第17話 No.1美女,ウラバーレ・トレーラン

ー ダンの部屋 ー


 フララは,一日ぶりにダンの部屋に戻った。ダンとエバルダは,この王都で,No.1美女と誉れの高い少女の噂を聞いて,その少女を誘拐した。それは,昨日のことだ。だが,誘拐してきたはいいのだが,この女性はそのままずーっと誘拐してほしいと言う始末だ。ダンとエバルダは,彼女を誘拐してから途方に暮れていた。


 そんな折り,フララがやっとダンのもとに戻ってきた。


 ダン「師匠! 遅いですよ! 何していたのですか!」

 フララ「怒らないでちょうだい。自分のおっぱいを大きくしてきたのよ。ダンに栄養たっぷりの母乳を与えるためによ。では,さっそく,誘拐した少女のおっぱいをいただこうかな?」


 この話を聞いて,誘拐された少女が,立ち上がって,フララに自己紹介をした。


 少女「あの,,,フララさんですね?私は,ダン様とエバルダ様に誘拐されたラレルです。17歳です。処女です。おっぱいはDカップです。よろしくお願いします」


 ラレルは,フララに深々とお辞儀をした。ラレルが自分が処女で,Dカップだと言ったのは,ダンから誘拐の目的を聞いていたからだ。


 フララは,少々あっけにとられた。ラレルはさらに自己紹介を続けた。


 ラレル「私,もうすぐ,ここの大富豪と婚約させられてしまいます。私の父がその大富豪にかなりの借金をしているらしくて,無理やりその大富豪のどら息子と婚約させられてしまいます。私は,反対したのですが,婚約だけなら,いつでも婚約破棄できるからと,無理やり押しつけられて,,,明日,お披露目があるのです,,,,わーーん!」


 ラレルは,顔を覆って再び泣き出した。フララは,未だ状況がわからず,ダンにさらに詳しい状況を聞いた。


 ダン「つまり,その,大富豪のどら息子は,大金持ちで,かつ母親が王族なので,家柄には申し分がないのですど,20歳にもなるのに,いまだ,恋人も,婚約者もいないんだって。そのそのどら息子の写真を見せてもらったけど,,,」


 ダンは,ここまで言ってクスクス笑ってしまった。ダンは,ラレルから携帯を借りて,ドラ息子の写真をフララに見せた。


 ダン「師匠,見てくださいよ!このズングリムックリ! 身長が1メートル20cmくらいだって!」


 フララは,携帯に写っているそのズングリムックリのどら息子を見た。それは,確かにズングリムックリで,禿げ頭で,醜男と言ってもよかった。これでは,とてもいくらお金があっても,家柄がよくても,結婚相手は見つからないだろうと思った。しかし,フララは,それ以上に,このどら息子のオーラが気になった。不気味なオーラだった。


 フララ「どら息子は,剣士なの?魔法士なの?」

 

 ラレル「魔法士だと聞いています。それもSS級レベルだそうです。ズングリムックリでなかったら,最高の結婚相手なのに」


 フララ「写真を見る限り,このズングリムックリはただものではない感じがするわ。まあいいわ。ラレルさん,あなたのおっぱいを分けてもらいたのだけど。あなたのおっぱいは回復魔法でさらに巨乳になってグラマーになるわよ。いいでしょう?」


 ラレル「ダン様やエバルダ様にはお伝えしたのですけど,私をこのまま誘拐していただけるのなら同意します。あのどら息子の名前はイブルといいますが,イブルは私兵を使って私の捜索をしてくるでしょう。どうか,このまま誘拐してください。お願いします」


