幕間
お兄ちゃんへ
この手紙を読んでいるとき、私はもう……、って、何だろう、ゲームや漫画ではよくあるけど、自分で書くと、すごく変な文章だね。
この手紙は私が卵になったとき、たまきさんからお兄ちゃんに渡してもらうように頼んだものです。
たまきさんを責めたりしないでね。私が頼んだことだから。ちょっと迷ったけれど、こうすることを選びました。
おばあちゃんとお兄ちゃんが話していることを聞きました。私たち……、ていうか、私だね、やっぱり、おばあちゃんにとっては邪魔ものだったんだね。
それで、自分なりに頑張ってみようと思ったんだけれど、だめだった。
みんなから見れば、全然大したことじゃないのに、どうして私って、少しの間も教室にいられないんだろう。
久しぶりに、学校にあった日のことだって、言えば、大したことじゃない。
教室に入った瞬間、みんなが私のことを見た。興味津々の視線、背中越しに聞こえるひそひとした笑い声に、耐えることができませんでした。
急に胸がこみあげて、トイレに行く間もなく、教室で吐いてしまいました。そのときに向けられたみんなの……。
ううん、私がだめなだけだね。
どうして私って、みんなと同じことができないんだろう。
同じ場所にいるのにさ、私だけ、どこか違う場所にいる気がするの。
こんな自分が、いつかは変われるなんて思えなかった。
私って、頭もよくないし、運動神経だってないし、何の才能もないから、学校以外の場所で、生きていく自分も想像できなかった。
これから先、いいことがあるなんて思えなかった。わかるかな、一日一日ずつ、未来が先細っていく感じ。
……要するに、私って人間に向いていない。
そんなんだから、このままずっとひきこもったままでいたいって、心のどこかで思っています。傷つけられたくないし、自分から進んで傷つきたくもない。
それ、自分でもずるい人間だし、卑怯だと思う。
自分の弱さに隠れて、嫌なことから立ち向かわないで逃げてるだけだもんね。甘えてる。そのことは、やっぱりお兄ちゃんが言っていたとおりかもしれません。
でも、私がたまごもりをしたいのは、それだけじゃないよ。
そういうことも確かに理由の一つだけれど、私、お兄ちゃんに嫌われたくなかったし、お兄ちゃんのことを嫌いになりたくなかった。
お兄ちゃん、私たち、たぶんこのままじゃだめになっていたと思う。
私たちって、たぶん普通の家の子よりもずっと兄妹の仲が強いよね。単純に仲がいいとか悪いってことじゃないよ。
うまく言えないけれど、私たちって、いつもつながっていたよね。お母さんやお父さんがいないからかな、心のどこかでいつもいっしょだった。
小さいころから、お兄ちゃんは私の面倒を見てくれたよね。いっしょに歌った歌さ、覚えてる? 電子レンジの前で歌ったあれだよ。
おにいちゃん、なぁに? おにいちゃんっていいにおい。冷凍コロッケのにおいでしょ……、って。
親がいないかわりに、自分が何でもやらなきゃって思ってくれたのかな? 友達もいなかったし、私もそんなお兄ちゃんにずっと甘えていたね。
でも、それが今、お兄ちゃんのことを苦しめているんだと思います。
今の私、お兄ちゃんは好きじゃないよね。私もお兄ちゃんの期待に応えたかったけれど、できなかった。
なんだか、もう疲れました。
自分のだめさを責めるのと同じくらい、私もだんだんとお兄ちゃんが嫌いになっていって、それが嫌だし、どうしようもなく怖かった。
このままじゃあ、お兄ちゃんといっしょにもいられなくなる。もし嫌われて、捨てられたら、どうしよう、どうしようってずっと思ってた。
それに、お兄ちゃんも私がいたら、普通の人生を送れないよね。私、お兄ちゃんにとっても邪魔になるよね、きっと。
でもね、卵になったら、私、お兄ちゃんの邪魔にならないよ。迷惑もかけないよ。だから、そばに置いていて。
なんだか、長くなってごめんなさい。私のお願いはこれだけです。
じゃあ、元気でね。いつもご飯用意してくれて、心配してくれてありがとう。
こんな妹で、本当にごめんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます