踏み台クズ貴族が勇者の師匠~踏み台に転生した男は、平穏な生活を夢見る。だが、弟子たちが放っておいてくれない~

喰寝丸太

第1話 踏み台スキル

「お前、指導した駆け出しから、カツアゲしているらしいな」


 俺は他所から来た冒険者に胸倉を掴まれてそう言われた。

 俺はムスカリ、冒険者ギルドの教官をやっている。


「それの何が悪い。冒険者は弱肉強食。弱い奴が悪い」


 俺は掴まれた手を振り払った。


「だいたい、二つ名の『Sランクメイカー』が怪しい。たまたま素質がある奴に当たっただけじゃないのか」

「運も実力のうちだ。お前の素質をみてやろう。初級人物鑑定魔法」


――――――――――――――

名前:アスター LV15


魔力:948/970


スキル:

 斬撃

 精霊の加護(成長途中)

――――――――――――――


 あー、精霊の加護がありやがる。

 レベルからみるに使いこなしてはいないようだな。

 今時点では俺の方が強い。

 だがこいつは主人公体質の匂いがプンプンする。


「勝手にステータスを見やがって」

「ふん、ザコだな」

「何だと!」


「アスターやっちゃいなよ」

「そうよ。奥の手を使えば負けないわ」


「この悪徳教官。俺に一手教授してくれないか」

「いいだろう。そうだなお前はその二人の女を賭けろ。俺はギルドの口座の有り金を賭けてやる」

「くそう、そんな賭け受けられるか」


「私なら良いよ」

「私もアスターが負けるなんて絶対に信じてないから」

「どうした。女達の方が度胸があるぞ。玉が付いているのか」

「言ったな」


 アスターとギルドの修練場で対峙する。

 俺はいきなりアスターに斬りかかった。


「くそっ、卑怯だぞ」

「盗賊が正義を貫いてくれるのか。とんだ甘ちゃんだな」


 鍔迫り合いになり、俺はアスターの足を引っ掛けた。

 バランスを崩すアスター。


「アスター、危ない。転がって」


 女の子のアドバイス。

 アスターは転がって逃れる。

 俺は追いかけて足で踏みつけにしようとした。


「【斬撃】」


 アスター、寝転んだ状態でスキルを使った。

 俺の踵を狙ったらしい。

 俺は冷静に飛び退いた。

 その隙にアスターが起き上がる。


「くっ、汚い奴だ。起きるまで待てないのか」

「嫌だね。そらっ」


 俺は手に握った砂をアスターの顔面に投げた。


「くっ、もう許さない。【精霊の加護】」


 アスターがオーラに包まれる。


「これで決める。【斬撃】」


 俺はアスターの剣を受け流した。

 そしてアスターを滅多打ちにする。

 アスターはダウンした。


「いやーっ」

「アスター起きて」


「くっ、こんな所で負けるのか。仲間を守れないのか。【精霊の加護】」


 アスターからオーラの柱が立つ。

 やっぱりな、覚醒しやがった。

 アスターは剣を振りかぶり、俺に叩きつけた。

 受け流そうとしたが、俺の剣は砕かれ、俺は吹き飛ばされ何回もバウンドとして止まった。


 転生した時もこんなだったな。

 その時の記憶が甦る。


「痛え。はっ、トラックにはねられたはずじゃ」

「坊ちゃま。しっかり」


 執事風の男が俺に液体を掛ける。

 場所は、戦う舞台みたいだ。

 見物人が大勢いる。

 俺は溶かされ切断された剣を握っている。


 状況が分からん。


 ピロンとメッセージが目の前に。

 『踏み台スキルを獲得しました』とある。

 ああ、俺は踏み台なわけね。

 了解した。


 目の前の男は燃え盛る剣を持って俺を睨んでいる。

 ああ、俺は踏み台にされた後で、たぶん目の前の男はパワーに目覚めたというところか。


「汚い事をしやがって。下剤を食事に入れるとは許せない。俺の剣が折れるよう細工もしたな」

「すみませんでした」


 俺は土下座した。


「何でもします。靴だって舐めます。殺さないで」


 俺は土下座したまま腕の力で前進して、相手の靴を舐めた。


「もう良い。失せろ。二度と俺達の前に姿を現すな。行こう、ローズ」


 男はローズと去って行った。


「ステータスとか出たりしてな」


――――――――――――――

名前:ムスカリ LV9


魔力:46/171


スキル:

 踏み台

――――――――――――――


 本当に出やがった。

 踏み台スキルの詳細は。


――――――――――――――

踏み台:

 自分よりレベルの低い者には、絶対に負けない。

 但し、英雄の素質を持った者には絶対に負ける。

 英雄の素質を持った者を対戦で覚醒させる。

 パッシブスキル。

――――――――――――――


 本当に踏み台スキルだなぁ。

 そんな事が10年前にあった。


 俺は過去の記憶を振り払って、やっぱり土下座した。


「殺さないで下さい」

「殺さないよ。指導だろう。でも賭け金の口座の金は貰う。今後、悪さを見つけたら、その時は分かっているな」

「はい、もちろん」


 もちろん、アスターがこの街から去ったら悪行は続ける。

 悪行を続ける理由ならある。


 それに、こんな事もあろうかと、いつも半分金は自宅の金庫に入れてある。

 ギャラリーがこの対戦を目撃しているはずだ。

 アスターがいなくなったら、あいつは俺が育てたと吹聴して回ろう。

 きっと活躍して、とうぶん俺は教官を首にならない。


 悪役はしぶとくないとな。

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