 ダン「え?あのイブル兄さんですか?2,3年前に,会ったことがありますけど,あんなズングリムックリではなかったと思ったのですが,,,人って変るものですね,,,」


 ラレル「ダン様?あなたも王族なのですか?」


 ダンは,口をつぐんだ。今の彼の身分は平民でないと困るのだ。


 ダン「ラレルさん。今の話は聞かなかったことにしてください」


 フララ「ラレルさん,先ほどの話ですけど,何週間も誘拐し続けるは無理ですけど,2,3日くらいなら,誘拐してもいいですよ」


 ラレル「それで充分です。お披露目会が2日後にあるので,それさえ阻止できれば,大丈夫です」


 フララ「では,あなたのおっぱいを分けてもらうわ。服を脱いでベッドの横になってちょうだい。痛みも血も出ないから安心してちょうだい」


 フララはラレルを安心させた。この部屋には男のダンもいるので,少々恥ずかしかったが,ワンピースを脱いで全裸になった。ラレルは胸あてやパンティを着ていなかった。ラレルの極上のDカップのおっぱいと美しいピンク色の乳首が姿を現わした。


 ダンは,フララの超爆乳を何度も見ているし,彼女を抱いたこともある。だから,超美人には免疫があるし,巨乳・爆乳にも耐性がある。だけど,かわいらしいレベルのDカップのおっぱいは,そんなダンをしても,欲情させるには充分すぎるほどの美しさだった。さすがに,王都No.1の美貌とスタイルと謳われることはある。


 ラレルは潜在的に犯され願望があった。というのも,あんなズングリムックリに処女を奪われるのなら,誰でもいいからラレルに欲情する男どもの餌食になるほうがましだと考えた。そのため,すぐに犯されてもいいように胸あてやパンティを穿いていなかった。


 ラレルの潜在的願望とは裏腹に,彼女の存在はこの王都でも有名になりすぎた。彼女がひとりで町を歩いていても,どこからともなく親衛隊が現れて,彼らが周囲を監視する始末だ。とても痴漢やごろつきがおいそれと襲えるような状況ではない。


 そんな状況下でも,ラレルが百貨店のトイレにひとりで入った時,エバルダがその隙を狙って,彼女を気絶させて,彼女の服を換えてカツラをかぶせて,別人に変装させた。そして,ラレルの親衛隊をうまく巻いて,ダンと共にラレルの両脇を支えるようにして,旅館に連れてきたという経緯がある。


 フララは,まずラレルの痛覚を無効化した。そして。ラレルの胸を輪切りに切り取って,それを自分の胸の中に入れていった。エバルダがラレルに回復魔法をかけてワンランク大きい胸にしていき,再び輪切りにカットするという操作を5回繰りかえした。その座業に1時間ほど必要とした。


 ラレルの胸は両方の乳房で4kgものIカップに変化した。そして,フララの胸は,は両方の乳房で8kgものMカップに変化した。その後,フララは,ラレルの痛覚無効化を解除した。


 この部屋の中では,巨乳のエバルダが一番小さい胸をしていた。彼女はGカップだ。両方の乳房で2kgもの重さなので,立派な巨乳なのだが,ラレルやフララのそれと比べると見劣りがした。


 ダンは,滅茶苦茶喜んだ。ラレルの体型がさらに妖艶さを増したからだ。しかも,処女だ。もしかしたら,ラレルの処女をもらえるのではないかと一瞬考えることもあった。でも,婚約者の相手がイブル兄さんなのを思い出して,その考えは諦めることにした。


 ダンは,一定の条件をクリアすればという条件つきだが,エバルダを抱ける状況にある。そのため,ガツガツと自己の性欲のままに行動することを抑えることはできた。たとえラレルを犯すことが充分可能な状況ではあっても,『親戚の情』を優先する程度の理性はあった。


 ダン「ラレルさん。すいませんが,急いで服を着てください。目に毒です。私の下半身が爆発しそうです」


 ラレル「あら,そういえば,股間が膨らんでいるわね。どう,あなたに処女をあげてもいいのよ?」


 ダン「いえ,止めておきます。イブル兄さんが後で知ったら,私は確実に殺されてしまいます」


 ラレル「そうね。イブルは,見かけはズングリムックリでも,SS級魔法士だからね。敵に廻すと大変だわね」



 コンコンコン!!


