第7話 父が私に伝えたかったこと

 数日前、父上が「見聞きしたことを全て小説にしていいからうちに来てくれ!!!!」という(多分)悲鳴まじりかつ意味不明なSMSを寄越してきた。彼には話を針小棒大に盛りがちという悪癖があるのだが、世の中には万が一というものがある。


 ひょっとしたら本当に実家が大変なことになっているのかもしれない……。


 そう思って、私は結構無理をして数時間ほどの時間を作って、実家の様子を見に行った。



 父上がSMSで説明したことには、母が老化の関係で気落ちしていてマジヤバいという話だった。なので、母在宅&父上不在の時間帯に訪問しても問題ないかと思ってそのようにした。ここ数日は気温はマシだが湿度がキツい。


 私がぜーはーいいながらドアを開けると、「来たか娘!!」という声と共にはぜるような老人の笑顔が飛び込んでくる。父上だった。


「……この人は、今日スポーツの寄り合いがあったんじゃないの?」


 私が母に聞くと、


「あなたが家に来るって知って寄り合いを休んだのよ」


 という笑いまじりの答えが返ってくる。本当だったらなんとも可愛らしく微笑ましい話だが、父上本人は、


「ちがう! 雨が降ったからめんどくさくなっただけだ!!」


 と、叫んでいたのでそっちが正解なような気もする。


 彼は、35度でヘバる我々を叱り飛ばし、


「俺が中国赴任をやっていた頃はもっと暑い中働かされていた! おまえたちは、甘えている! こんなものは暑いうちに入らん!」


 と、老害のテンプレのような口上を叫びながら日々ダイエットのために東京中を練り歩いている男ではある。あるのだが、昔から意外と雨には弱いのだ。



「今日はお前に最新のプリンの食べ方を見せようと思う」

「えっ」


 私が回想にふけってぼんやりしていると、急に父上による最新のプリンの食べ方講座が始まってしまった。


「えっ、そんな……プリンに食べ方なんてものある……?」


 困惑する私をよそに、父上は台所へと引っ込んでいった。数分後、アツアツに焼いてトランプカードくらいの大きさに切り分けたトーストとガラス瓶入りのプリンを持って父上が戻ってくる。


「……これを、どうするの?」


 私が聞くと、父上は銀色のスプーンをプリンに突っ込みながら、


「塗るんだ!!」


 と、元気に返答、そのままバターやマーガリンのノリでトーストにプリンを塗りたくり始めてしまった。


「……。……えっ。ええーっ!? なんでこんな変な食べ方するの! プリンはプリンのままでいいじゃん!」


「最近発明した食べ方なんだ!」


 父上は私の抵抗を無視して謎の料理を作成、そのまま出来上がったものを私の口に突っ込んだ。プリンとトーストの味がした。……完全に、想像したまんまの味だ。別に何も新しくない。シナジーも生まれてない感じがした……いや、私にプリントーストの素質がなかっただけかもしれないが……。


「これは本当においしいのよ」


 元々はこういう食べ方には厳しかったはずの母も、我慢しきれない様子でトーストにプリンを塗ってサクサク食べている。


「この食べ方を知ったおかげで、私たちは最近連日狂ったように買っていたシュークリームを我慢することができるようになったの」


「連日シュークリーム食べていたの!? ダメだよシュークリームを連日食べちゃあ!!!!」


 どうも彼らは最近甘味を我慢できない生活を送っていたらしい。外見を見る限りさほど体重が増えた感じはしなかったのだが、そんな、明らかに健康に悪そうな……。

 無駄と知りつつひとしきり注意してみたが、マアたぶんダメそうだ。誰も彼らを止められない。運動は頑張っているらしいので健康に過ごしてくれることを祈るしかない。


 そのあとはひとしきり築古の住宅で発生する問題ついて話し合ったり無印の風を通すシリーズをほめたたえあったり最近日産大変らしいねえみたいな話をして、そして帰った。父上の言っていた「小説にしてもいい大変なこと」というのはいったい何だったのだろう。まさか、プリン……?


 首をひねりながらさっき「プリン トースト」でググってみたところ、この料理自体は普通にあるらしく、健康お役立ちレシピ集みたいなサイトに載っていた。高血圧の方にオススメらしい。本当に!? と思ったが、油や塩分の多いものよりはマシということなんだろうか。鵜呑みにするのは危険な気がするしよくわからない。プリンを塗ってから焼くとおいしいらしい……。


 なにもかもがよくわからないが、私は今日あの時間を捻出するために結構走った。蒸し暑い中走りまくるのは本当にキツかったのだ。それがさあ! まっさきに出てきた話がさあ!! プリントーストって一体どういうことなのよッッッと思いもした。でもまあ寂しかったのかもしれないな。親が少しでも元気でいてくれると私もうれしいので、私の訪問が気晴らしになったんだとしたらそれでいいか。


 そんなわけで、偉大で尊敬すべき男こと父上が私に伝えたかったこと、それは……プリンをトーストに塗ってみよう、ということ。それはシュークリームの代わりになりうるということ……。(私はピンときませんでした)(シュークリーム食べればよくない??)(おしまい)

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