第六話 ご馳になります
◇
「おらぁっ!」
『ガハッ!』
オーガの拳を受け流し、顔面にショットガンで一撃を喰らわせる。
「ちっ……怯んだだけかよ!かてぇな!」
『ガルルル!』
「醜い醜悪な見た目しといてAクラスとかふざけんな」
ボクの前でオーガとスペードさんが激しい戦いを繰り広げている。
ボクは足手まといのようでスペードさんは流れ弾が飛んでこないよう少しやりづらそうにしている。
「ボクに出来ること………」
またボクは守られてばっかりだ。
何のために力を求めたのだろう。
何も出来ない………
『これは何かを成すための力だよ?』
「………ッ!」
ボクは拳を強く握って前を向く。
そうだ。
「ちっ!ミスった!」
避け損ね、バランスを崩したスペードさんに向かって鋭い一撃が襲う。
しかし、スペードさんに当たるかと思われたその一撃は途中で止まる。
『ガルッ!?』
「ボクの力は守るためにあるんだ!守られてばかりは、もう嫌なんだ!」
ボクは風の応用で空気の壁を作ってるうちにスペードさんを起こす。
え?下を向いて震えてる?
「くっ!その言葉に痺れるぅぅ!憧れるぅぅ!私、あんたに惚れたぜぇぇ!」
「茶化してないでどうやって倒すのか考えよう!?」
「あぁ!悪りぃな!とりあえず………!おらよっと!………そんじゃ行くぞ、雪!」
「うわっ!?いつも急に抱えないで!?」
スペードさんは手榴弾をオーガに向かって投げ、怯んだ隙にボクを抱えて物陰に隠れた。
そんなので隠れられるの?
『グル?ガァァ!』
普通に見失ってる………
頭わるそう………
このまま逃げたらダメかな?
「それで、どうやって切り抜けるの?」
「そうですね………この状況はどうにかしなくてはいけないのでこの状況をどうにかする必要があります」
真面目モードに戻っているスペードさんがドヤ顔で言う。
「それはそうだよ!」
小泉構文とか役に立たないよ!?
「しー!静かにしてください」
「ごっ、ごめん……でも、どうするの?」
「私に考えがあります。ゴニョゴニョ……」
なるほど………でも………
「……………本当に出来るの?」
「出来ないとは言わせませんよ?…………そんなことより!不安そうに上目遣いする美少女な男の娘、最高過ぎます!これは永久保存版として撮って置いておくのも検討しなければ!」
こんな時なのにこの人は………
「ありがと、ちょっと元気出たよ」
「おほん………それでは後で色々なシチュエーションの写真を撮らせてください!」
「え?嫌だよ?」
「そんなぁ!神は我々を見限ったのか!?」
「さっきの感動を返して」
「はうっ!しかしながら冷たい可愛い男の娘もやっぱり良いですね!はっ!?ここは桃源郷だった!?私、死んじゃいます!?」
「…………」
「ちなみにジト目はご褒美ですよ?………あっ、鼻血出てきた……」
「行こ?遊んでないで行こ?」
「承知いたしました」
「やっぱりこの人怖いよぉ!情緒不安定が過ぎるよぉ!」
「いや、まぁ。真面目にしないと死ぬので」
「たしかにそうだけども!?」
真面目じゃないと戦闘出来ないもんね!?
でも、ボクが言ってるのは違う意味だよ!?
『ガァァァ!』
「あっ!気づかれた!?まだ心の準備できてないのに!?」
「さぁ、心を括りましょう!こうなってしまったからには責任取ってください!」
「変な言い方しないで!?」
「だが断るッ!」
『グラァァ!』
「こっち来たぁ!」
ボクは風を使って加速しつつ、左手に魔力を込めて放つ。
「【風撃《ショット》】!」
ただの空気の塊だけど速度が速ければ威力はある。
ボクの魔力の属性は風。
こういうことも可能なんだ。
『ガァ!?』
「ボクが相手だ!」
ボクの役割はこのオーガを引き付けること。
出来るだけ注意を引かないと。
「【
『ガァ!』
「殴って破壊した!?」
驚いたボクに向かって拳が振るわれる。
「――ッ!ものは試しだ!」
『!?』
風を自分の身体に当てて軌道を無理矢理変えてバク宙をする。
身体がすごく痛い。
「【
涙目になりながらも一撃を入れて退く。
「スペードさん!」
「涙目の男の娘ご
「スペードさん!?」
何やってるのあの人!?
