ファンタジー転移冒険の書

キーポン

第1話

世界の声を聴く ~転移冒険譚~


いつもの朝だ・・

何も変わらない

期待に胸躍らせ、明日が待ち遠しい

そんな日がいつだったか、記憶にない

昨日もオンラインゲームで朝方までINしていた


- いつものオンラインゲーム -


それは全世界の人口約半数で遊ばれている

冒険をし、モンスターを狩り、いわゆる王道系ファンタジーの世界

そんな世界が、彼にとっては全てだ

現実世界では出来ないことが全て出来る

そんないつもの朝、寝室で目覚めた彼は

いつものようにPCに向かった


「ん?なんでPCついてんだ?」


昨日はOSのアップデート通知が来ていたので落としたはずだが・・・


【再起動にしてたかなー?】


頭の中で考えながら席に着く


「あれ?ゲームまでログインしてる」


彼はおかしいと思いながらも操作し始める


【じゃあいつもの日課から始めるか・・・】


そう思ってキーボードに手を触れた








「はっ?!」








ここ数年、夜たまにコンビニに行くくらいしか外出していない

そんな彼が居たのは・・・


ゴロン ガンッ!


後頭部を強打


「痛った!!!」


当然である

周りには何もない

いや、見渡す限りの草原

少しだけ起伏のある小さな丘の上

燦燦と太陽が降り注ぐ

突然そこに、椅子に座った姿勢で放りだされた


「痛って~、なんだよ!」


後頭部を抑えながら立ち上がる


「え?・・・」

「まてまてまて・・・」

「は?!」

「眩しいんだけど!!」


そこではない

突っ込むところはそこではない


「どうなってんだ・・・」


テロン♪

世:現着を確認。これより最適化を行います。


「うわあああああああ!」


彼をとんでもない苦痛が襲う


テロン♪

世:最適化完了。

彼の意識は闇へと誘われる







「ママー!なんかいるー!」


彼の意識が闇へと誘われる直前に聴こえてきたのは子供?のそんな言葉だった










「ん・・・んん・・・」


目覚めた彼が最初に見たものは・・・


「知らない天井・・・うわ?!」


ウサギだ

まごうことなきウサギ

手のひらに収まるサイズのウサギ


「ママー!お兄ちゃん起きたよー!」

【喋ってる・・・】

【なんでウサギが喋ってるのーーーー!!】

「へへへ ♪」


ニコニコと微笑むウサギ・・・の子供?


「えーと、おはよう?」

「おはよー!お兄ちゃんずっと寝てたんだよー!」

【お兄ちゃん・・・俺の事か?】

「そっかー、寝すぎちゃったかなー? 違う!!なんでウサギが喋ってるんだ!!」

「!!!」


びっくりしたウサギの目は次第に涙が溢れていく・・・


「ングッ・・グスッ・・ウェーーン!お兄ちゃんが怒ったー!」

【やらかした!!これはダメなパティーン!】

「ああああ、ごめんよー。お兄ちゃん?もびっくりしちゃってね。怒ってないから大丈夫だよ~」

「ホント?シアのこと怒ってない?グスッ・・・」

「ほんとだよ!こんなかわいい子に怒るわけないじゃないか~」

「かわいい?ほんと?へへへ」

【よかった・・・】

「それでここはどこかな?教えてくれるかな?」

「ウン!ここはシアのおうちだよー!」

【シア・・はこの子の名前かな】

「そっかーシアちゃんのおうちなんだね?」

「うん!ママと二人で住んでるのー!」


すると・・・

部屋の入口から声がかかる


「あら!起きたのね!」


今度は大きめのウサギ・・・


【まじかよ】

彼のそばに歩み寄るウサギ

先ほどのシアの倍ほどの大きさだ

しかも2本脚で立って歩いている


「あ、おはようございます。」


彼は挨拶をする


「あなた草原の丘の上で寝ていたのよ~。シアが見つけてね」

「そうなんですか?あまり記憶が無くて・・・」


彼はそう呟いた


【これは夢か?なぜウサギと喋っているんだ?】

「あら、それは困ったわねー」

「えーと、ここはどこなのでしょうか?」

「ここは私とシアのおうちよ」

「いえ、場所なんですが・・・」

「ああ、ここは ”ソイル村” よ」

「ソイル村・・・」

「ええ、フィフォス王国の北の外れにあるの」


彼は聞いたことのない地名に頭を悩ませる


【フィフォス王国・・・】

【いやまて、場所の前にウサギが喋ってる事が問題だろ】

「あのー、失礼ですがみなさんその・・・」

「ん?なにかしら」


彼はどう聞いていいかわからずに口ごもる


【なんて聞けばいいんだ?ウサギですかとも聞けないし・・・】


すると大きめのウサギが何かを察したのか話し始める


「あ、もしかしてこの姿かしら?」

「はい!」


彼は聞きたい事がわかってもらえて安堵する


「私たちは獣者と言う種族なのよ」

「王国以北で生活する種族はほとんどがそうよ」

【獣者・・・】

「そう。獣者の中のラビーという一族よ」

「そうなんですね。初めて見たので混乱してしまって・・・はは・・・」

【これは日本・・・いや地球じゃないな】


彼はすぐに思い至る

これは別の世界、異世界ではないか?と

考え始めていると・・・


「体調はどうなの?起きれそう?」


大きめのウサギが聞く


「あ、大丈夫そうです」

「じゃあ食事にしましょう!どうぞこちらに」


そう言って先ほどの入口から立ち去る


「お兄ちゃん!いこ~」


小さめのウサギ、シアに言われて彼は起き上がる


ゴッ!


天井に頭をぶつけてしまう


「痛っ!」

「うふふふふ」


周りを見渡す彼は納得する

ここはウサギの家、当然天井も低い

何もかもが小さい

もちろん出入口も


【これは立ち上がれないな・・・】


彼は手と膝で出入口に向かう

出入口が小さく、やっと通り抜けて出ると・・・


「えええ!?」


通り抜けたそこは切株の中をくり抜いた中心であった

先ほどの部屋と比べると、天井も高い

しかし、膝立ちできる程度だ


「お兄ちゃんは大きいから大変だね~」


そう言ってシアが笑う

彼の身長はおおよそ130cm

小学生、それも低学年ほどの身長だ


「ここは木の中?なのかな?」

「そうだよー!切株の中におうちがあるの!」

【なるほど、そこから各部屋につながっているのか・・・】

「さあさあ、そこの囲炉裏のそばに座ってね」

「お兄ちゃんこっちー!」


彼はシアに言われて囲炉裏のそばへ行く

囲炉裏も小さい

直径30cmほどだ


【火も使うのか・・・】


彼は動物なのに火が使えることを不思議に思っていた


「さあさあ、どうぞお召し上がり!」


大きめのウサギが持ってきたものは、直径20cm程のパイであった

彼のお腹が鳴る


ぐぅぅぅぅ・・・


「ふふ、どうぞ沢山食べてくださいね」


大きめのウサギが切り分けたパイをもらう

彼は一口で食べた


「うまい・・・」

「よかった!まだまだあるのよ~」


彼は知らないが、彼が倒れてから目覚めるまで丸2日経っていた

勢いよく食べる彼を見て、顔を見合わせ微笑む2匹


「ふぅ~うまかった!!」


彼はパイを5つもたいらげた


「お腹がいっぱいになったみたいで良かったわ」


大きいウサギが言う


「ママー、ホルトはいっぱい食べるんだね~?!」

「私たちとは体の大きさが違うからね~」

「そうだね!大きいもんね~」


【ホルト・・・?】


彼が疑問の顔を向けて大きいウサギを見る


「ああ、あなたたちの種族なんだけど違ったかしら?」

「いえ、すいません。ちょっとわからなくて・・・」

「あ、記憶が無いって言ってたわね~」

「多分そうだと思うんだけど・・・あとで長に聞いてみるわね」


彼は無言で頷き答える


「そうだ!外に出てみたらどうかしら?あなたにはここは狭そうだもの」


大きめのウサギは少し微笑みながら言う


「そうですね、外に出てみます」


彼は這いずりながら外への出入口へ向かう


「あ、待って!上から出たほうがいいわね」


大きめのウサギは上を指して言う


【上?】

「少し待ってね」


すると何処かへ向かう大きめのウサギ

しばらく待つと天井が少しづつ開き始める


【おお~!これはすごい】


彼は上を見上げながら思う


「さあどうぞ」


彼は立ち上がる

するとちょうど肩から上が外に出る


【森?の中か?】


周りは木々が立ち少しの野花が咲いている

彼は切株の縁に手をかけ体を持ち上げ外に出た


「ふぅ~」


彼は背伸びをし、固まった体をほぐす


「やっぱり大きいね~!」


そんな声が下から聞こえる

2匹も出てきたようだ


「これ、蓋?屋根?は閉めておいた方がいいですか?」

「あ、出来たらお願いね」


彼は慎重に閉めていく


【さて、どうしたものか・・・】

【あ、まずはお礼をしなきゃな】

「助けて頂いてありがとうございました!」


頭を下げる


「いいのよ~、シアが見つけてしまったからね」

「だってあのままじゃ、食べられちゃうよー!って思ったから・・・」

【食べられる?!は?!】

「え!食べられる?!」

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