153-3 FAST 狭い視野を広げられるか?
大聖堂に馬車で移動している最中、最後の悪あがきとばかりに、リュオに化けているメティスに手刀を繰り出したりして眠らせようと試みたけど、それをあっさりと魔法でいなされてしまい失敗した。その後も何度か頑張ってみたけど駄目でした……魔王様強すぎませんか?
「ねむくな~る……」
「今度は何をしてるのウィズ?」
かくなる上はと、闇魔法をメティスにかけようとしてるんだけど……全く効果がない。
「闇魔法をかけてメティスを眠らせようとしてるんだよ!」
「正直すぎるね」
「なんで寝てくれないのメティス?! 今まで数多くの刺客達をこれで眠らせてきたのに!」
「なんでだろうね? 元々眠りが浅いせいもあるのかな」
さらりと普段あまり眠れていない事を口にした! メティスの健康が凄く心配だよ。
「眠りが浅いって、疲れてるの……?」
「ウィズを抱きしめて寝たらぐっすり眠れると思うよ」
「ばひゅんっ」
空気が抜けるような声が思わず出てしまった。メティスと一緒に寝る……傍にいるだけでドキドキするのに抱きしめられて眠るの? 朝までその存在を感じながら密着して眠るの? 想像しただけでも気絶しそうな気がするのは何故だろう。
「顔が真っ赤だねぇ」
「もうっ、なんでそんなに楽しそうに冗談を言うの!」
「本気だったのに」
メティスは咳払いをしてから馬車の窓の外をチラリと見た。
「どうやら大聖堂に着いたみたいだね」
気がつけば馬車は止まっていた。御者の人が扉を開け、先にメティスが外に出てから私に手を差し出した。
「ウィズ様」
「ありがとう……」
リュオモードになったメティスの手を取って外へ出る、そして少し私にはにかむものだからつられてふやけた笑顔をしそうになり、自分の頬を叩いた。
これはリュオ……! これはリュオ……! これはリュオ……!! 変な態度を取っちゃ駄目! 周囲に誤解されちゃ駄目! ん? 誤解とは……?
「大聖堂と呼ばれている場所なのに、随分と静かだね」
「え、そうなのかな?」
「司教区の中心である筈だけど、信者の姿もなければ司教の迎えもない、王家の馬車を借りて来ているというのに」
そう言われて見ると、人の気配が全く無いし、綺麗に並んだ木々があるのに鳥やらの動物の気配すらない。気がつけば御者さんと一緒に馬車も消えているし……大聖堂の裏に停めにいったのかな?
それにしても。見上げる程に大きな建物だね……大聖堂を囲むように綺麗な花々が飾られているのが印象的で、その光景はどこかピアルーンのお祭りを彷彿とさせられる。
「一応確認するけど、この世界ではキリスト教はあるの?」
「ウィズの前世の世界の話かな? そういった宗教は聞いた事がないね」
「信仰する神様は違うんだね」
けれど、こうして大聖堂があったり、同じ単語があったりと異世界でも似たものがあるのは確かだ。私やルティシアちゃんが異世界から転生してきた事もあるし、過去にも転生した人がいて自分の世界の情報を伝えて文明を発展させた、なんて事もあったのかもしれないね。
「ヴァンブル王国の教会らが奉っているのは勇者と聖女、そして精霊だね。世界を救った存在を奉っているよ」
「ステンドグラスにも描かれていたもんね」
「そうだね、ヨレイド国は精霊とは縁遠いから違うけど。まあ、この国の勉強は今は必要ないね」
そうだねと頷きつつ腹を括る。ここまで来てしまったのだからメティスを連れて行くしかない……大丈夫、光の大精霊の話をアルヴィンに聞くだけだから。まだ実際に会える訳じゃないし……。
「入ろうメティス! そしてメティスの事は私が守るからね!」
「そういえば何故アルヴィンに会いたいのかまだ聞いていなかったね」
「あとで話すね!」
やはり司祭様が出てくる気配がないので、自分で扉を開けて大聖堂の中へと入った。
「え……」
中に入って驚きで体が動かなくなる。中を見回し、天井を見上げ、そして奥にあるステンドグラスを見て確信した。
これら全て……ピアルーンの教会の内部と寸分違わず同じ構造だ。
「いらっしゃいウィズ」
ステンドグラスの下にアルヴィンが立っていた。普段と変わらぬ笑みを浮かべてこちらへおいでと手招きしている。
「そこにいると危ないから中へ入っておいでよ」
「危ない?」
「もう異空間に入ってしまってるから」
「えっ?!」
メティスと同時に今入ってきた扉に振り返る。外へと続く筈の扉の先は……何もない真っ暗闇に変わっていた。
「どっ、どういう事?! 普通に大聖堂の入り口から入ってきたのに!」
「条件を満たした者だけがこの異空間に入れるようになっているんだ」
恐る恐る、アルヴィンに近づく。何故……隣国のヨレイド国の大聖堂がピアルーンの教会と同じ構造なのかが気になる。
「さて……ここでなら一つずつ答え合わせが出来るね」
「答え合わせ……?」
「光の大精霊の居場所を知りたいんだよね? だから君は俺に会いにこの国へやって来た」
メティスは少し驚いてから私を見つめた。
