第3話 55-75-35

 ハァイ! おはこんばんにちは!


 表題はICU在院時の体重変化よ! ダッチワイ……フ、フーセン人形の様相を呈しておる。


 熱傷ベッドを備えた熱傷ユニットでの暮らしぶりはそれはもう酸鼻を極めたとか、全然覚えてねえよ! 当時の煙はいっぱしの広範囲熱傷患者らしく全身的に化膿してたらしい。なのでユニット内は死ぬほどくさく(鼻腔も焼けたんだからよくわかんなかったけど)、慣れていないNs.さんはその劇臭でメンタルケアが必要になるらしい……(形成外科領域のナーシングの本で読んだ)。


 熱傷ベッド、すなわち無圧ベッドのマットレスはとても寝心地がいい(らしい)。

 ところでビーズクッションをいまお持ちか、もしくは過去に持っていた方はそのビーズクッションをイメージしてほしい。ビーズクッションの中の隙間を水で満たしている(厳密には水じゃないけど)のが熱傷ベッドを説明するのに有効だ。ビーズクッションのカバーは浸透圧の関係で外からの流体は入るけど、中の液体は漏れない。そのビーズクッションの内部は圧が働きビーズが流動して、最強に天上的な体圧分散が得られる。


 高いよね……1基700~1000万円……あと維持費……国民皆保険でよかた……。

 すっごくいい寝心地いいらしいけど、寝てたからわかんない。だってベッドって寝るもんじゃないスか? え、ほかにベッドでなにヤるの?




 ……ハイ次。


  起きたら……おふろ……入りますよね……?


 水素水の。


 ごめんまちがえた致命的にまちがえた。



 ジャグジー風呂。


 

 もちろん医療・介護用。よく特浴とか機械浴とかいうやつ。

 口語的にはバイブラ(バス)っていう。


 ここで熱傷ガーゼや、ソフラチュール(軟膏ガーゼ)、痂皮(かひ。カサブタのこと)引っぺがしたりして、とにかく身も心もすっきりするのです。ああ、至福のひと時。後のビールが格別。うそです。

 びびび、って振動するお湯が腹筋に着けるEMS的なマシンと同じ原理で、全身的に筋肉も鍛えられるとかなんとか。


 まぁなんか、バイブラのお湯を飲もうとするくらい喉渇くんよね。ダダ漏れ浸出液とか、炎症でいつ熱を計ってもタンパク質変質二歩手前とか。

 酒飲んだあとの水飲みたい感が一生分こぞってやってきた感じ。

 渇いたカラダ。求めるイオン。サプライレス。


 ところで調べたら広島原爆投下の折には、直後に通称「黒い雨」という局地的な雨が降って、そいつが大気中の粉塵や死の灰なんかを吸収したらしい。大やけどしたひとが喉乾いて川水などを飲むと一気に体内被曝、ほぼ即死となったそうです……余談。


 熱傷で水飲むといけんのは、原爆の話がごっちゃになって理解されがちだけど、ほんとは違う。

 喉も焼けてるし、ふらふらでレベルも低く嚥下も落ちる。もしくは何日も鎮静剤の下で意識もうろうな状態だから、いずれにせよ誤嚥性肺炎の危険が高いからだ。

 じっさいわたしもむせまくった。余談2。


 そして体液だだ漏れなので、栄養がどんどんなくなっていく。猛スピードの補液で55kg→75kgになった体重も栄養の補給が追い付かず、のちには35kgくらいに落ち込んだり。身長171cmのひとが35kgになると立てねえの。もろもろが。


 なお前回「金玉がダチョウの卵大に~」と書いたのですが、その表現はショックで父がもらした言葉で、実際は鶏卵大だったそうです。いずれにせよすげえ絶倫になりそう。訂正の項終わり。


 などとしてICU生活を懐古趣味的に振り返ってても北極が水没する前に書き上げられるか不安になってきましたので、


   口田口田口 これさえはあれば大丈夫! ICUグッズ7選まとめ 口田口田口

       三三三 豊かなクォリティオブサバイバルのために 三三三


 のコーナー入りまーす。巻いてくわよ!



1.視認性のよい置時計。アナログならなおよし。腕時計をはめられたらいうことなし。


2.カットフルーツ。ある程度回復してきたらとにかく甘いものがほしくなる。水も固形物も摂れないこの時期、粘度はその中間のとろろ状でないと激しくむせて危険らしい。わたしはイチゴをつぶしたものがよかった。一日一度のおやつ、このために今日があり明日があった。割とまじで。


3.50音表。これがなければ文字通り話にならない。イエスなら瞬き2回、ノーなら1回とかで。


4.眼鏡。頭部に傷があればもちろんかけられないけど、畳んだ状態で見せてもらうのだって裸眼よりマシ。


5.音楽をスピーカーで再生できて通信機能のないやつ。


6.今後のプラン。復職や復学はとりあえず置いといて、食べたいものや行きたいところ、したいことを考える。当時煙はおうちで初代PSソフトのパラサイトイヴがしたくてしたくてたまらなかった。なんでじゃ。


7.手鏡。「えっ」と思うかもしれないが、年齢・性別・熱傷の程度にかかわらず、自分の顔をどうしても確認しなければならない時がある。手はおそらく使えないので、看護師さんや家族に見せてもらう。窓の外を見る場合にも。



 うふふ! また馬の小便みたいに長くなっちゃったわ!

 次回「まる子、海に出る」「お札になった野口さん」の2本、また見てね!

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