第三章 ✠元勇者、運動会に乱入せよ

第一話 無双したくない(したい)



◇ 雪視点(男の娘)


「もうすぐ運動会だ……」


ボクは魔法少女の力を得たことで何の不自由もなく外に出られるようなった。

学校だってちゃんと行ける。

肌が焼けるような感覚もないのだ。


「無双しないか心配だよぉ……」


でも、問題があった。

魔法少女になったことによる身体能力の上昇である。


「スペードさん曰く、ボクの魔力量は異常だから一日ぐらいなら常時変身状態でも行けるらしいけど………」


総量だけならスペードさんを越えているんだって。


「見学しようかな………うん。これが正解だ!」


運動会当日、ボクは来未くるみねぇに体調が悪くなることを伝えて見学することにした。





✠ ???視点


『起きろ!今日は大切な我が娘の運動会だ!その勇姿をその瞳に刻むのだ!』


私は喧しく野太い声を聞いて目を覚ました。


「……運動会………今日は本気を出そう」


『激しく同意するっ!我の力も使っていいぞ!ふははは!』


私の心の内にいる『ヤツ』が私の独り言に反応する。

そんなことしたら世界滅ぶだろうが。


『ヤツ』と私は敵だ。

しかし、一つ決めていることがある。

それを守るためならお互いの利益を害してもいいと思っているのだ。


「パパ?今日は早いね?お仕事の時間までまだあるけど?」


銀髪に蒼い瞳の美少女が部屋をノックせずに入ってくる。

今日もめっちゃ可愛いな………


「あぁ、今日はテレスの運動会だからな。絶対に行くぞ」


仕事なんてやっている場合ではない。

休みを取っておいた。


「やったぁ!」


ピョンピョン飛び跳ねて喜びを表現するテレス。

朝日に輝く銀髪が舞っている。


「ふぐっ!?」『がはっ!?』


やはり仕事なんてやっている場合ではないのだ。

私たち、〖親バカ連合〗の前ではな!



私は 天王寺てんのうじ アキラ。

元勇者だ。

色々あって元の世界に帰ってきた。

そして、『我の名は―――――』これは魔王だ『のおっ!?先にいう奴が居るか!?』

訳あって、一つの身体に二つの魂が入っている。『百パー、我のせいじゃ!』


だな。


とにかく、私(元勇者)はこれ(魔王)の娘を育てている。

最初は監視してやろう、だとか、ヤバくなったら消そう、だとか考えていたが。


「パパぁ?遅刻するよ?」


「あぁ!分かった。今すぐ行く」


娘の可愛さには覚悟が消えてしまった。

悲しき三十路である。


『保護者参加型の競技もあるみたいじゃな。勇者殿、分かっておるな?』


「私の可愛い娘に勝利を……」


『流石じゃ!我を滅したことだけはある!』


無双するに決まっている。


「遊んでないでさっさと来て!」


「すまんっ!」


私は急いだ。

絶対に娘に良い所を見せるのだ。




◆ 蓮視点


「生徒会長?なぜ俺の席の前に立つのですか?」


俺、小緑ころく れん焼き鳥バードニワトリさんを追い払ってから生徒会長に執拗に絡まれるようになった。

元からだが。

それでも、回数が増えたのだ。

一日十回から一日三十回ぐらいに。


「い、一緒にいたいから…………ではダメか?」


「駄目です」


人肌さみしいなら別の人を頼ってくれ。

俺は一人で俯瞰したい。


「蓮くんの鬼畜!バカ!鈍感かまし!」


「子どもですか?いちいち鬱陶しいですよ?」


「む、むぅ………」


叱られた子犬のような上目遣いで見ないでくれ。

クラスの視線が集まる。


「と、ところでここに、ある芸術家の博覧会のチケットがあるのだが………」


「興味ないです」


せめてもっと楽しそうなのにしてくれ。

テーマパークとか水族館とかあっただろう。


「ちょっと冷たいんじゃないかい?」


丸い縁の眼鏡がきらりと光る。


「そうだ!そうだ!」


「黙れ、眼鏡。あと生徒会長、俺は忙しいので他を当たってください」


眼鏡………自然に会話に加わるな。

ビックリするだろ?俺は決して心が乱されるようなことはないが。


「馬鹿にぃ?」


「………」


な、何があろうと俺の心が乱されることはないのだ。(ちょい震え声)

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