 ドアをノックする音が聞こえた。その後,声が聞こえた。


 「憲兵隊だ!!ラレルお嬢様誘拐犯を探している!部屋を改めさせろ!!」


 この場にいる全員が真っ青になった。なんで,ここがバレたのか?! だが,今は,そんな悠長なことは言っていられない。ここは2階だ。飛び降りるにも危険だ。それに,最近の磁場嵐が活発な状況では転移魔法は使えない。標的魔法陣を使うという手もあるが,今のフララは,隣室に子分を5名も従えている。彼らを放置することもできない。


 フララは,ゆっくりとワンピースを着た。そして,彼らと戦うという単純な方法をとった。フララは,ニヤッと笑った。というのも,その思考が千雪様とそっくりだからだ。面倒いことは,力でねじ伏せるという発想だ。


 フララ「エバルダ,ドアを開けていいわよ」


 エバルダ「わかりました」


 フララは,引きドア式のドアを開けた。憲兵隊が5名ほどそこにいた。憲兵隊の小隊長が言葉を続けた。


 小隊長「では,中を改めさせてもらう」


 「待って!」


 その声は,フララだった。フララは,すぐに次の言葉を発した。


 フララ「これ以上,この部屋に入ると,命の保証はしないわよ。これは,脅しではありません。必ず,そうします。私は,ラレルお嬢様の保護者フララです。わかったら,さっさとここを去りなさい」


 小隊長「何をバカなことを言っている! ここにラレルお嬢様がいることは,羅針盤で判明しているんだ。彼女を連れていく」


 小隊長とその隊員5名は,この部屋に入った。そして,数歩歩いたところで,彼らはその場に倒れた。そして,彼らは,みるみると老人化していきミイラになっていった。


 フララのこの能力は,ダンとエバルダにとっては周知のことだった。だが,憲兵隊員たちを一瞬で気絶させる技は,初めてみた。


 ラレルは驚愕した。「これって,何?フララさんって何?悪魔?魔女?」


 ダン「師匠,また腕を上げましたね。一瞬で気絶させるなんて,どんな技なんですか?」


 フララ「ちょっと,拾いものをしただけよ。直接的な霊体攻撃ができるようになったのよ。頭部に防御結界をしていないと,一瞬で私の霊体攻撃にやられるわよ。ふふふ」


 ダン「霊体攻撃?なんですか?それ?」


 フララ「ちょっと情報の共有が難しいわね。霊体攻撃のマニュアルが私の霊体に張り付いてる感じね。その都度,マニュアルを見て攻撃する感じよ。2,3回経験したら,マニュアルを見なくてもできるようになるけどね」


 ダン「なんか,すごいですね,師匠! でも,私も負けてはいません。今では30倍速ができるようになりました! エバルダは10倍速止まりですが,それでも,防御方面では,かなりのものです。充分に戦力になります」


 フララ「ダン様,母乳は明日にはあげることができます。それを飲んだら50倍速を必ず達成するのですよ!」


 ダン「師匠!任せてください。大丈夫です」


 フララ「私は加速はあきらめたわ。もともと,巨乳がネックで,動きずらいのよ。まあ,いいわ。私は,私の得意方面で能力を展開していくわ」


 ガラガラガラーー

 

 ラレルは窓が自動で開いたように見えた。でも実際のところ,フララが霊力の腕を使って,開けただけだ。そして,5名のミイラを霊力の腕で抱きかかえて捨てた。


 ドンドンドンドンドン!


