154-1 FAST 光の大精霊の大切なもの
アルヴィンはにこりと微笑み、大聖堂の中を見てくれというように腕を広げた。
「この中、不思議に思わなかった?」
「うん……ピアルーンの教会の中と全く同じだよね」
「そうだよ、じゃあ面積も不思議に思わない?」
「確かに……」
大聖堂はピアルーンの教会の何倍も大きな建物だったというのに、中に入ってみたらとてもこじんまりとしている。大きさの比率がおかしい。
「先程、アルヴィン様が異空間と言っていましたね」
メティスの声に私も頷いた。
「今までの話を整理すると、光の大精霊がこの大聖堂に開かずの扉を作ったらしいから、この異空間も光の大精霊というのも頷けます」
「選ばれたものしか入れないと言っていましたが」
私達の回答にアルヴィンはうんうんと頷く。
「大聖堂は実在するよ、けれど入り口が違うだけ。光の大精霊に招かれた者だけが異空間に繋がるんだ。本来の大聖堂の中にある開かずの扉もまた光の大精霊が作ったものだけど、表側からはどこにも繋がっていない。この異空間の裏側からじゃないと入れない」
アルヴィンが部屋の奥を指さすと確かに金色の扉があった……異様な空気を醸し出している。
「異空間にだけその扉が使えるのなら、表にその扉のダミーを作る必要は無かったのでは?」
「光の大精霊は隣国の大聖堂と縁があるという情報を広めたかったようでね。ヴァンブル王国でも光の大精霊がもうこの国にありたくないと言葉を残したあとに隣国へ行った、という話があるだろう? ここに繋がるんだ……そして思惑通り君はここへやって来た」
アルヴィンが私に手を差し出しながら答えろと言う。
「問おう、初代聖女の生まれ変わりは誰か?」
「え……」
以前のように私かルティシアで迷っていた時の態度と違う。確実に、明確に、初代聖女が誰であるのか分かっているという目だ。
メティスの方をチラリと見る。彼もまた私を見ていて、その目に戸惑いはない。そうだよね……メティスはもう、分かっているもんね。
「……初代聖女の生まれ変わりは、私だね」
「そうだよ、君が初代聖女の生まれ変わりで……」
アルヴィンは話している途中に口を押さえた。彼の口からは答えられない名前という事?
「初代聖女の名前は、エルローズ……だね」
「そう、そうだよ……エルローズだ」
今度はすんなりと言えた。制約の発現条件がよく分からない。
「契約魔法をかけた人物が生きている場合は魔力を注げば制約内容の更新が出来る筈。過去に言えた事も言えなくなる事もあるし、稀な条件を満たせば制約を破り喋れるようにもなるらしいですよ」
流石にメティスは呪詛系にも詳しいようで、なる程と頷いた。
「今アルヴィンが喋られるようになったのは?」
「……ウィズ様が口にされたあとで話せるようになったという事は、ウィズ様が制約魔法を解除したのでは」
「わ、私? 何も意図していないのに?」
「無意識に願う程に親しい間柄であり、対象が解呪魔法に長けているのなら可能ですが」
「次の問いだよウィズ」
アルヴィンは続ける、まるで私のその疑問に答える為のように。
「妖精について……は喋られるかな。妖精という存在は遙か昔、ルーパウロの主が初代聖女の為に生み出した存在だった」
それはエランド兄様の部屋で見た夢と同じ話! あれはやっぱりただの夢ではなく、前世で本当にあった話なの? ルーパウロの主なんて名前、何故アルヴィンが知ってるの?! 慌ててメティスを見ると、メティスは眉をしかめていた。
知らないんだ……その事は。あの時もメティスだけは起きていたし、ピアルーンの街で暴走したメティスは初代聖女に殺された事を嘆いて魔王の力を復活させかけたけど、全てを思いだした訳じゃないの?
