での突きは出来ない。刺せば殺してしまう。間違いなく薙いでくる。
ローエンは槍を振るった。横薙ぎ。それを察していたエリックは一瞬早くジャンプしていた。
ローエンの槍を回避。
そして接近し終わったエリックはローエンの首の前で刃を合わせた。
「お見事」
ローエンは笑って両手を上げた。お手上げのポーズである。
エリックは勝負に勝ったがローエンが只者ではないことを理解した。エリックは奥の手を用意していたが……。
間違いなく強い傭兵だ。それに、利害も一致する。ならば。
「ローエン。一緒に皇帝の棺を探してくれませんか?」
「その前に刃を下ろしてほしいですね」
「ああ、失礼」
エリックは剣を仕舞った。ローエンは槍を既に背中に仕舞っている。
「なにかの運命でしょう、エリック。貴方が何故皇帝の棺を探しているのかは知りませんが、後で詳しく聞かせてください。とりあえずは共に行動しましょう。傭兵ですが無償で付き合いましょう。私にとっても得があること。しかしここは少々殺風景だ。砂の都ノーバイドまでたどり着いてから話をしましょう。夜になっては困る」
「そうですね。すぐに砂の都に向かいましょう」
「敬語はいらないですよ。気軽に話してもらって構いません。仲間なのですから」
「……わかった。よろしく頼む、ローエン」
エリックは右手を差し出した。握手の合図である。ローエンはそれに応え二人は握手をした。ローエンの手は力強かった。
こうして仲間が増えた。鳥の言う運命の仲間が。
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