 5体のミイラが地に落ちた。


 「キャーー!」

 「人殺しーー!」

 「キャーー!」


 通路を歩いている者たちが悲鳴をあげた。


 その悲鳴に,隣室にいたキダルたち5名が,異変を感じてフララの部屋に飛んで来た。


 キダル「フララ様?何か異変が生じたようです!」


 フララ「ちょうどいいわ。私の仲間を紹介します」


 フララは,キダルたちをダンたちに紹介した。


 フララ「エバルダは,ラレルを抱いて,あの中庭に飛んでちょうだい。キダルたち5名は,隣の部屋で待機してちょうだい。これまで通り,魔力の修練に励んで。特に命令がなければ,明日からは,これまで通りの生活に戻りなさい」


 キダル「了解です」


 キダルたちは,やっと,フララから解放されると思って安心した。


 エバルダはラレルを抱いて霊体の翼で窓から飛んでいった。その後を,フララとダンが飛んだ。


 中庭に着地したあと,ダンは,フララに心配事を言った。


 ダン「師匠,明日には,王立アカデミーの予備科の編入試験があるのです。こんなことして,大丈夫でしょうか?」


 フララは,仮面を2つ亜空間から取り出して,ダンとエバルダに渡した。


 フララ「とりあえずは,それをつけていなさい。身元がばれることはないでしょう」

 

 その中庭に,旅館の待合室で待機していたズングリムックリのイブルが,自分の女性私兵隊と残りの憲兵隊を連れて現れた。イブルの魔法のレベルは,ガルベラ女王でさえも一目おくほどのものであり,かつ王族ということもあり,憲兵隊のブグダ隊長は,イブルをガルベラ女王に次ぐ重要人物という認識でいた。


 ブグダ隊長「イブル様,敵は,人をミイラ化させる能力を使うようです。コードネーム『チユキ』と同じ能力です。雪生は北部防衛戦線の作戦で死亡したはずですが,同じ能力を持つ仲間がいたようです」


 ピューー! ボォーー!(魔法陣が出現した音)


 ブグダ隊長の近くに防御壁が出現して,2名の女性戦士が出現した。US級魔法士のウラバーレとTU級魔法士のトレーランだ。


 彼女らの出現は,普通の転移魔法とは違っていた。フララは,キダルにあの転移魔法について聞いた。


 フララ「あの転移魔法は何なの?普通と違うみたい」


 エバルダ「似たような転移魔法陣を見たことがあります。隣国の国王軍が対戦闘用に使用する『防御転移陣』です。戦闘中に転移を有効化するため,攻撃魔法を防御するシールドを構築してから転移するものです。電磁嵐にも対抗できると聞いたことがあります」


 フララ「なるほどね。すごい転移魔法陣のようね。おまけに,やつら,性懲りもなく再び現れたわ」


 フララは,ウラバーレとトレーランを見てそう感じた。同様に,彼女らもフララを見て同じように感じた。


 ウラバーレは,フララを見て,びっくりした。彼女は,まさにコードネーム『チユキ』だった。ウラバーレは,ガルベラ女王から,もし,雪生が生きていたら,戦闘をせずに情報収集に留めるように言われていた。そこで,フララに問いただすことにした。同時に,霊力の動きにも注意した。今では,ウラバーレとトレーランは霊力を10分間目視することができる。


 ウラバーレ「コードネーム『チユキ』! あなた,北部防衛戦線の戦闘中に,死んだんじゃかなったの?なんで,こんなところにいるのよ! もしかして,あなた,あの,ケンという人とは,別人なの?」


 フララ「あらら,また遭ったわね。ここに,また殺されに来たの?もっとも,殺されても,すぐに霊体転移魔法陣で戻されてしまうのでしょうね,ふふふ」


 ウラバーレは,びっくりした。なんで霊体転移魔法陣のことを知っているのか?


