平穏な日常と新たな同盟関係

 私は王宮での戦後処理を終えて、久しぶりの我が家に帰ることになった。もちろんメリルも一緒に帰る。


『おかえりなさいませ。ブルセージ様、メリアお嬢様……』


 私たちが屋敷に到着すると、使用人たちがお出迎えをしてくれた。

 予想外にも一人多かったので使用人たちは状況を理解できなかったようだ。


「旦那様、おかえりなさいませ。こちらの少女は?」

「ああ、メリアの養女になった。ザンネーム王国で幽閉されていたのをメリアが保護して養女にしたのだ」

「そういうことでしたのね」

「お母様、紹介いたします。養女のメリルです。ほら、練習した通りごあいさつを」

「はい、メリアお母さま。セルビア様はじめまして、メリルともうします。よろしくおねがいいたします」


 え、いま私を「お母さま」って。メリルはなんて可愛いのかしら萌えてしまいますわ。


「初めまして、メリル。私はメリアの母です。よろしくね」


 玄関口であいさつを済ませると、私は自分の部屋へメリルと一緒に向かった。私の部屋では、セリアとユリネスが先に待っていてくれた。


『おかえりなさいませ、メリアお嬢様、メリル様』

「ただいま、セリア、ユリネス」


 ユリネスはセリアにだいぶ鍛えられ、使用人としてもだいぶ板についてきたみたいだ。


「セリア、この子が私の養女となりました。教育は全くされてこなかったので、私がいない間はメリルの教育をお願いできるかしら」

「かしこまりました、メリアお嬢様」

「あと、ユリネスには、メリルの魔力コントロールの鍛錬をお願いしますわ。優秀な魔術師の先祖返りみたいなので魔力が非常に高いの」

「はい、お任せくださいませ」


 こうして、私が王宮へ行っていて屋敷にいない間はセリアとユリネスに任せることになった。


 この後、もうすぐ夕食の時間になり、私は室内用の洋服に着替える。

 メリルには私のお古をセリアが持ってきてくれて、メリルのお着替えはユリネスがしてくれた。


「メリル、お夕食の時間ですわ。一緒にまいりましょう」

「はい、メリアお母さま」


 私とメリルは、セリアたちに優しい笑みで見送られながら食堂へ向かった。

 食堂の席につき、家族全員が揃うと食事が始まる。

 メリルは貴族の作法を心得ていないので、今日は私が膝の上に乗せて食べさせることにした。


「メリル、フォークとナイフってわかるかしら? これをこうやて使うのよ」

「はい、メリアお母さま」

「じゃぁ、はい食べさせたげる。あーん」


 私は料理をメリルの口の大きさに合わせて切り分けて、メリルの口元まで寄せてあげる。


「あーん」


 ぱくりとメリルは食べて、とても美味しそうな顔をする。


「メリルおいしい?」

「うん、おいしい」

「まぁまぁ、もうメリアはお母さんですわね」


 お母様は私とメリアのやりとりをとても柔らかな表情で見つめていた。そういえば、メリルにお父様とお母様をどのように呼ばせればいいのかしら。


「お父様、メリルに『お祖父様』と呼ばれるのはどう思われますか?」


 お父様は急に話を振られてビクッとした。そんなに驚くことかしら。


「ああ、かまわんぞ。孫は欲しかったからな。だが、こんなに早く言われるようになるとは思ってもみなかったよ。あはは」


 お父様は、ショックと嬉しさが混同していて気持ちの整理がつかないようだ。 

 気持ちが落ち着いたら私の時と同様に、お父様はメリルを溺愛するのが目に見えている。


「お母様はどうかしら?」

「ええ、問題はないわよ。『お婆様』と呼んでちょうだい」


 お母様は凄い、動揺を全く見せないようにして受け入れてくれた。


「おじいさま、おばあさま、よろしくおねがいしましゅ」


 メリルはとても無垢な笑顔で改めてお父様とお母様にあいさつをした。

 流石に混乱していたお父様も、メリルの笑顔に落とされてしまったようだ。


 メリルの笑顔の破壊力、恐るべしですわ。


 食事を楽しんでいると、大人の時間になってしまった。

 メリルを一人で部屋に返す訳にはいかないので私もメリルと一緒に私の部屋へ戻った。


 部屋に戻ると、セリアとユリネスが就寝の準備をしていてくれた。

 私とメリルがベッドの中に入ると、セリアとユリネスはあいさつをして私の部屋から出ていった。


 私はメリルの頭を撫でながらメリルが先に眠りにつくのを見守る。


「おやすみなさい、メリル」

「うん、おやすみなさい。お母さま」


 メリルが目を閉じるとあっという間に眠ってしまった。

 私も旅の疲れが溜まっていたのか、その後すぐに眠ってしまった。


 翌朝、私が王宮へ出勤しようとした時、メリルが寂しがって大変だった。


「メリル、私は今からお仕事なの。夕方には帰ってくるから、セリアやユリネスの言うことをちゃんと聞くのですよ」

「はい、お母さま。わがままいってごめんなさい」


 私はメリルの頭を撫でて屋敷を後にした。


 ザンネーム王国の脅威がなくなって、平穏な日常が戻った。

 しかし、残念な人たちがミリタリア帝国に亡命したとうことは、また何かを仕掛けてることは間違いないでしょう。


 油断はできませんわね。


 王宮での会議の結果、ルキア王国に主に食料や建築資材の物資提供をすること、復興の軍資金も分割返済ということでサイネリア王国から資金を貸し出すことが決まった。

 基本的には、ルキア王国はサイネリア王国の属国という扱いになる。


 残念な人達が共謀してルキア王国を奪還することも念頭に入れておかなければならない。

 

 ルキア王国内の防衛拠点建築の計画もこれからやっていく方針となった。


 ある日、シャルラハロート王国の第1王女、ヴィオーラ・フォン・シャルラハロートが特命全権大使としてサイネリア王国にやってきた。

 シャルラハロート王国とサイネリア王国との同盟についての打診だった。


 シャルラハロート王国は世界有数の超大国だ。


 今後、世界規模でサイネリア王国が様々な問題に巻き込まれることになっていく……。


第3章 完


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第3章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。


次回からは第4章となります。


引き続き、応援をよろしくお願いいたします

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