「最初はね、初代聖女を守る為と世界に蔓延る瘴気を集めて聖女に浄化してもらう為の存在だった」
「瘴気……って、クラリス様を助けた狩猟祭の時に聞いたあの」
「そう、今の世界ではほぼ見ないだろう? けどそれは聖女亡きあと、妖精が人知れず瘴気を集めて、聖木に溜め込んでくれているお陰だ、そして瘴気をたっぷり吸い込んだそれの事を人は【妖木】と呼んでいる。それは何れ大きな力を持ったモンスターとなり、破壊の限りを尽くす。そうなってから倒すという方法を今の時代はとっているだろう? 昔は生贄を差し出し諸共消すか、聖女が力を与えた武器で祓うか、聖女の力で祓えていたけど、今はそれが出来ないから妖精が機能してくれている」
アルヴィンはにっこりと笑う。
「さあ、その狩猟祭の時の問いだ。ウィズ、君は妖木と出会った?」
「で、出会ったよ。結界を抜けた途端、瘴気を溜め込んだ木が突然襲い掛かってきたからそれで。でも、懐いてくれて今では私の愛馬に……」
「ウィズ様、それはつまりウィズ様が妖木を浄化したという事では?」
「え……えぇ?!」
メティスも流石に予想外だったようで焦っているけど、アルヴィンは肯定するように頷く。
「で、でも! チェルシーちゃんはトレントのままだよ! 人懐っこいけど邪悪で可愛い見目のままだし浄化したようには見えない!」
「邪悪な事を普通可愛いって言わないですよ」
「可愛いもん!!」
「聖女の力が覚醒していないから浄化も半分しか出来ていないんだよ」
聖女の力が覚醒していない? どういう事? でも私は生まれつき闇属性の力をもっているって鑑定も受けてるのに。
「聖女の力を覚醒させる為、そしてアレの封印を解く為に重要な石があっ」
アルヴィンが咳き込む、口元から血が流れ出していて制約魔法で言えない事なのだと理解する。
「い、いいよアルヴィン! 無理に言わなくていいからっ」
「……大丈夫、その話ならレグルスなら出来るから」
「レグルスが、なんで?」
「ウィズに会えなかった間に、アイツも自分で調べてくれてね、俺が話せなくてもその真実には辿り着いてくれたから」
そういえば、ここに来る前にレグルスが戻って来たら何でも話してやるって言っていたっけ。レグルスは私の素性も分かった上で、何か重要な事を教えてくれようとしているのかな?
「半分でも聖女の力をもっている君は何度か無意識に力を使った事がある筈だ」
「そ、そんな覚えは」
「例えば、狩猟祭の時にクラリス様の結界はどうやって突破したの?」
「……私が、触ったら勝手に壊れた」
「次、死にかけたレグルスに救命処置をしてくれたそうだね。その時に何か起きなかった?」
「あ……」
あの時、レグルスの傷口から流れる血を止めようと闇魔法を使ったけど、全然止まらなくて、段々冷たくなるレグルスをなんとか助けたいと強く願った。その時に私の手から青白い光が溢れてレグルスの体に降り注いでいた……その直後、レグルスの血は止まり、容態も安定した。
「私が、何かの魔法を使ったから……」
「そんな事があったの?!」
「まさか回復の魔法が使えるなんて知らなかったからっ」
「それが聖女の力の欠片だ、俺の知らない所でもまだ聖女の力を使っているかもしれないよ」
だからだよとアルヴィンは自分を指さした。
「俺の制約魔法の制約内容が、君が口にする事で一つずつ解けていっている」
「わ、私ほんとうに意識なんてしてないよ!」
「無意識に俺を助けようとしてくれているんだよ。ありがとう、ウィズ」
何も質問する隙を与えられず、アルヴィンは「思いだして」と続けた。
「俺が光の大精霊の情報を教えるといった条件を覚えている?」
「え……うん、五行の大精霊に会う事と、アルヴィンとダンスを踊る事、だったよね」
「そうだよ、五行の大精霊という言葉はね、ルティシアがつけたんだよ」
「え……え?」
「それはおかしいですよ、貴方が話している内容は初代聖女がいた頃の話でしょうに。なのに何故そこにルティシア嬢の名前が出てくるんですか?」
「彼女、召喚魔法で兄妹二人で地球から転移してきたから。地球での言葉を色々とエルローズに教えていたよ。初代聖女が召喚した異世界人だったから当時は巫女? なんて言われていたね」
「で、でも、ルティシアの前世は地球でその時にはもうこの世界のゲームで遊んでいたのに」
「君達は魂を半分ずつ地球に逃がされていたから、地球から来た巫女が居た事で地球という異世界への道へ迷わず送られた……半分だけ」
半分だけ、地球に。じゃあ残りの半分は……? ルティシアは最初からこの世界の人じゃなくて、元々地球の人だったのに転移してきた?
「俺が【初代聖女がどちらか気づけない】ようにされていたのもそのせいだ」
「どういうこと?」
「ごめんね、君の【どういう事】という言葉には制約のせいで答えられない。君が気づく為のヒントしか言う事が出来ないんだ。
とにかく、五行大精霊なんて言葉はこっちの世界には無かったんだ。彼らが生まれたのはルティシアがこっちに来てから、つまり聖女よりもあとの事」
「聖女よりもあと……」
「よく考えてウィズ、大精霊の人数は?」
「ご、ごにん……」
「彼らと話をしたね、誰かに固執していなかった?」
「ポセイドンはメティスに、他の四人は……」
火の大精霊と土の大精霊は下級精霊が寄りつかないように追い払い、互いに喧嘩しながらも契約したがっていた。木の大精霊は誰にも姿を見せないというのに、一人にだけ自ら姿を見せた。金の大精霊もその人の部屋に忍び込んでロタの剣を破壊しようとしていたし、この二人はその人の命の危険にも駆けつけていた。
「エランド兄様に、固執している?」
「あ……」
メティスからも驚きの声が漏れた。そうだ、みんなエランド兄様に固執している。
まって、そうだ、ポセイドンだってメティスとエランド兄様の幼少期に【二人のこと】を眺めていたって言っていた。
五人が全員エランド兄様に何らかの興味を持っている……!
