第2話 炭化男

 おはこんばんにちは!


 凛として承前。



 あー、あっちかったー、これはただあっちかっただけだ、こんなに早くオイルが燃え尽きるとは。火達磨状態で絶命するかと思ってたのに。

 っていうか、待って? 裸に靴下とかいう格好だし、なんかお騒がせしてその、ええと、

 などと悠長に構えてたら遠のく意識さん。待って意識さんちょと待って?


 消火器持って駆け付けた看護師のドリフばりに驚くのを見て、「あ、あー、すんまへんなぁ。クフフ。なんか知らんですけどね、アタシ、思うにね、そーんなアレ、コレ大げさなアレじゃな――あれ意識さんまた遠ざかるの? 面白くないよ? 面白くないからやめて?」などといいたかったが喉が焼けててだな。


煙「そ、そこにドナーカードがありま……(ぜーぜー)」

看護師「そんなもんいらん、しっかりせえ! しゃべり続けて!」

煙「あの……(ぜーぜー)こ、股間が熱……い……(幕)」



 病状:全身熱傷(のちに70%熱傷と改まる)


 おっきい病院に救急搬送され、猛スピードでの輸液、あと日赤血を輸血。麻酔で意識もない(元からない)。体液もなんか知らんがダダ漏れ(皮膚が焼けてそこから漏れたからではない、らしいだけど詳細は失念)。


 その補液のために輸液をして水分、電解質の補給、直後に皮膚移植も控えてるんで身体を膨らませて採皮面積稼ごうって算段。


 どれくらい膨らむかっていうと、手の甲とか、輸液で肉が膨張し過ぎてね、動脈が鬱血して、そして手が壊死するの。膨らんだまま放置し壊疽が進むと、手を手首らへんで切り落とすってくらい。で、その対策に減張切開といって膨らんだ手の甲の肉をメスでザックザク切って、動脈へかかる圧を減らすと、そういうレベル。うわぁすげー。書いててすげーって今思った。……麻酔薬があってよかった、マジ。


 輸液速度もそりゃ相当すごいので、全身むっちむち。エラスコット包帯ぐーるぐる。体重は55kg→75kgほどで、金の玉さんがダチョウの卵大。

 体重3~4割増くらいだから朝青龍が209kgくらいになる計算だ。あ、そんな計算要らんか、そうか……。


 おっきい病院は素泊まり1泊でサヨナラ。


 次はICU内に熱傷専用ユニットを備える、もっとおっきい病院に転院(最終後送病院)。そのもっとおっきい病院の病状説明でも、もはや熱傷の傷ではない、ってDr.がいうくらいだったらしい。


 ズボンの布ベルトにオイルが染み込み、こんがり焼けてしまった(骨が透けて見えそうで見えなそうで見えない感じ)(今も腰とか2cmほどえぐれている)(さわられるとアヘ顔になる)。


 腋窩や肘窩などは反射で取った拳闘家姿位で全身ちぢこまり焼け残ったが、あとのほとんどはこんがりと炭化が認められ(ブリ照りやローストチキンを想像していただきたい)、デブリードマン(炭化組織・壊死組織などの切除)をがっつりヤった。


 拳闘家姿位っていったらBoxing positionだったっけ、要するに胎児姿勢ね。トランス状態でもない限り反射でそういう姿勢になるので自分にガソリンかけてファイヤーしながら敵に抱き着いて捨て身の攻撃、ってのは不可能なんです。実は。揮発油で全身が燃えながら、っていうと温度は約800℃~1000℃となり(煙草の火は高くて約800℃)、そんな高温で焼灼されて恐慌を来さない人間は存在しない。


 で、顔面は保存的にゲーベンクリームで化学的にアレをナニしてさー、一般人はパッと見、「え、なんで顔だけヤケドしてないの?」といわれるまでに治った。


 余談だが、ICUにいた1か月のうち全身麻酔下での手術が4回、つまり週イチあった。そこで執刀医からの家族への説明で、「お顔も削ったりしますけど、前より良くしますよ(にっこり)」と言われて、家族が「あっハイ」と肯ったのは複雑な心境があったものと思わる。



 意味するところは「あなた方の息子さん、もう二度と元の姿には戻れないよ」。



 余談終わり。


 次回は「ふわふわベッドとジャグジー風呂♪」でお送りします。

 さーて来週もー! 享楽・享楽ぅ♪

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