 フララ「あら?びっくりした顔しているわね。私と戦うと,その霊体転移魔法陣を阻止するかもしれないわよ。試してみる?」


 ウラバーレ「私たちは,あなたに手を出さないわ。でも,教えてちょうだい。ケンとあなたは,別人なの?」


 フララは,隠す必要もないので正直に話すことにした。


 フララ「そうよ。別人よ。私は,3体の肉体を持っているのよ。ケンに一体を与えたけど,北部領域で破壊されてしまったわ。もう一体は,隣国メランブラ女王国の王宮でズタズタにされてしまった。今のこの体が最後の体よ。本来なら,私は,もとの世界に逃げ帰ってもいい状況なんだけどね。でも,ケンの仇をとりに北部領域を征服にいかないといけないのよ。その後,この国の女王に,ケンを守ってくれなかったお礼参りをするわ。ガルベラ女王にはそう伝えてちょうだい」


 ウラバーレ「なるほど,,,あなたもそれなりに苦労してきたのね。わかったわ。女王に伝えておくわ」


 イブルは,ウラバーレに向かって言った。


 イブル「おいおい,待て待て!勝手に話をすすめてんじゃねえ!お前らは,国王軍のトップ戦士だろう?俺様の婚約者を奪った相手を放置して,どうするんだよ!それでも国王軍か!」


 ウラバーレ「イブル様。相手は,あのコードネーム『チユキ』です。死んだと思っていたのですが,目の前で生きていました。われわれが全力で戦えば,なんとかなるかもしれません。ですが,それなりに被害も大きくなってしまうでしょう。今は,北部領域の魔獣対策に戦力を当てたいのです。こんなところで,戦力を消耗したくありません。それは女王様のご意向でもあります」


 イブル「コードネーム『チユキ』が何だっていうんだ!婚約者ひとりも救えないで,何が国王軍だ!俺様を誰だと思っているんだ!」


 ウラバーレ「え?ズングリムックリじゃないの?」


 この言葉に,時々笑い上戸になる妹のトレーランが思わず吹き出してしまった。


 トレーラン「ふっ,ハハハーー」


 イブルに常に付き添っているメイド服の巨乳メイドが,イブルにささやいた。その時,イブルの両手を自分の巨乳に触らせるのを忘れなかった。


 巨乳メイド「イブル様,ここは,怒りを抑えるところです。イブル様の敵は国王軍ではありません。コードネーム『チユキ』です。『チユキ』から婚約者を奪還するのが大事です」


 イブルは,巨乳を触って,デレレレとなった。それを見たフララが嫌味を言った。


 フララ「あらら?ズングリムックリさんは,メイドさんの巨乳がお好みなのね?あなたにぴったりよ。メイドさんのおっぱいでも吸って大きく育ってちょうだい」


 この言葉に,トレーランの笑い上戸に火が着いた。


 トレーラン「ハハハ,ハハハーー」


 トレーランは,お腹を押さえて笑い転げた。


 巨乳メイド「イブル様,怒ってはいけません!繰りかえしますが,敵は国王軍ではありません。コードネーム『チユキ』ですよ。わかりましたか?」


 イブル「わかった。それはいいから,あのトレーラン!この国の最強の戦士をなんとかしろ!」


 巨乳メイド「わかりました。少々お待ちください」


 巨乳メイドは,笑い転げるトレーランにのそばによってきた。その場で,メイド服のボタンを外して,大胆にも,右側の2.5kgにもなるJカップもの乳房をペロンと露わにした。そして,その豊満な乳房をトレーランの口元に押し込んで,強制的に笑いを止めた。


 トレーランは,突然口元に乳房が突っ込まれてしまって,笑いを継続することができなくなってしまった。しかも,相手が素人の娘ということもあり,この境地を魔法で脱出することもできない。幸い,魔体をしているので,呼吸をしなくていいのが幸いした。もし,生身の肉体なら,即効で窒息死していたところだ。


 イブルが従えてきた10名の私兵隊員は,全員が女性だ。女性私兵隊と言っていい。だから,巨乳メイドは,いつもイブルの屋敷でするように『笑い止め』したまでだ。イブルの屋敷には,もちろん男性私兵隊もいる。誘拐されたラレルの奪還作戦のためには,ラレルの体に触れる可能性があるため,女性私兵隊を選択したまでだ。イブルが変態だからという理由では決してない。