「光の力で、前世の光景を少しだけ垣間見えたんじゃない?」
「な、なんで知ってるの!」
「その時の光景と照らし合わせてみて……五人だよ」
ドッドッと心臓が鳴る。確実に真実に近づいてきている。
五人……エランド兄様と前世といったら、それはもう、あの人達しか。
「もしかして……五行大精霊達は、元は人間で前世でエランド兄様の臣下だった人達なの?」
「人間だって?!」
メティスの驚いた声。あの前世の夢をあの場ではメティスだけは視れていなかったのだから仕方ない。あれ……なんでメティスだけは視れなかったんだろう?
「そうだよ、大精霊達はみんな人間だった。けれど大精霊にならなくてはいけなかった」
「それは……何故」
「来世に必ず転生する主君達を今度こそ守る為に、彼らは永劫の命を選んだから」
アルヴィンは私を指さす。
「彼らの主君はエランド王だった、けれどその妹であるエルローズの事も【姫様】と呼んで守っていた。そんな彼らが守るべき主君と国を奪われてどれほど絶望したか分からないだろうね。彼らは人としての命を捨て、光の大精霊と君達が言う氷の大精霊と契約を交わして人を捨て、大精霊となった」
「氷の大精霊の名前が何故っ」
「この話は出来るんだな、五行精霊をウィズが言い当てたからだろうか? それにしても本当に自分に都合の悪い所だけは話せないような制約になっていて煩わしい」
アルヴィンは氷の大精霊の話には興味がないのか、話す素振りすらない。
隣から漂う怒りを含んだ気配に息を呑み、慌ててメティスの前に回り込んで両腕を押さえた。
「駄目だよ! まだ本人からお話を何も聞いてないんだから! だからっ裏切られた訳じゃないからっ」
「……」
メティスは答えない。けど、彼が何を考えているかは分かる。ポセイドンが元は人間であり、エランド兄様の配下であった事を知り、裏切られたのだと思っているのだろう。自分の傍にいるのも、全てエランド兄様の為だと、そう思っているのかも。ただでさえ、最近ポセイドンの事を疑っていたのに、このタイミングで話を聞いてしまうなんてっ。
「僕が裏切られて許せるのはウィズだけだよ」
「めてぃっ、リュオ!」
「裏切られたと思うぐらい長い時を共に過ごさなきゃよかったね……そうしたらこんなに怒りが湧く事もなかったのに」
「そんな……」
ポセイドンの真意は分からない、でもどうせなら本人の口から語って欲しかった。そうしたらメティスにこんな怒りを含んだ悲しい顔をさせなくて済んだかもしれないのに。
「ここまで答えられたんだから、ウィズは光の大精霊に会えると思うよ」
「え……」
「そこの扉の先に入ってごらん、君なら……いや君達なら光の大精霊が封印した扉の先に入れる筈だ」
つまりこの先に光の大精霊が、いる?
まって、だめ、今日はお話聞く予定だったから、光の大精霊に会う訳にはいかない。だって魔王の生まれ変わりのメティスがここにいるのにっ。
「行こうウィズ様」
「い、いやあの、会うのはまた今度でも構わないかなって!」
私の手を引くメティスに止めようと言っても聞いてくれない。代わりに私の耳元で囁いた。
「僕がメティスである事がバレなきゃ大丈夫だよ、今はリュオの変装をしているんだから」
「けどっ!」
「会いたかったんだろう? 僕もどんな奴なのか見てみたいと思っていたんだ」
本当に大丈夫だろうか? メティスが精神状態が不安定な時は魔王の力が出やすいのに。ポセイドンの話もそうだけど、私が聖女の生まれ変わりである話や、光の大精霊の事を聞いて穏やかではない筈なのに。
「どうしてもというならっ、絶対私から手を離さないでね!」
引っ張られていた手を解いて、逆に私から手を繋ぎなおした。
「手を離したら怒るよ!」
「……分かったよ」
強く手を繋いで、覚悟を決める。
「アルヴィンは一緒に行かないの?」
「うん、一緒には行かない」
「……前世にアルヴィンも居たの? 誰かの、生まれ変わりなの?」
アルヴィンは曖昧に微笑むだけで答えない……いや、答えられない。
「俺が出した条件について、よく考えながら先に進んでみてね」
大聖堂……いやもうこれはピアルーンの教会を象った異空間だ。その先にあった扉に触れると、ガラスが壊れるような音が響き、扉がひとりでに開いた──。
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