第5話 エビスの提案

階段を駆け上がると座り込んだエビスがいた。


「ねえ、エビス。ルークは?」


エビスはうつむいて答える。


「ルークは上の階にいるぜ」


私はさらに上に向かおうとしてもエビスは動かない


「どうしたの?」


「もう疲れちまったんだ。オーディンガーデンも終わる。無駄な抵抗はあいつに任せるよ」


私は不審な目をエビスに向けた。


「オーディンガーデンが終わり?そんな事は無いよね。新しいゲームが始まるだけだよね?」



「さあな。だが俺が出来る事はもう無い。しかし時間稼ぎくらいはしておいてやるよ」


なにかいつものエビスと違う。


不意にエビスは立ち上がり、ミファに向かって言った。


「お前はまだ…」


「あるんだろう。ルークと話したい事が」


私は震える声で答えた。


「うん…」


「端から見てて判ったよ。何かを聞きたいけど、聞けないっていう素振りが」


自分でも思うが、余りに挙動不審だったのだろう。


エビスは続ける。


「とても大事な話なんだろ」


「聞いたらルークが消えちまうかも。そう思っちまう位にな」


私は胸に手を当てた。


「う、うん…」


エビスの声が強くなる。


「だが今日でゲームが終わりだと思えば聞けるんじゃないか」


なんでも見透かしている。エビスの目をまともに見る事が出来ない。


エビスは姿勢を崩した。


「最近はオーディンガーデンも人が減ってきた。AIのアバターでそうは見えないようにしていたが、今の状況を考えると、もう次の世界は無いだろうな」


「そ、そうなんだ。終わるのは困る…」


エビスの言葉に確信めいた物を自信を感じる。


なによりここ10日の、無理やり世界を終わらせるかのようなゾンビの攻勢は、その可能性を否定できなかった。


エビスは再びこちらに向いた。


「早く行きなよ。いいか、これが最後のチャンスだと思うんだ」


私は決心をした。


「うん!分かったよ!聞きたい事聞いてくる。」


「ありがとうエビス!」


階段を駆け上がる私を見送ると、エビスは背後のゾンビの気配に振り向いた。

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