二章
第41話「思惑」
王宮の一室では、東の地方遠征で起きた事件について話し合われていた。
結界石は、魔物から国民を守る重要な存在。魔法局の上層部に加え、会議にはトレスティ王国の現国王も参加していた。
国王は即位して十五年、今年五十歳を迎える。王族の直系に多い金色の髪と青い目を持ち、温和な容姿をしている。
隣国から侵略を狙われる隙を作ってしまったが、最終的に戦争で勝利を収めたため、結果国民からの評判は良い方だろう。
そんな彼は報告書に目を通しながら、臣下の会話に静かに耳を傾けていた。
「結界の魔法式は、干渉が難しい『完璧な式』です。更新の際も解除専門の魔法使いを用意するレベルの魔法。魔物寄せの魔法式を上書きできる人物は、なかなかのレベルに達していると思われます」
「最低限、直接付与法ができる魔法使いですね。しかし、何故中途半端に魔物寄せの式を上書きしたのでしょうか。街の人的被害を狙うのだとしたら、石碑ごと破壊したり、結界の式を強制解除すれば良いのに」
「犯人の目的が読めません。ただ、東の地方は移動に時間がかかります。王都内にいる王宮魔法使いが犯人から除外されるという点では、良かったと言えるでしょう」
魔法局員の言葉に、国王は深く頷いた。
王宮魔法使いは、神獣騎士の次に国民から人気のある職種。国民を守る憧れの存在だ。魔法局内の魔法使いに実行犯がいたとしたら、国の名誉に傷がつき、国民からの信用が下がるところだった。
引退した魔法使いのアリバイは現在調べている最中だが、すでに王宮所属ではない。
国王預かりの身分のものではないため、犯人だった場合は容赦なく罰するだけ。
ただ、高位貴族出身でないことを静かに祈るだけだ。高位貴族は、王族との繋がりが少なからずある。できれば避けたいところだ。
と言っても味方に取り込むため、すでに高位貴族に重要ポストを与えている。国王が与えた恩に仇を返すようなことはしないという自信があった。
そう思いながら、国王は改めて報告書に目を通す。
今回は魔法式の解除ができる若い王宮魔法使いがいたおかげで、現場は最悪の事態を逃れたと書かれている。
有能な臣下がいることに、国王は気分を良くした。こういう人材は重用し、その者の忠誠を手に入れ、そばに置いておきたいのが彼だ。
褒美でも与えよう――と名前と経歴を確認し、肩眉を上げた。
(ヴィエラ・ユーベルト……ルカーシュ・へリングの婚約者か。なるほど、彼と身分差がある相手との突然の婚約に驚いたが、ただの令嬢ではなかったか……うむ)
あることを思いついた国王は目を細め、口を開いた。
「余から、相談があるのだが――良いかな?」
国王にそう言われ、耳を傾けない臣下はいない。
注目が集まったのを確認してから、国王は『相談』という名の命令をひとつ下した。
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