ドラゴン少女と賢者の書物

 ダンジョンの中は真っ暗だった。


 生活魔法の『ライト』で道を照らしながら進む。

 

 石畳の整ったイメージがあったが、ただの洞窟だ。


 入り組んだ迷路にもなっていない。

 

 「まぁこんなものかぁ」と思いながら進んでいく。


「ダリア、いつ副騎士団長になりましたの?」


「本日付で、副騎士団長に任命されました。メリア様にご協力させていただいた結果、認めていただけました。本当にありがとうございます」


 ダリアは戦略家や指揮官を目指して努力していたもの。


 グワジール元宰相の関係者の捜査に、ものすごく貢献していたわ。


「でも、5人ほど認めたくない騎士がいて決闘したのよね。しかも1対5で」


「一人ずつ相手をするのが面倒でしたので、まとめてお相手をさせていただきました」


 ダリアはアリスに次ぐ実力者だ。


 力でねじ伏せて認めさせたって訳ね。


 呑気に雑談をして進んでいるが、魔物が1匹も出てこない……。


「メリア様、魔物の気配は感じましゅ、す。ですが、怯えて隠れている様子ですね」


 ノエルも本当に成長した。


 魔物の気配察知どころか常態まで把握できるという。


 萌え要素も健在で、とても素敵ですわ。


 カーナとミリーナは素材散策に必死なご様子。

 

 しかし、上級冒険者を返り討ちにした魔物たちが誰に怯えているのかしら。


 不思議ですわねぇ……。

 

 序盤の探索は魔物が1匹も姿を現さなかった。


 さすがに階層が深くなるにつれて、襲ってくる魔物の数が増えてきた。


「メリア様、ここは私にお任せください! とぉりゃぁぁぁ!」


 アリスが目を輝かせながら魔物を無双していく。


 この世界では魔物を倒すと魔石が残る。


 魔物と獣とは全く違う生き物のようだ。


 魔石は後ろにいる私たちが回収していく。


 

 最新部に到達すると何百年も開かれていなかったような錆び付いた大きな扉が存在していた。


「メリア様、この扉の向こうにものすごい魔力を持った魔物がいます。お気をつけください」


「ええ、わかってますわ。ありがとう、ノエル」


「メリア様、この扉をどうやって開け……」


 ダリアが話しかけようとしたが驚いた表情で私を見た。


 すでに私は扉に両手で開けようとしていたのだ。


 錆び付いてて重そうな扉を開ける方法を考えていたのでしょうね。


 そのまま私は扉を押していたらズズズと扉が開いてしまった。


「頑張って押したら開いてしまいましたわ。おほほほ」


 ノエルが試しに押してみるも、びくともしなかった。


 ……知らない間に「怪力公爵令嬢」になってますわ!?


 ノエルは尊敬の眼差しで見つめてくれる。


 ありがとう、ノエル。


 他の子たちは現実を理解するのに少し時間が必要だった。

 

 扉の向こうには大きな空洞になっていて、大きなドラゴンが待ち構えていた。

 

 ドラゴンの後ろには金銀財宝の山がある……。


「人間がここまで来るとは久しぶりですね。300年ぶりってとこかしら」


 しゃべるドラゴンなんて驚きですわ。


 話し方からしてメスのドラゴンかしら。


 私は好奇心のあまり無意識にドラゴンに近づいていく。


 すると、ノエルが珍しく大きな声で叫んだ。


「メリア様、危ない!」


 ドラゴンが火炎のブレスを放って、私は魔力障壁を展開し炎に包まれる。


『メリア様!?』


 炎が消えると無傷の私にみんなが驚く。


 ドラゴンも驚いているようだ。

 

 あら、私、なにかやってしまいました?

 

 後ろを向いたところを、ドラゴンが突進してきて右前足の爪でひっかいてきた。


 振り返ると、私は目の前のドラゴンの前足を軽く掴む。


「なっ?」


「あら、私と握手ですか。よろしくお願いいたしますわ」


 私はドラゴンと握手して腕を振っていたら、手がすべってしまいドラゴンが飛んでいって壁に激突してしまった。


 ドラゴンはとても痛そうにしている。


 私はドラゴンに近づいて声をかける。


「ドラゴンさん、大丈夫でございますか?」


 私がドラゴンに声をかけると、ドラゴンが急に縮んでいき人型の姿に変わった。


 そしてドラゴンは土下座をする。


「申し訳ございませんでした。なにとぞ、命だけはお許しください」


 命乞いだった……。


「無駄な殺生は好みませんわ。大丈夫ですから、顔を上げてください」


「あびばぼうごばいます」


 やばいですわ、これは反則ですわよ。


 泣き崩れた少女のような姿に負けましたわ。


「これで涙を拭いてください」


 私はドラゴン少女にハンカチを渡して落ち着くのを待った。


 その間に友人たちも駆けつけてきた。


 しばらくするとドラゴン少女は落ち着いたようで、私に話しかけてきた。


「取り乱しまして申し訳ございません。私は竜人族のユリネスと申します。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ええ、私はメリア・アルストールよ。『メリア』でいいですわよ」


「メリア様、ありがとうございます。メリア様を主として、私と従属契約を結んではいただけないでしょうか?」


 そんな涙まじりの瞳でお願いされたら断れないわよ……。


「わかりました。ユリネスの主となりましょう」


「ありがとうございます」


 私はユリネスに教えたもらった通りにする。


 ユリネスの胸に手を当て魔力を流しながら言葉を発する。


なんじ、我を主人として主従の契約をする。なんじの名は……』


『ユリネス』


 ユリネスの胸に紋様が浮かび上がり光り輝いてしばらくすると光はおさまった。


「メリア様、これで契約完了でございます。しかし、この魔力は……」


 私の魔力は異質なのだろうか。知られない方がいいわよね。


「しぃー、口に出してはなりません」


「申し訳ございません」


 私以外には聞こえなかったようなので、良しとした。


「メリア様、こちらをお受け取りください」


 ユリネスは一冊の古い本を差し出した。


 保存用の魔法がかけられていて朽ちてはいなかった。


「これは何かしら?」


「300年前、友人であった賢者様の書物です。お役に立てればと思いお渡しいたしました。あと、こちらの宝もメリア様にお渡しします」


 賢者様の本は、軽く目を通したが古い文字で書かれていて解読には時間がかかりそうだった。


 しかし、魔法陣なども描かれていたので魔法関係の書物だと思う。


 お父様を治す魔法もあるかもしれない。


 また、ユリネスが集めたお宝も私が預かることにした。

 

 ダンジョンのボスであるユリネスが私と従属契約をしたことで、ダンジョン内の魔物の気配が無くなった。


 そういうものなのかとみんなで納得することにした。

 

 カーナによると鉱石がたくさん採掘できるそうだ。


 今後、王宮の事業として整備をしていくことになった。

 

 ユリネスはアルストール家の使用人見習い兼守護者として働いてもらうことになった。


 セリアからたくさん指導されて涙目で助けを求めにくる。


 そこは、心を鬼にしてセリアに任せることにした。


 頑張るのよ、ユリネス!



 翌日出勤すると、ザンネーム王国から密入国してきた集団がいるとノエルから報告が上がった。


 もう、仕事を増やさないでくださいませ!

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