死者との結婚(その24)
後頭部に激しい痛みを感じた。
その後のことは、何も覚えていない。
・・・釘をハンマーで打つ音で目が覚めた。
だが、真っ暗闇の中だ。
釘を打つ音が、次第に足元の方へ移っていった。
両手を顔の前に伸ばして思い切り突き上げた。
掌が板に当たった。
びくともしない。
腕を左右に振ると肘が板に当たった。
ほのかに木の香りがしている。
「棺桶の中に密閉された!」
髪の毛が逆立つような恐怖が電流のようにからだを走った。
息苦しさに喉をかきむしった。
・・・不意にからだが宙に浮いた。
ゆらゆらと揺れ、やがて車に運び込まれたのか、バタンと扉がしまる音がした。
エンジンの音がして、からだは小刻みに震えた。
どこをどう走ったのだろうか、・・・車は停まり、からだが傾いたまま坂道を運ばれるのが分かった。
「ざくざくざく・・・」
地面を掘る音が微かに聞こえた。
「生きたまま埋葬される!」
残された力を振り絞り、顔の上の板を狂ったように拳で殴った。
殴る音が真っ暗な棺桶の中で響いた。
拳が痛み、痺れた。
おそらく、拳は血だらけなのだろうが、真っ暗闇の中では何も見えない。
あらん限りの声で叫んだが、天上の神どころか、地上の誰ひとりにも、その声は届かなかった。
「はあ、はあ、はあ・・・」
聞こえるのは、犬のようにつくじぶんの荒い息だけだった。
ゆっくりと下降して棺桶が地底に達すると、頭上でばらばらと土塊が落ちる音がした。
もはや、抗う力もない。
息をつくことすらままならない。
・・・暗闇の彼方へと意識が次第に遠のいていった。
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