 トレーランのばか笑いが止んだところで,イブルは,本題の件を切り出した。フララに,婚約者のラレルの解放を要求することにした。


 イブル「おい!コードネーム『チユキ』!さっさと,ラレルを還せ!さもないと,,,」


 フララ「さもないと?何?メイドの巨乳のおっぱいでもしゃぶるの?」


 トレーラン「ハハハ,ハハハ,ーー」


 トレーランは,巨乳のメイドを自分の体から力一杯突き放して,再び大笑いを始めた。


 イブルは,怒りを抑えた。しかし,ここで癇癪を起こすわけにはいかない。人質にラレルが捕られている。そのラレルはというと,ラレルも口を押さえて,笑いを堪えている状況だ。


 イブルは,女性私兵隊の筆頭戦士ジブに命じた。


 イブル「ジブ!『チユキ』に攻撃しろ!!」


 ジブ「了解しました」


 ボァーー-


 ジブは,フララを中心に,重力魔法を展開した。重力魔法なら,反撃される可能性も低い。しかも,わずが1.5倍程度の軽い重力魔法だ。ちょっとだけ攻撃していますよというポーズ的な攻撃だ。


 フララたちは,突然1.5倍の重力を感じた。その攻撃に悪意は感じられなかった。フララは,術者を特定した。女性戦士だ。女性戦士でも容赦はしないのだが,悪意のない攻撃なら,殺すことまではすることもない。


 フララから術者のジブまで15メートルほど離れている。霊力が充分に届く範囲だ。フララは,地表に霊力の層を流した。その霊力は,まっすぐにジブに向かっていった。それは魔力を抑えるだけの攻撃なのだが,その霊力がまさにジブに届くという時,,,


 バシュー!!


 剣がジブの手間に投げ出された。霊力の層は,ジブの手前で,その侵攻が阻止された。


 フララ「え?」

 ダン「あ!阻止された!」

 エバルダ「うっそーー!」


 霊力を見ることができる3名は,びっくりした。初めてフララの霊力が阻止されたのだ。


 イブル「『チユキ』!俺だって,霊力を見ることができる。もう,お前の力は,特別なものじゃない。ラレルを還してくれたら,見逃してやる!もっとも,すでに5人も憲兵隊を殺したのだから,憲兵隊は黙っていないがな」


 イブルはこの言葉を発した後,ジブに重力魔法を解除させた。解除後,ジブは手前の剣を引き抜いてイブルに還した。


 フララは,ダンに言った。


 フララ「人質のラレルがいる限り,爆裂や火炎魔法は打ってこないわよ。あとは,どうにかして,この状況を切り抜けるかだわね」


 ダン「思い切って,全員を皆殺しっていうのはダメなんですか?証拠が残りませんよ」


 フララ「あらら?それって千雪様の発想ね。それも悪くないけど,あの笑い上戸,半端ない強さだと思うわ。正面攻撃は避けたいところね。でも,われわれに敗北の文字はないわ!」


 エバルダは,その台詞に感動した。


 エバルダ「フララ様,なんかかっこいい台詞ですね。気に入りました」


 フララ「エバルダに気に入られてもね,,,彼女たちは,不意打ちで一度殺したことはあるけど,霊体転移魔法で,また復活してしまったわ。でも,私は,それを阻止することができると思う。霊体転移魔法は使えないけど,その攪乱術ならいくらでもあるわ」


 ダン「なんか,よくわかんけど,すごいです!」

 エバルダ「それって,すごいことなんですか?」


 フララ「たぶん,すごいことだと思うわ。この世界では,私にしか扱えない魔法だと思うの」


 ダン「やっぱり,師匠はすごかったんですね。一生,ついていきます!」


 エバルダ「フララ様,捨てないでください!」


 ダンとエバルダは,適当にフララをおだてあげた。

 

