英明な王室

朝山みどり

01 確かに婚約者じゃないよ。だけどね

「お前ごときが口出しできることじゃないのだ」

その言葉を聞いた瞬間、『やった』と思った。


王宮の中庭、文官が多数行き来している。ちょうどお昼の休憩の時間だ。


黙って次の言葉を待つ。


「ふっふっふ口も聞けないな。そのまま黙って聞け」というセリフが続いた。


それはまわりでそれとなく見ている観客に聞こえたようだ。その言葉はお前を追い落とすのだよ、口がにやりとするのを抑える。


わたしはエリザベート・バンドリン。王太子の婚約者最有力で転生者だ。2ヶ月程前に過労で倒れた時前世を思い出した。


ベッドのなかで今の状況を整理して愕然とした。


婚約者でもないのに国に便利に使われているし・・・・多分婚約者は義妹が選ばれる。

というかもう決まってて発表をいつにするかって段階だと思う。


だって、毎朝王家の馬車でお向かいに来るし、帰りは送って貰って帰って来る・・・


学校でも社交界でも2人は公認されているんだよね。一方わたしは一応侯爵家の娘だと思われているといいなぁってとこ。


学校にも行ってないし、母親のお茶会について行ったこともないし、存在を知られていないのだ。


なのに、王太子妃教育を受けて延長で執務のお手伝い、朝、王宮からの馬車に飛び乗る生活だよ・・・・搾取されすぎだって。


わたしの身分は婚約者候補、あくまで候補だ。王太子妃教育まで終わっているけどね。


王宮で王太子妃教育を受けていた頃、王太子とわたしは二人でお茶をしたり庭を散歩したりそれなりに交流し親しくなったと思うが、王太子は学院でシャーロットに会ったのだ。

一応、王太子に婚約者候補がいること、その候補はたった一人だということは貴族は皆承知しているから、王太子に近づく令嬢はいなかったようだが、シャーロットは謎の候補が自分の姉で家で冷遇された女で、もっさりとダサい女と知っているので、平気で王太子に近づき婚約者の座を奪ったのだ。別にいいんだよ、婚約者の座はいらないから。


両親からみるとどちらもこの家の娘だし・・・・



王太子のセリフは続く。


「つまりおまえはバンドリン家の財務に口をだすことはできないのだ。おまえの父親が無能な執事をやめさせて有能な執事にかえることに反対するなどおこがましいのだ。このシャーロットはおまえの暴虐に耐えかねて勇気をふりしぼって俺に相談してくれた。だから王太子の俺が言ってやる。無能なセバスチャンをやめさせてチートンを雇え。いいな」


「かしこまりました。チートンの能力は王太子殿下がその地位をかけて保証するとおっしゃったということでお間違いはないでしょうか?」


「あぁ、もちろんだ」


「ありがとうございます。エドワード様」


とシャーロットがエドワードの手を両手で包んでお礼を言っている。


わたしはさっさと執務室に戻った。


多分、宰相が軽食を届けてくれるだろう。




この世界、魔法と名のつくものも魔獣もいないが、前世で超能力と分類される能力があるようだ。


すごく感がよかったり、運がよかったりとか程度だが、そういった能力の存在を信じて開発しようとする人もいるらしい。


わたし、エリザベートもちょっとだけその能力があるようで、侯爵が友達から紹介されて新しい執事として雇おうとしている、チートンが怪しいと感じたのだ。


だから採用に反対したのだ。普段気の弱いエリザベートにしてはがんばったって感じで・・・・

するとシャーロットが動いたのだ。そして冒頭に戻る。


チートンは税金を横領し金庫から書類などを持って逃げると思う。


だが王太子が雇用を保証した。責任って概念はあいつにないけどね。


家に戻ると親子3人が居間で燥ぐ声がしていた。わたしはいつものように食堂でひとりで夕食をとると部屋に戻った。


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