【ヒメカの街 01】

 カミルに二人で文字を教わるようになり、恋唯は簡単な単語なら理解出来るようになってきた。

 アルバンも時折二人の勉強を見てくれるのだが、そうするとリリーも参加したがるので、勉強会は日に日に賑やかなものになっていく。

「そろそろ街を見て回りたいと思っているのですが、私が一人で出歩いていると目立つでしょうか。住民以外がうろうろしていると、不審に思われそうですか?」

 街の空気や治安といったものが分からなかったので尋ねると、アルバンは大らかに笑った。

「不思議がられたら私の患者だと伝えれば大丈夫でしょう。今までも診療所を訪ねて他所の街からやって来る方はいましたので」

「お父さんはね、フェードゥンの名医で有名なんだよ!」

 リリーが自慢げに胸を張る隣で、カミルもニコニコしている。

「コイお姉ちゃんがお外行くなら、リリーも一緒に行きたい!」

「いいのでしょうか?」

「リリー、コイさんをちゃんと案内するんですよ?」

「大丈夫!」

 父親から任されて、リリーが意気込んでいる。

 カミルが学校に行き、診療所の朝の診察が落ち着いた頃を見計らって、恋唯とリリーは外出することにした。

 若子も当初は着いて行きたがったが、診療所内ですれ違う男性の患者の姿に無意識に怯えている姿に、恋唯とアルバンは気付いていたので、二人して止めることになった。

「若子さんはもう少し様子を見てからにしましょう」

「街がどんな感じだったか、戻って来たらお話しますね」

「……分かりました。楽しみに待ってます!」

 時折不安そうにしている様子が見受けられる若子だったが、恋唯が話しかけると落ち着くようで、健気な姿が愛らしい。

 妹がいたらこんな感じなのだろうかと、恋唯は思わず考えてしまう。

「コイお姉ちゃんとワコお姉ちゃんは、家族なの?」

 手を繋いで歩いているリリーに尋ねられ、恋唯はどう答えようかと思案する。

 リリーとカミルには、自分たちがハズレ異世界人だということも伝えていない。

 ただ事情があってハンスから紹介された患者ということになっていた。

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