 この膠着状態をなんとかしようと,イブルは,口火を切った。


 イブル「『チユキ』!では,俺と賭けをしよう。一対一の対決だ。ただし,殺すのはなしだ。俺が勝てば俺の命令をひとつ聞け。お前が勝てば,お前の命令をひとつ聞こう」


 フララ「それも悪くないけど,あなたは,私の敵ではないわ。ダンに勝つことができたら,私に挑む資格があるものとしましょう。あなたたとの挑戦を受けてたちましょう」


 イブル「ダン?どこかで聞いたことがある名前だな?そうか,ゴゲラート領主の息子もそんな名前だったな。同名が多い名前だったのかな?まあよい。それで構わない」


 フララは,ダンに命じた。


 フララ「ダン,イブルを倒してきなさい。殺してはダメよ。それに,無理はしなくていいわよ。もし,相手があなたに迫る能力であれば,負けを認めて私に譲りなさい。わかった?」


 ダン「師匠,任してください」


 一方,イブル陣営では,この勝負に憲兵隊のブグダ隊長が異論を唱えた。


 ブグダ隊長「イブル様,勝手にそんなことをされては困ります。もし,イブル様が負けたら,われわれは何も手が出せないことになります」


 イブル「ブグダよ。そのときは諦めろ。私が負けたら,トレーランが戦っても,勝てるかどうかあやしいものだ」


 ブグダ隊長「え?何を?」


 ブグダ隊長は,イブルが何を言っているのか分からなかった。イブルはSS級魔法士で,トレーランはその100倍も強いTU級魔法士だ。とても勝負になるレベルではないのに,,,


 イブルが,ひとりで5メートルほど歩み寄ってきた。フララ陣営からは,ダンが出てきた。


 イブルは,仮面をしたダンが,ゴゲラート領主の息子だと認識した。2,3年会っていないとはいえ,その持っている雰囲気でわかるものだ。


 イブル「なるほど。お前は,『チユキ』の弟子になったのだな。それに,その体,かなり強化されている。もう,人間のそれではない。みごとなものだ」


 イブルは霊力を見ることができる。その訓練の過程で,イブルはオーラも読み取ることができるようになった。そのことによって,相手の力量を的確に判断できた。それは,イブルにとっては,強力な武器となった。


 ダンは,自分がゴゲラート領主の息子だと認識されたと判断した。ここは,礼で返すところだ。ダンは,深々と頭を下げた。


 ダン「はい。師匠の弟子になりました。魔法力は,相変わらず大したことはありません。でも,今の私は,加速が30倍速使えます。言ってみれば,霊力拳法の師範代レベルに達しているといえるでしょう」


 イブル「なるほど,,,霊力拳法か,,,いい言葉だ。では,私は,魔法を捨てて,同じく拳法で応対しよう。私の拳法はそうだな,,,変体拳法とでもいうところか?」


 「ハハハーー,変態拳法だって!!ハハハーー」


 この言葉を聞いてトレーランは,収まりかけた笑いがぶり返した。すぐに巨乳メイドがトレーランのそばに寄ったが,トレーランは,巨乳メイドの『巨乳攻撃』をうまく躱した。


 イブルは,トレーランの笑い声などを気にしていなかった。


 イブル「ダン,では,準備はいいかな?」


 ダン「はい。いつでもどうぞ!」


 イブルは,ズングリムックリのデブで1m20cmしかないチビだ。だが,イブルも加速が使えた。本来,加速は剣士が使うものだ。魔法士は,使えたとしても,せいぜい2倍程度だ。魔法で自己能力を2倍にする魔法だ。


 だが,イブルは違った。それは魔法でもなければ霊力でもない。別のパワーの源だ。


 イブル「10倍速!」


 イブルは,10倍速で,ダンに向かって,短い腕による掌打を放った。その速度に,ダンは,一瞬あせったが,すぐに反応して,その掌打を躱した。躱す際に,ダンは回し蹴りを放った。


