悪役令嬢は魔王と婚約して世界を救います!
水神 水雲
第1章 辺境伯令嬢と王子様達の出会い(0歳~3歳)
0-zero- プロローグ
この瞬間が来るまで気づかなかった。
いいえ、気がつく事が出来なかったと言うべきだろう。
私が魔王様を愛しているという事に。
私の目の前で、魔王様が光の聖女と勇者に体を剣で貫かれてしまうという残酷な瞬間を目の当たりにするまで気がつけなかった。
「いやぁああああっ!!」
私の悲痛な叫びにこの国の王太子である勇者エランド様と、聖女フィローラ様が振り返った。
「何故魔王様を手に掛けたのですか?! 魔王様はエランド様の弟君ではないのですか?!」
「許すにはあまりにも人を殺めすぎた」
エランド様は悲痛な面持ちで私から視線を逸らした。
「こうするしか、なかった」
「そんなっ」
「ウィズ様、悲しいですけどこれは仕方の無い事なんです」
フィローラ様は私に言い聞かせるように、優しく、優しく告げた。
「貴女も分かっている筈です、人間達が助かる為には魔王は殺さなくちゃいけないって。だからこれは正義なんですよ」
フィローラ様は聖剣を握るエランド様の手に自分の手を重ねると、それを操るように聖剣を魔王様の体から引き抜き、振りかぶって斬りつけた。
「ぐぁっ」
「魔王様ぁっ!!」
魔王様は血を吐き出し、最期に私を見つめた。
そして、濁っていた筈の瞳を煌めかせ、今まで一度も私に向けた事のない優しい笑みを向けた。
「やっと……会えた、ね」
魔王様は聖剣の光に呑まれてサラサラと砂のように崩れて消えて行く。
魔王様が、死んでしまう。
私は泣きじゃくりながら魔王様に手を伸ばして駆け寄ろうとしたけれど、すぐに目に生気の宿らない兵士に腕を掴まれて動きを止められた。
「離して! 魔王様! 魔王様っ!!」
「ウィズ様ここは危険です、参りましょう」
「嫌!! 離して!!」
心臓が痛い、握り潰されてしまうかのように酷く締め付けられ悲鳴をあげる。
魔王様……貴方を一人寂しく逝かせてしまう位なら、私は禁忌を犯しましょう。
ヒールで思い切り私を拘束する兵士の足を踏みつけ、兵士が怯んだ隙にエランド様達へ駆け寄った。
「ウィズ嬢っ?!」
「ウィズ様何をっ」
「闇の精霊アイビー! 時を止めなさい!!」
カチン、と時計の針が止まる音と同時にこの場の空気がピタリと止まる。
生き物の鼓動も、風の音も無になり、私だけが自由に動く。
動かぬエランド様から聖剣を奪い取り、魔王様の元へ向かう。
「私は貴方と生きたい……っ」
ボロボロと泣きながら、今にも消えそうになっている魔王様の唇に口づけた。
「私、強くなります……今度こそ貴方を守る為に。時間が巻き戻り私が全て忘れてしまっても、必ず貴方に会いに行って貴方を救います」
額同士をくっつけて、祈りのように目を閉じた。
「だからどうか待っていて……メティス様」
カチンという音が響き、時が動き出す。
エランド様は自分の手に握られていた聖剣が無い事に焦り、フィローラ様はすぐにその所在が私の手に握られている事に気がついた。
「ウィズ様! 何をしてるんですか! 危ないですから魔王から離れて下さい!」
「お黙りなさい」
低い声で威圧し聖女を睨み付けると、消えゆく魔王様を背に聖剣の切っ先を自分の胸に添えた。
「メティス様は死なせない、魔王様を殺そうというのなら私は貴女と戦います!!」
聖剣を持ち上げ、不敵に笑う。
「眩しい光の貴女、過去で待っていなさい、このような結末には二度とさせない」
時を巻き戻しこの悪夢をリセットしましょう……禁忌の魔法の代償は、私の命。
聖剣の切っ先を思い切り自分の胸目掛けて突き刺した。
「ウィズ嬢!!」
「なんてことを!」
魔王様と一緒に死んでいく。
いいえ、戻って行く。
魔王様が死ぬ結末なんて受け入れられない。
闇の精霊に許される限り、私は何度でもやり直す。
そうね……今度は仲間がいればいいのに。
例えば、御父様にもっと歩み寄っていれば未来は変わったかしら?
行方知れずになった弟には、見守るだけでなく心を許して貰えるように姉として振る舞えば良かった。
エランド様を責めるだけでなく、彼の心にも寄り添えばよかったかもしれない。
亡くなった第三王子様がもし生きていたら、メティス様の味方になるかもしれないわ。
そして【あの人】には近づくべきではなかった。寄り添うふりをして、渇望するものを手に入れる為にとても貪欲であったと最後の最後に気づかされた。
私が力も心も強くなって、仲間を増やしメティス様の危機に常に傍に居られたのなら……未来は変わるかもしれない。
諦めはしない、次こそは必ず貴方が生きる未来を切り開いてみせる。
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