「はっ!そうだったぜ!〖イブリート・キャノン〗発射!」
〖イブリート・キャノン〗―――魔導砲の一種らしい―――から紫の光線が放たれる。
ちなみに何でイブリートなのかは知らない。
『ガァァァァ!』
「ちっ………」
でも、流石Aクラスのエネミーなのか身体を焦がし、大怪我を負いながらまだ立ち上がるオーガ。
赤い肌は赤黒く変色し、黒い文様は禍々しさを増しているように見える。
最後の特攻をするつもりなのだろう。
全身を使ってスペードさんに向かって突進をした。
「はっ………まぁ、決めんのは私じゃねぇけどな。頼んだぜ、雪!」
「はい!【
焦げて脆くなった部分にボクの風の魔力を込めた今のボクにとって最速の一撃。
これにすべてを込める!
バヒューン!
その渾身の一撃が幸いにもオーガの胸元に風穴を開けた。
「…………はぁはぁはぁ………」
今日初めて魔力を使ったけど魔力がすっからかんになっていくのが分かる。
だめだ。
足に力が入らない。
「はへ………」
ペタンと座り込んでしまう。
動けないかも………
スペードさんにそのことを言おうと思って見るともじもじしてる。
「どうしたの?」
「あの………雪さん………」
「なに?」
深刻そうな顔で言うスペードさん。
何か不祥事でも起きたのだろうか?
「…………襲って、いいですか?」
「良いわけないでしょ!?」
「そんなぁ!酷いですよぉ!こんな据え膳みたいな状況でお預けは!可愛い男の娘がはぁはぁ吐息を漏らしながらペタンと座り込んでるんですよ!?こんなの襲ってくださいと言っているようなものでしょう!?」
「言ってないよ!?」
「あ……でも今なら襲っても逃げられないのでこのまま食べてしまえば……!」
「ひっ!来ないで!来ないで変態!」
「はい………涙目の男の娘から変態頂きました。あぁ、神よ。私はこの時のために生きていたのですね。ありがとうございます」
「さっきから何なの!?」
「私はあなた様のパートナーでありマネージャーです!」
「そういうことじゃない!」
これがボクとスペードさんの初めての出会いだった。
スペードさんは変な人だけど、ボクの世界が彩るのを感じたんだ。
◆
「ふっ………どうやら上手くやれているようだな」
「おやおや、何分かってましたみたいな雰囲気出しているんですか?戦闘中、そわそわしていらっしゃいましたのに」
「余計なことを言わなくていいだろ」
たしかに少しドキリとはしたが言うほどだぞ?
俺は雪とスペードが戦闘していたビルの屋上で
「それにしても、本当に心配性ですね」
「どういうことだ?この仕事は本来俺たちの仕事だろ?」
まったく何を言っているんだ。
「元々あった仕事を放棄してでしょう?アキラ様に仕事を押し付けて」
「………暇にしていたんだ。使ってやっただけだぞ?」
「ふふふ、そうですね。
まったく生意気な執事だ。
俺はふと
なかなか分厚いな。
「それで今度は何を読んでいるんだ?」
「はい?これですか?……………これは『日本の歴史 マッチョ篇』ですが」
日本史にマッチョは関係ないと思うぞ?
何か
「も、もっとまともな物を読むつもりはないのか?筋肉がそんなに好きなのか?」
「まぁ、人間の完成形はマッチョだと思っていますので。最近の若者のトレンドですよ?」
「……………」
俺は何も言うことが出来なかった。
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