 その回し蹴りは,イブルの両腕によってガードされた。ここで,両者,いったん,身を引いた。


 イブル「ダンよ。私の10倍速を躱すとは,たいしたものだ。30倍速が使えるのは,ほんとうらしいな」


 あのズングリムックリしたイブルが10倍速が使えるのを見て,びっくりしたのは,何も,ダンだけではなかった。とりわけ,憲兵隊の隊長や隊員,ウラバーレ,トレーランはびっくりした。


 ブグダ隊長「ま,まさか,,,あのイブル様が10倍速を使えるなんて? SS級剣士でも使えるかどうかというレベルなのに,,,」


 ウラバーレ「なぜ女王様がイブル様に一目も二目も置くのがわかったような気がしたわ。イブル様の強さって,魔法ではないのかもしれないわね。トレーラン! いつまで笑いころげているのですか! その変体拳法をしっかりと見ておきなさい!」


 ブッフフフ


 その言葉に,トレーランは,やっと笑いが収まったところに,追い打ちをかけるかのように,笑いが再発してしまった。


 イブル「では,加速をアップして15倍速でいく」


 イブルは,15倍速でその短い足で回し蹴りをダンに仕掛けた」


 ダンは,イブルがなにか,もっと危険な技を隠し持っている,という認識を持った。というのも,自分が30倍速を使えるといっても,まったくイブルが動じなかったのも変だ。普通なら,戦線離脱しておかしなくないのに,,,,


 ダンは,イブルの15倍速の回し蹴りを躱した。だが,躱すのに精一杯で,反撃はできなかった。


 イブル「見事だ!よくぞ躱した。では,次のステップに移るか,,,変体拳法その1」


 トレーラン「ブブツ,ハハハーーー,変態拳法そのいちだってーーー!」


 しかし,トレーランの笑いは,すぐに,途絶えた。


 ボボボボボーーー!!


 1m20cmしかないイブルのその身長は,ボボボボと音を立てて,巨大化していった。


 フララ「え?何?変身?まさか?おっぱいが大きくなるのと分けが違うわ!ありえない!」


 エバルダ「フララ様,これは現実です!しっかりしてください」


 イブルの体は,ズングリムックリのまま,1m80cmにも巨大化していった。腕のリーチ,足の長さも通常の人と変らないレベルになった。ただ,ズングリムックリのデブの体はそのままだった。


 イブルは,首の形状がわからないほど脂肪に覆われていたが,首を左右に振って,体調を確認したかと思うと,加速30倍で,ダンを襲った!!



 ダン!ドン!バシャ!ーー


 ダンとイブルの激突は,凄惨を極めた。イブルの攻撃は,何度かダンにクリーンヒットしたが,ダンの強靱な肉体は,霊力の防御がない状態でも,さほどダメージを与えることはなかった。


 だが,ダンの体長は1m55cm程度だ。同じ30倍速でも,身長差と体重差によって,ダンは,いくつかの攻撃を防御できたものの,その勢いを止めることはできず吹き飛ばされて,フララのそばで倒れた。


 イブル「『チユキ』,これで,お前と戦う資格があると思うのだか?いかがかな?」


 フララは,ダンに言った。


 フララ「ダン,もっと早く母乳をあげて50倍速を達成させるべきだったわね。ごめんね。でも,後は,私に任せてちょうだい」


 ダンは,ゆっくりと立ち上がって,返事した。


 ダン「私もびっくりしました。まさか,この30倍速で負けるとは思ってもみませんでした。でも,新しい目標ができました。いい経験でした」


 フララ「そう?よかったわね」


 フララは,ラレルに言った。


 フララ「ラレルさん,あのイブルは,ただ者じゃないわよ。120cmの体長は,あれは仮の姿ね。そして,たぶん,あのズングリムックリの姿も仮の姿でしょうね。本当の姿は,意外とハンサムかもしれないわよ,ふふふ」


 ラレルは,その言葉を聞いて,一瞬,顔を真っ赤にした。もし,そうならラレルは逃げる必要などまったくないのだ!


 フララは,ダンに替わって,イブルの方に数歩歩み出た。

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