「光の大精霊に……会いたいのウィズ様? なんで」
「魔王様を守る為にだよ」
メティスの目が大きく見開かれる、ここまで来てしまったのならもう隠していても仕方ない。
「魔王様は過去に光の大精霊との戦いで、何度も何度も勇者に倒されていた。私は絶対に魔王様を殺されたくない。だからこそ、何故光の大精霊が魔王様を酷く恨み完全に消滅させようとしているのか知りたいの」
何故光の大精霊は魔王様を殺したいのか。何故、人間と契約をして間接的に魔王様を倒すというまどろっこしいやり方をしているのか。
そして……初代聖女の話も聞きたい。私達の前世に何があったのかを知らなくては、私達は未来に進めない。
「アルヴィンに会いたいだとか、光の大精霊にただ興味があったとかじゃないよ? 魔王様の為に私はここに来たんだよ……信じてくれる?」
「……ウィズ様が望むのなら俺はどこへでも付き合いますよ」
信じてくれると言ってくれない。ピアルーンの街で花人形を見てからメティスはいつもこうだ。好きという好意を示してくれても、心の奥底では私の事を疑ってる。
前世で私達に何があったんだろう? それも全て知る必要がある。いつか絶対にメティスに私の事をまるごと信じてもらえるように。
「アルヴィン、ご存じだろうけどこちら私の可愛い護衛執事のリュオです! 一緒に話を聞いてもいいかな!」
「俺は別に構わないよ」
アルヴィンはじっとリュオに扮したメティスを見つめた。
「何故、彼がここに入れたのかは疑問だけど」
フゥと息をつき、早速だけどと前置きをして話し出した。
「これからいくつか僕は君に謎かけをする。君はそれに答えていってほしい」
「謎かけって?」
「今の君なら、考えれば辿り付ける問題だよ。それらの答えが全て揃った時に光の大精霊の居場所が分かるだろう」
「それは、アルヴィンが長く光の大精霊の研究をしていたから分かる事なの? アルヴィンは光の大精霊に会った事があるの?」
「まず、俺の呪いについて話をしよう」
「え?!」
突然とんでもない事を言い出した。呪いって? 私のようにアルヴィンにもなにか呪いが掛けられているの?
「ウィズ、今から俺は血を吐くよ」
「な、何を言って……?」
「それが何故なのか考えてみて」
アルヴィンは一度目を閉じてからゆっくりと話し出した。
「光の大精霊の真実と初代聖女の話を全て教えよう。光の大精霊と初代聖女は共にっ」
アルヴィンはぐっと息を詰まらせてから、苦しそうにゲホッゲホと咳き込んで血を吐き出した。
「アルヴィン?!」
「……ハァッ、当然これも駄目か」
アルヴィンはじっと私を見つめている……何故血を吐いたのか、それが何故なのか考えろと言っていた。呪いの影響で血を吐いたというのなら。
「光の大精霊や初代聖女の話をしようとすると血を吐く呪い……?」
アルヴィンは曖昧に笑う。否定がないから間違いではないけど、全て正解ではなさそう。
「というよりも、制約魔法が掛けられているんだと思いますよ」
メティスに振り向きどういう事と首を傾げる。
「制約魔法?」
「その魔法をかけたものの力にもよりますが、少し話しただけで血を吐くレベルならかなりの高度な制約魔法でしょう。たとえば、語るなと決められた内容を語ろうとすれば心臓を締め付けられるとか、寿命が減るとかその辺りでは」
アルヴィンは笑顔で控えめな拍手をしている。
「真実を語る事が許されない、だからこそアルヴィン王子は謎かけをするという方法でウィズ様と話をするつもりなのかもしれません」
制約魔法で真実を語る事が出来ない? つまりアルヴィンは今まで会話の中にそれとない真実の欠片を撒いていたという事?
以前、私がアルヴィンに話してほしいと聞いた時にも、私はまだ幼くて混乱するから語れないと言われていたけど……それは、制約魔法で語る事が出来ないから先延ばしにしていたのかな?
それとも両方正解でアルヴィンは語れないし、幼い時に私が知ってしまったら本当に心が壊れかねない悲惨な過去があったと……そういう事なのかも。
「リュオ……ここに来たのはね、光の大精霊のお話を聞くためだったんだけど、おいでと手紙をくれたのはアルヴィンからだったんだよ」
「なら、制約魔法に囚われていてもウィズ様が経験してきた事を組み立てれば答えに辿り付けるとアルヴィン王子が判断したからウィズ様を呼んだのかもしれませんね」
アルヴィンはまるでその通りだというように笑う。
「俺の謎かけに答えていけば必然的に答えに辿りつけるよ……さあ、はじめようか」
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アルヴィンとレグルスのイラストを近況ノート【https://kakuyomu.jp/users/maoukon/news】に更新しました。
興味がございましたら見てやってくださいませ。
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