剣の師匠こと力の戦士に勝ってしまいましたわ!

 わたしは今、家族と夕食をとっている。


 家庭教師のセイリル先生から今日の成果について報告が上がっていたようだ。


「メリア、すごいじゃないか。家庭教師の先生がとても褒めていたぞ」


「ありがとうございます、お父さま。わたくし、お父さまのために頑張ってたのですよ」


 ——しまった、言いすぎたよ。


 お父さまが喜びのあまり泣き出してしまった。


「旦那様、お食事中ですよ。そのへんになさってくださいませ」


 お母さまがお父さまをなだめてなんとかおさまった。


「お母さま、明日は剣と魔法のお稽古ですよね」


「そうよ、王国の民を守るために剣と魔法を覚えるのは貴族として必要なことなのよ」

 

 明日は午前中に剣の稽古、午後には魔法の稽古の予定になっている。


 ——前世では学生時代に剣道部に所属していたのだけど、役に立つのかしら。


 魔法にかんしては未知の世界なのでワクワクが止まらない。


 わたしはまだ5歳なので早めに食事を切り上げておやすみの時間になる。


 これ以降は大人の時間なのです。


「お父さま、お母さま、お先に失礼いたしますわ。おやすみなさいませ」


「おやすみ、メリア」


 お父さまとお母さまにお嬢様らしい挨拶をして自分の部屋へ戻った。


 部屋に戻ると、セリアが控えていてくれてお着替えをしてくれる。


「メリアお嬢様、今日はとても素晴らしかったと伺っております」


「わたくしはまだまだですわ。早くセリアみたいに素敵な女性になりたいわ」


「ありがとうございます。メリアお嬢様」


 セリアは優しい笑みで応えてくれた。


 着替えが終わるとわたしはベッドの中に入る。


 そして、セリアがそっと布団をかけてくれた。


「セリア、おやすみなさい」


「メリアお嬢様、おやすみなさいませ。失礼いたしますね」


 セリアが部屋の明かりを消し、わたしの部屋を出て行った。


 わたしはそのまま目をつむりそのまま眠りについた。



 翌朝、食事を終え数刻たつと、剣の稽古をしてくれる先生がやってきた。


 今日は外の稽古場での授業になる。


 もちろんお洋服ではなく稽古着を着ている。


「初めまして、メリアお嬢様。私、パワード・ソルジャーノと申します。剣の稽古を担当させていただきます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」


「わたくしは、メリア・アルストールです。パワード先生、よろしくお願いいたします」


 パワード先生は名前の通り、とてもパワフルな体つきをしている。


「では、基本的な剣の型からやりましょうか。まずはこちらの木の剣をお持ちください」


 わたしは、剣道の竹刀を持つように両手で木の剣を握った。


「ほう、初めて剣を握ったにしては様になっておりますね。では、こちらのデク人形を木の剣で叩いてください」


 稽古場に剣の練習用にいくつかデク人形が設置されている。


「たぁぁ!」


 わたしはデク人形を木の剣を大きく振りかぶって叩いた。

 

 めきめきっ!


 ——あ、やってしまった。


 手加減をするのを忘れていた。デク人形を木の剣で切り裂いてしまった。


 パワード先生は口を開けて驚いている。


 しかし、すぐに正気に戻ったみたい。


 ——さすが、力の戦士だわ。


「メリアお嬢様、驚きました。先ほどの剣さばきはどこかで見たことがあるような……」


「おほほ、デク人形が少し痛んでいましたわ」


「いやいや、それでも素晴らしい動きでした」


 ——さすがに剣の先生だけありますわね。


 動作を見ただけで相手の技量をある程度わかってしまうのですもの。


 ごまかしきれないでしょうね。


「では、メリアお嬢様。私とお手合わせをお願いいたします。ご遠慮なさらずに打ち込んでください」


「はい、パワード先生」



「たぁぁ!」


 わたしはパワード先生に向かって両手で木の剣を握って打ち込む。


 パワード先生は片手持ちの木の剣で受け止めた。


 さすがに力も技量も違いますわね。


 パワード先生が剣を振り払おうとしてきたので、わたしは後ろへ飛んで下がる。


 パワード先生が木の剣を振り下ろしてきたので、わたしは木の剣で上手くいなしてかわす。


 突きを入れてパワード先生の右肩をポンと軽く叩いた。


「わははは、メリアお嬢様。一本取られました。さすがでございます」


「いえいえ、パワード先生の力と技量にはまだまだ及びませんわ」


 ——手加減、難しいですわ。


 でも、体を動かすのは気持ちがいいですわね。


 パワード先生ならちょうど良いお相手で嬉しいですわ。


「いやいや、ご謙遜を。稽古を積んでいけばあっという間に私など追い越してしまわれるでしょう」


 パワード先生の目の輝きが怖い。


「パワード先生、お褒めのお言葉ありがとうございます」

 

 ——いやいやいや、貴族学校へ入る前にパワード先生を超えてしまう? 


 あと2年近くもあるのよ。


 こっそりと手加減をする練習をしませんと悪目立ちしてしまいますわ。


 パワード先生と会話をしている途中にカランカランと正午を知らせる金の音がなった。


「では、メリアお嬢様。本日の剣のお稽古はこれにて終了とさせていただきます。有意義な時間をありがとうございました」


「いえ、こちらこそありがとうございます。パワード先生」


 お洋服ではないが、優雅に挨拶をして剣の稽古を終えた。


 ——昼食の後は魔法のお稽古よ。前世にはない未体験ゾーン、楽しみですわ。

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