レディ・ショート・ガレージ
ははぅ
第1話 それは夢の話だから
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今日みた夢の話を小説にしようと思う。
僕はPCを立ち上げて、夢をテーマにした小説を書き始めようとした。
そこでふと我に返る。僕はしっかりと僕の夢を覚えているのだろうか。漠然と書き始めて、書いてる途中で忘れてしまってはまずい。であれば先に夢の顛末をしっかりと思い返し、メモにでも残しておくべきだろう。
その夢は僕が実家の庭に立っているところから始まった。
うむうむ、まずは『実家』と。
そこには大学時代ともに学業に励んでいた同級生の吉田と懐かしい顔が並んでいる。そこで僕は最初は楽しんでいたような気がする。夢の中だったけれど楽しかったなぁ。メモメモ『吉田』っと。
そんなしていたら突然空が真っ暗になって、雷鳴が鳴りだしたんだ。「やばいやばい!」なんて慌てていると、吉田が被った皮を破きその正体を露わにしたんだ。
なんとっ、そいつは三毛猫だったんだ! 大事なところだ、忘れないようにメモしなきゃな『実は三毛猫だった』……、よし。
そして僕はその三毛猫の吉田と剣と魔法の大冒険をする……って夢だった。
うぅむ。今思い出してもスペクタクルにあふれる素敵な夢だった……。出来るだけ多くの人に知ってもらいこの感動を分かち合いたいぜ……。
がちゃり。
部屋の扉が開く音がし振り返る。
そこには知らない人が立っていた。ズタ袋を頭にかぶり顔は見えず男女の違いも分からなかった。しかし、手に握られた包丁からはどうしようもないほどに、向けられた殺意のほどを推し量ることができた。
包丁が迫る。必死に抵抗を試みたが成果空しく、僕の胸に深く突き立てられた。
胸の激痛は一瞬だった。痛みを伝える回路はもう機能せず、体も動かなくなり、夢の話を小説にできなかった後悔だけが残った。
1
とあるアパートの一室で殺人事件が起こった。
鑑識の一人が死亡した男性が握りしめていたメモ書きを発見した。死の直前に書き記しその手に握りしめたのだろう。ダイイングメッセージ、というものだろうか。
『実家』『吉田』『実は三毛猫だった』……?
鑑識の頭に?が浮かぶ。何かの隠喩だろうか。隠されたメッセージがあるのだろうか。そう思い、鑑識は職務に従い、重要証拠物件として提出した。
捜査班の優秀な思考、緻密な聞き込みや関係者への取り調べ、そうして至った犯人逮捕後も、しかし被害者が残したダイイングメッセージと思わしきメモ書きの意味が分からなかった。
事件後残されたそんな奇妙な謎は新聞に取り上げられ、名探偵“小此木 清四郎”の目に触れた。その日、小此木は新聞記事に記載されたその謎を目にし、直後知り合いの刑事に電話をした。
「あー、仕事中悪いね桃ノ木くん。新聞に載ってた謎のダイイングメッセージ事件、担当キミの警察署だったりするだろうか」
「ああ! 名探偵“小此木 征四郎”さん! ええっ、あっしらのシマの事件だったんですが、犯人が捕まったっていうのにダイイングメッセージの謎だけがいまだ明らかにならずどうにも難儀していたところなんですわ。何か興味深いご意見でもいただけるんで?」
「あー、うん。大したことじゃあないんだがね、二三気になることがあってね」
「あの名探偵“小此木 征四郎”の質問とありゃあ二三といわず百でも二百でも答えますよ!」
「くっくっく、相変わらず悪い警官だねキミは。それでなんだがね、この死人はどんな格好で死んでたのかな?」
「恰好、ですか? ええっと、確か片手を握りしめ反対の手をPCに向かって伸ばすように息絶えていたと思います」
「なるほど、じゃあ次だ。のんきものは夢を見ないというのを聞いたことはあるかい?」
「? 質問の意味が分かりませんが、少なくともあっしは夢を見ることは少ないですね」
「だろうね」
「?」
「あー、うん、おそらくなんだがね、件のダイイングメッセージはただ被害者が見た夢をPCに書き込もうとするためのメモ書きってだけだと思うよ。犯人も捕まっているんだろう? こんな実利のない謎の解明に税金と時間なんか使ってんじゃあないぜ。せいぜい今日も仕事に励むんだな」
「ええー-! どういうことですか名探偵“小此木 征四郎”さんっ! 夢!?」
「あー、いいからいいから。こんなの大した推理じゃあない。人に披露するようなもんでもない。僕の話はこれっきりにして、仕事に戻るんだ。いいね? それは夢の話だから、もうこれっきりにしようぜ」
桃ノ木刑事は納得がいかず何度か問答を繰り返し名探偵から謎の真相を聞き出そうとしたが、結局小此木からその答えを得られることはなかった。逆に「こんなつまらないことで電話をしてしまって悪かった」などと言われてしまうとそれ以上の追及もできようもなく、しぶしぶといった様子で電話を切った。
2
名探偵“小此木 征四郎”はその実超能力により事件の真相を突き止める“超能力探偵”であった。彼が解決した事件は、彼が超能力により獲得した普通には知りえない情報を基づいた推理から逆算して暴かれたものであり、今回の事件もそうだった。
その日、小此木 征四郎は夢を見ていた。
仕事をする夢だ。現場に残された死体を現場検証に訪れていた桃ノ木とともに眺める夢である。
「そういえば、あっし実は三毛猫だったんですよぉ」
そう言いながら桃ノ木の皮を真っ二つに現れた三毛猫の姿と「にゃー」が頭から離れない。そんな夢を、その日の朝に見ていたのである。
「ったくさぁ……。“超能力”っていやぁなんだってアリだと思ってんじゃあねえかな。んだよ夢って……」
そんなお小言を言いながら、コーヒーに口をつけながら、小此木は新聞の続きに目を進めるのであった。
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