【新しい生活 04】
「若子さん、やっぱり細いですよね。ブラウスがガバガバになっちゃう」
「胸がないって言ってくれていいですよ……」
恋唯が服を取り出してくれたので、若子は早速着替えることにした。
貰ってきた服をベッドの上に並べ、恋唯と二人でどれがいいかを吟味する。
「いえ、胸が無いと言うより、脂肪が無いんですよ。地下のあんな環境で生活していたのだから、無理もありません。ワンピースの腰のところ、リボンで絞ればいいかな……? あ、こっちの襟があるブラウスにしましょうか」
「あ、あたしも、そっちのほうがいいです」
肌が出ないブラウスもあったのかと、若子はホッとした。
ハンスの娘の好みなのか、この国ではこれが標準なのか、胸元の露出の高い服が多くて驚いていたのだ。首元のボタンまでしっかりと留めて、若子はようやく着替えを完了する。
元はショートカットだったのが中途半端に伸びてしまった髪を首の後ろで結び、サイドの髪だけは垂らす。
自分の癖の強い髪質を若子は気に入っていなかったのだが、恋唯は手先が器用なのか、綺麗にセットしてくれた。
「コイお姉ちゃん、入ってもいい?」
「ああ、リリーさんですね。入れても大丈夫ですか?」
「あっ、はい。大丈夫です」
若子に確認を取って、恋唯が扉を開けると、小さな女の子が勢いよく飛び込んで来る。
リリーが迷わず恋唯に抱きついたので、若子はぎょっとした。
「お父さんのお話、終わった? リリーと遊んで!」
リリーという名の小さい女の子は、豊かな黒髪を左右に分けて、三つ編みにしていた。
どうやら恋唯がそれを結んであげたらしく、嬉しそうに手で掴んでいる。
「あのね、今日はこれがいいけどね、明日は頭の上で結んでほしい! コイお姉ちゃんとお揃いにしたい! お母さん今いないし、お兄ちゃんもお父さんも、リリーの髪結ぶの、へたくそだもん!」
明るい黄緑色の瞳が無邪気に輝いている。恋唯もそれを受けて微笑んだ。
「ふふっ、そんなことお父さんとお兄さんが聞いたら、ショックを受けちゃいますよ」
「ほんとのことだもーん! ぐしゃぐしゃになっちゃうんだよ!」
「たった一日でめっちゃ懐かれてる……!」
リリーは流れるような甘え方で、椅子に座る恋唯の膝の上に乗り上げた。
安心しきったように、小さな体を恋唯に預けている。
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