7. 赤馬と黒猪(つづき)

 失せろ、てめえこそ失せろ、言葉なしに二者は意思を交わす。同時にその意思は決してひとつの落としどころに落ち着くことはなくどちらか一方の敗北によってしか終結しないと互い理解する。ためらいはない。間合いをはかるなどというまだろっこしいマネを赤馬はしない。それは黒猪も同じだった。どしんと巨大な肉と肉が真っ向から衝突した。

 大地が揺れる、木々がざわめく。変革の予兆を感じ生物のうち鋭いものたちは行動を開始する。赤馬の土手っ腹に黒猪の牙が突き刺さる。どろり血液があふれ出す。赤馬はそれを意にも介さず牙をむんずと掴むとへし折った。黒猪はそれでも離れない。両者は依然零距離にて対立する。空気が震える、高い空を雲が急速に流れ去っていく。

 ずるり。赤馬の左足が土の上をすべる。焦燥。二足対四足、赤馬は自らの力負けを初めて悟る。このままでは不味い、ずるずると押しつぶされてしまう。黒猪がにやりと笑った。勝負はすでについている。搦め手なしの真っ向勝負を挑んだ時点でお前は負けていたのだ。人の時代など永遠にやっては来ない。

 赤馬は耐える。その場で踏ん張る。けれどもそれでできることといえば現状維持で精一杯だ。結果を先延ばしにすることしかできていない。敗色濃厚。じとりと脂汗が額を伝う。背中の筋肉がきりきりと硬直を教える。長くはもたない。力が足りない。ずぶりと一段と深く大地へと足が沈み込む――。

 ――くるくると鳥たちが森の上を飛んでいるのが見えた。心静かに彼らは遊ぶ。それは遠い遠い遠い風景。実在するかもわからない風景。あるいは赤馬の頭の中にだけ存在するのかもしれない風景。無限遠に存在する何か。忘れられない記憶。粗雑な鳴き声が聞こえてくる。それは特定の旋律をもって空気をうねらせた。背後から聞こえてくる。赤馬の知らないもの、それは歌だった。人間たちの歌う、自分らのために戦っている巨人をたたえるための歌だった。

 もりもりと腹の底から力が湧いてくる。両の腕の筋肉がはちきれんばかりに膨れ上がった。黒猪がくぐもった声を漏らした。手ごたえあり。ぐっと前に進むべき方向へと赤馬は一歩を踏み出した。ずるりずるり、大地を抉り黒猪が後ずさる。好機! 赤馬は低く沈み込むと対する獣の前足をがっしりとつかみ取る。声をあげるヒマすら与えない。大きく体を回転させる。勢いのままに赤馬は黒猪を放り投げた。

 どこか遠くの方でざぶんと水しぶきが聞こえた。高くそびえたつ水柱は大地に、赤馬の身にも塩辛い雨を降らせた。歌が聞こえる、喜びの歌。それは鳥たちのさえずりとはどこか似ていてどこか違っていた。大きく、体に残った熱すべてをだしつくすように、赤馬は息を吐いた。土煙が立ち上る。赤馬はどかっとその場に腰を下ろす。心地よい疲労感。空を見上げた。太陽は頂点を過ぎたあたりでゆっくりとその高度を下げていく。

 赤馬はそのまま横になると長い長い長い眠りについた。荒れ果てた地に横たわる大男の肉体は山々の連なりとなり、今では『大赤馬』と呼ばれている。その頭にかざしていた小枝も長い年月のうちに立派な大樹へと育った。おしまい。


 唐突に始まって唐突に終わる。ちょうど2000字で終わればいいがそんな都合のいいことはなく、また都合のいいように押し込めるのも面倒なのでやらなかった。このように自由帳みたいに好き勝手に思いついたものを書いてくスタイルはありだと思う(いいのができたらそこから抜き出してちょこちょこっと手を加えて別でだそう)。タイトルは『○○○自由帳』みたいなのがいいが、○○○にピッタリくるのが今は思い浮かばない。やる気になったらやる。

 これを書いているのは9/22でつまりは明日金曜日は秋分の日だ。ちょうどいいのでこれ『1年ほどまともに書いてなかったので適当になんか書いてみることにする』の投稿を一旦止めて別のを連載することにする。過去に書いたのを出すだけのやつ。最近読み返しはしたが分割はしてない、けどまあ明日にでもざっくりやってしまえばいいと考えている。

 何を書いてもいいとなると実際迷う。ここ数日、1.2回/日とか1.5回/日とか、ちょっとずつずれてたので今日ちょっと多めに書くことで調整する(第7回残り300字ぐらい)。適当にメモ帳からネタを拾ってくる。ぱっと目についたものを拾うのでマジで脈絡ない。

 「左手薬指の爪」。なんのことかというと非常に個人的なことでよくこの「左手薬指の爪」がぎざぎざになっているという話。今見たところだいじょうぶ。原因はよくわからない。ここのところを何かによく使っているのだろうか。

 「官能小説は発表する場所が面倒くさい」。官能小説を書こうかなとたまに考えるけど今使ってる投稿場所カクヨムだと規約上ダメだったような気がする。前にちゃんと読んだんだけど詳しいところ忘れた。一般漫画に出てくるような描写はタグつけときゃセーフだけど、ばりばりエロ漫画な描写はそれでもアウトだったような認識。別の場所探せばいいんだろうけどそれ探すのも、いちいち分けるのも面倒でとりあえずいいやという気分になる。

 2000字をちょっとオーバーして第5回もとい第7回終わり。

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