勇気の侍 ~小学3年生・イケメン地獄編~

ふぁたけ

第一話 「イケメン地獄が始まった」

 二〇〇〇年四月。拙者はある小学校から桶狭間小学校に引っ越してきた。拙者の名前はふぁたけでござる。のちに伝説と言われることになる勇気の侍。しかし、この頃の拙者は小学校三年生のワンパクな小僧でござった。

 初登校の日。拙者は意気揚々と玄関にある己の靴をはいたあと、うしろを振り向いて母上を見るとスーパー笑顔で「それでは行ってくるでござる!!」と言って、飛び出るかのように出発したのでござる。拙者は新しい学校生活のはじまりに期待と不安でワクワクとドキドキが止まらないでいた。

 拙者はこれからはじまるであろう楽しい学校生活に思いを馳せながら、スタスタと軽やかに通学路を歩いて学校に到着したのでござる。そして、門をくぐり校舎の中に入った。そこから玄関に飾ってあるドデカイ学校の地図をみながら二階にある職員室にむかった。そこで、これから御世話になると思われる担任の先生と合流し、教室のドアの前まで連れていってもらった。それから、ほんの一瞬だけ先生と談笑すると先生はボソっと「私が先に教室に行くから、ふぁたけ君は先生が合図したら教室に入ってきてね」と言うと、扉をガラッと開け他の生徒の元へと行くのでござった。

 一緒に教室にはいると思っていたのに拙者は結果的にポツンと廊下に一人になってしまった。そして、拙者は緊張をやわらげるために、買ってもらったばかりの眼鏡を手入れしながら、先生の合図をいまか、いまかと待っていたのでござる。そして、ときはきた。先生がかん高い声で「それでは転校生です。どうぞ!!」と合図を送った。これをきっかけに、いざ出陣!!と勇ましくドアを勢いよく開けた。そして、拙者は黒板の前に立ち元気いっぱいな声をだして「拙者の名前はふぁたけ。よろしくでござる!!」と拡声器かと思わんばかりの特大な大声をだしたのでござった。

 とてもいいスタートダッシュでござった。・・・そう最初だけ。

 あれから幾日も時が流れた。早いもので拙者が桶狭間小学校に入学して一ヶ月たったのでござる。そんなある日のことでござった。拙者は切腹前かと思うほどの暗いテンションで桶狭間小学校の門をくぐっていった。ノロノロと階段をあがったのち教室に入ると、即座に座席にすわり、顔を伏せた。そこには入学当初はワンパク小僧であった拙者の面影はどこにもなかったでござる。

 すると、クラスの女子の黄色い声援が「イケメンのふぁたけ様よ!!」と聞こえてきたのでござる。しかし、拙者はそんなの無視して無表情で己の席でうずくまっていた。拙者は知っていたのでござる。この者たちは本当に拙者のことをイケメンだと思っている訳じゃなく、ただ友達のいないメガネをかけた少年をカラカい半分で言ってる悪ふざけだと。だから拙者はイケメンと言われることが切腹レベルにイヤでござった。

 拙者はこのなんともいえないストレスを解消するために、給食後の昼休みの時間を利用し、職員用の個室トイレで誰にも聞こえないような声で「チキショー」と叫び声をあげていた。職員用のトイレは快適でござった。生徒用トイレと違って、とても綺麗でござった。それでいて人はあまり入ってこないし、生徒は基本的に入れないので洋式トイレを使っても騒がれる心配もない。しかし、そんな快適な場所で叫んでいても全然晴れやかにはならなかったでござる。

 ちなみに、イケメンと呼ばれる原因は拙者が間違えて女子トイレに入ってしまうというミスをしてしまったからでござる。そんなとき、それを偶然担任の先生が発見して大爆笑。その爆音でクラスメイトが女子トイレに集結。そして、先生が「イケメンじゃなかったら切腹ものだよ」と余計な一言を言ったことが原因でイケメンキャラが定着してしまったのでござる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る