第六話 「魔道着」
武蔵は、目を覚ますと保健室のベッドで横たわっていた。
誰かが運んでくれたのだろう。
辺りを見回すと、傍には風道さんがベッドの横で椅子に座っていた。
「あっ起きた? 大丈夫? 何ともない?」
「うん、大丈夫。何ともないよ」
僕はそう言うと、風道さんは溜息を一つ吐いて安心したかの様に微笑む。
「なら良かった。異能は気をより多く消費するから、今回のように気がすっからかんになって気絶しちゃう事もよくあるの。だから、気を付けてね」
「うん、心配かけてごめんね。まさか気絶するとは思わなかった」
「ううん、私も説明不足で悪かったわ。にしても、まさか部活入って一日で異能使えるとか思わなかったわ。正直、あなたの才能にはビックリよ」
「えへへ、それほどでも」
俺は風道さんの返答を褒め言葉として受け取り、悠然とした態度で返す。
「それで、突然なんだけど……」と風道は話題を変えて、「大会に出ない?」と聞いて来た。
市内大会がある日は、今から二週間後だ。
もちろん出たいとは思う。でも、俺は部活に入ってから僅か二日しか経ってない。
そんな俺が出ても、負け試合になるだけだ。
白灰との実戦をしてみて思い知った。異能を使えるだけじゃまだまだだと。
「だから……」
「いや、十分強いから……」
「……え?」
あっさり否定された。
しかも、何か怒ってるようにも見える。
あれ? 俺、何か言ったっけ……
「はぁ……武蔵君って凄い謙虚なのね」
風道は溜息を少し吐いて、呆れたような態度で言葉を続ける。
「あのねぇ。異能をそんな簡単に習得した人なんて、日本中探しても一人二人位しかいないのよ。それくらい強いのに、市内大会で負けるなんてあり得ないんだから。まぁ、それでも大会に出るかどうかは、あなた次第になる訳だけど」
う~む。これほど言われたら、遠回しに行けと言ってる様なものだ。
それ位、自信を持てという事か……。
「分かった、行くよ」
そんな言葉にしょうがなく承諾すると、風道は口角を上げて嬉しそうに微笑んだ。
「良かった! それなら、これから大会の選手としてよろしくね!」
強引だな……まぁ実際、楽しいからそれで良いか。
「うん、よろしく。それで、大会に行くのは良いんだけど、ちょっと不安が……」
「不安……?」
風道さんは、首を傾げて聞いてくる。
「うん、白灰君と実戦した時に思った事なんだけど、あれほどの殺傷能力がある異能を使ったら、場合によっては死ぬかもしれないじゃん。だから、どんな風に戦えば良いのかなって……。ルールとか全く知らないし」
「あぁ、そういう事。武蔵君って異能格闘技見たこと無いの?」
「見たこと無いね。俺の家は空手一筋だったから、そういう異能とは無縁だったし」
「そうだったんだ......。凄く意外ね......」
風道さんは、目を開いて驚いた表情をしていた。
「世間だとかなり有名なスポーツになってるし、見た事が無い人なんて初めて見たわよ」
「え、そんなに有名なの!?」
「そんなに有名よ。
例えば、世界ランク一位の
「俺ん家、テレビとか無いからニュース分かんないんだよね」
「え? 武蔵くん家、テレビ無いの!?」
またもや風道さんは驚いた表情をする。
「うん……。親が、うちは全部スマホとかパソコンで大丈夫だからって」
「すっごい現代っ子だ……! そっか、それなら分かんないのも当然ね……。じゃあ、教えてあげる。
異能格闘技っていうのは、実は空手と同じで道着を着て戦うの。でも、それは普通の道着じゃなくて
”魔道着”《まどうぎ》って言って、魔力が込められた道着なの」
「あっ、それを着る事で怪我をしないで済むとか?」
「察しが良いわね。その通り。正確には怪我をしてもすぐに自動で回復してくれるの。魔力が尽きない限りはね」
「なるほどね、それで大けがとかしないのか……」
「うん、それでも痛いことには変わりないけどね。昔はそれでよくトラブルがあったらしいし……」
異能でトラブルって言ったら、やっぱり犯行になるか、ならないかとかそんな感じかな。
まぁ、異能力を使った犯罪はまぁまぁ多いし、それが一番有力か……。
「まぁ、あるよね。そりゃあ」
「でも今は少しずつ改善されていってるから大丈夫よ、安心して! 気にせず戦って良いからね」
「まぁ、そういう事なら、分かった。気にせず戦える」
「それなら良かった。じゃあ、道着は先生に頼んでおくとして、市内大会までにはあなたをきっちり鍛えてあげるから、そのつもりでよろしくね」
「よろしく頼みます」
「うん」
とまぁ、そんな感じで、俺は異能格闘技の大会に出る事になった。
---
そして時が経ち、二週間後、俺は風道さんや白灰君に異能格闘技のあれこれを学んだ。
そして、大会の会場へと足を踏み出した。
マゼンコバトル @nenonezumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます