9. 植木鉢を頭にかぶった鉢郎の話(つづき)

 さあ悪い竜はどこだと鉢郎が火の池を覗きこんでみればぶくぶくとあぶくが浮いている。なんだなんだと思っていればざばーっと赤いドロドロとしたものが空高く盛り上がって気づけば巨大な竜の姿となっていた。

「なんだお前は人間か、はじめてみたな」

「我は鉢郎。悪い竜を倒しに来たものだ」

「この私を人間の善悪に当てはめればどちらになるものやら知らぬし興味もない。がここいらに住む竜と言えば私以外におるまいな」

 竜は雄たけびを上げる。炎みたいに真っ赤な体は熱く燃えさかった。そうしてそのままの勢いで鉢郎が身構える暇も与えず口から炎を吹き下ろした。

 それは火の山に住む邪悪な竜が身体の奥底に蓄えている極熱の火炎と呼ばれるもので例えどんなに分厚い鎧を着こんでいたとしてもそれごと燃やし尽くしてしまうという代物だった。事実これまで竜から姫を取り返そうとやってきた者どもを何人も骨も残さず焼き尽くしてきた。

 けれどもどうだろう、竜の炎が途切れたのちそこにはまだ鉢郎が人間の姿をたもったまま立っていた。竜は驚きに目を見張る。こんなことははじめてだ。

 鉢郎はぽんと頭の鉢植えを叩いて見せる。そうか、あの植木鉢は耐熱性だったのだ! だから鉄をも溶かす炎の中でも燃やされずに耐えきることができたのだ!

 といってもこの程度で心の折れる竜ではない。すかさず二の矢が飛んでくる。ぐるりと首をめぐらすとがぶりと鉢郎の頭に噛みついた。鉢郎はまたそれをがっしと頭の鉢植えで受け止めた。

 がしかし今度ばかりはまずいことになったなと鉢郎は噛まれながら思った。ぎりぎりと牙が食い込んできてみしりみしりと鉢植えの壊れる音が聞こえてきたのだ。このままでは鉢植えごとかみ砕かれるのは時間の問題だ。

 どうすればいい? 進むべきか、それとも退くべきか。ぴしり、植木鉢にひびの入った音がする。迷っている時間はない。鉢郎はぐっと右手を握りしめると覚悟を決めた――。

 このまま突っ込め! 全力で突き進め! 鉢郎はあろうことかぐっと足に力を入れるとそのまま竜の口の中にむかって踏み込んでいった。

 予想してなかった行動に竜はうめき声をもらして一瞬だけその顎の力がゆるんだ。好機をとらえてさらにぐぐいと押し入ると鉢郎は邪悪な竜の喉奥にカラスからもらった種をえいやと投げ捨てた。

 ばりばりばり。何者かが殻を突き破って生まれてくる。生命の誕生、その力は何よりも強い。身の内から引き裂かれる痛みに竜はあたりをのたうちまわる。その拍子に鉢郎を吐き出してしまった。

 竜の腹を突き破って引き裂いて現れたのは一本の木だった。小さな種は竜の体を苗床に育つとみるみるうちに大きくなってついには竜をまるごと取り込むと見上げるほどの大樹に成長したのだった。

 鉢郎はその場に座り込むと大きくため息をつく。どうやら自分は悪い竜を退治することができたらしかった。ゆっくりと息を整える。だんだんとあたりの空気が冷たく落ち着いてくるのがわかった。

「すごい、あなたがあの竜をたおしたのですか、ありがとうございます」

 そう言って走り寄ってきて鉢郎に抱き着いたのはお姫様だった。あんまりにも急なことだったので八郎は受け止めきれず後ろに倒れてしまって頭をそこにあった石にぶつけてしまった。

 鉢植えはもう壊れる限界ぎりぎりだったのだろう。最後の衝撃を受けてぱりんと真っ二つに割れてしまった。そうしてその中から現れたのは超絶イケメンの美男子だった。

 お姫様は強いうえにかっこいいのですっかり鉢郎のことが気に入った。ちょっとの間考えてからお姫様は鉢郎に質問を投げかけた。

「こっからさらに印をつけて偽物が現れて一旦帰ってそれから本物が現れるというあのくだりやりますか?」

「いやもうそこまでやらなくても大丈夫だと思いますよ」

「それもそうですね。ざっくり省略してしまいましょう」

 鉢郎の答えにお姫様は満足そうにうなずいた。二人は手と手を取り合って火の山を降りると姫の住んでいた城まで帰っていった。二人は城に着くとすぐに盛大な結婚式をあげてその後はずっと幸せに暮らしたそうです(詳細不明)。

 おしまい!


 思ったより話が長くなった。昨日からあわせてだいたい3000字。『月と三幣』なんて500字程度で終わったのに。

 第8回あたりから改行と空行を増やして読みやすくする。多分読みやすくなったはず。このスタイルが自分の中で定着するかはわからない。とりあえずやってみてるところ。

 第10回でサブタイをつけようと考えてたが試しにちらちらっと読み返してたら簡単に決まったので特にそのための文章を書くことはやめておく。

 それでつけたサブタイをいつ発表するかという話になるが、それはまあ第10回発表のタイミングでいいかなと考えている。厳密には第10回予約投稿した時にしようか、多分。

 次回、一区切りの第10回。

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